弁護士、司法書士、社会保険労務士及び行政書士等が多数登録する専門家登録サイトを運営するX会社があります。同サイト上の弁護士、司法書士、社会保険労務士及び行政書士等は、サイト開設料及び月毎の利用料をX社に支払って、同サイトを利用する一般の専門的相談に無料で応じています。
ところで、「条解弁護士法」(日本弁護士連合会調査室編著・第4版・弘文堂刊)P652-P653)は、「本条(74条)2項により禁止されるのは、自らが法律相談その他法律事務を取り扱う旨の標示又は記載であり、法72条で禁止される周旋は本条2項には含まれない。沿革、他の法律との比較から明らかなとおり、本条の基本構造は、弁護士(弁護士法人)たることを誤信させるような標示・記載の禁止であるから、非弁護士(非弁護士法人)が非弁護士(非弁護士法人)であることを明らかにしたまま、単に弁護士(弁護士法人)への周旋をなす旨の標示・記載をなすことは、上記の基本構造から外れるとして、これを禁止の対象から除外したものと考えられる(非弁護士(非弁護士法人)による周旋が法72条に該当する場合に至った場合には、同条違反として処罰されるべきことは当然である))」との解釈基準を示します。
同時に、「条解弁護士法」(日本弁護士連合会調査室編著・第4版・弘文堂刊)P622)は、「本条(72条)本文後段は、弁護士又は弁護士法人でない者が法律事務を取り扱うことを知って、その者に事件を周旋することを業とすることはもちろん、正規の弁護士又は弁護士法人に対して事件を周旋することを業とすることをも取り締まる趣旨である」との解釈基準を示します。
一方、「周旋」とは、「依頼を受けて、訴訟事件等の当事者と鑑定、代理、仲裁、和解等をなす者との間に介在し、両者間における委任関係その他の関係成立のための便宜を図り、その成立を容易ならしめる行為を言い(名古屋高金沢支判昭和34・2・19下刑集1巻2号308頁)、必ずしも委任等の関係成立の現場にあって直接関与介入することを要せず、例えば、電話連絡であってもよい(大判昭和13・2・15判決全集5巻5号43頁)」(「条解弁護士法」(日本弁護士連合会調査室編著・第4版・弘文堂刊)P622)と定義されています。
そこで、X社による専門家登録サイトの運営は、弁護士法72条の「周旋」に該当するように思われます。ただし、X社を法的に規制すれば良いかと言えば、それが最善策とも思えません。
次に、X社の専門家登録サイトに登録して活動する司法書士、社会保険労務士及び行政書士等の多数の隣接法律職は、同サイト利用者の専門的相談に無料で応じていますが、これらの相談が弁護士法72条に違反しないかということです。
      弁護士法72条本文は、「弁護士又は弁護士法人でない者」が「法律事務」を取り扱うことを禁止しますが、「報酬を得る目的」及び「業として」という2つの要件を規定します。この点に関し、最高裁は、「報酬を得る目的」及び「業として」為された場合の両方の要件を満たした場合にのみ弁護士法72条違反となるとの見解を示しました(最判昭和46年7月14日刑集25巻5号690頁)。したがって、報酬を得る目的」又は「業として」のいずれかの要件を欠いた場合には、弁護士法72条に違反しません。そこで、X社の専門家登録サイトに登録して活動する司法書士、社会保険労務士及び行政書士等の多数の隣接法律職は、同サイト利用者の専門的相談に無料で応じていますから、弁護士法72条に違反しないと思われます。
ところが、無料相談も弁護士法72条に違反すると解釈する弁護士及び認定司法書士の方がいらっしゃいます。また、検察庁や裁判所も隣接法律職が無料法律相談を行うことに対してはかなり懐疑的な見解を持っています。実際、横浜地方検察庁や東京地方裁判所でも隣接法律職の業際範囲の幅を広げることを抑止するような見解が示されています。とはいえ、隣接法律職の無料法律相談は、実社会に既成事実として存在し実施されています。もっとも、実質的な内容は法律相談なのに弁護士会に遠慮して「法律」を削除して「無料相談」と呼んでいます。弁護士会は、隣接法律職が英語の”lawyer”を使用するのにも異議を唱えます。しかしながら、これも字義的に正しい英語表現に基づくというよりもむしろ、弁護士のプライド及び既得権益の確保に本質的な原因があるとしか思えません(http://blogs.yahoo.co.jp/marvellous157/6716040.html)。
とはいえ、日弁連は、「報酬を得る目的」に関し、法律事務を取り扱うことと報酬は、直接的又は間接的な対価関係にあることを要し、「無料で奉仕する場合、大学の法学部で教授、学生が無料法律相談を実施する場合、全く報酬に関係なく法律上の助言や指導を行う場合等は、本条違反にならない」との見解を示します(「条解弁護士法」(日本弁護士連合会調査室編著第四版・弘文堂刊))。この点に関し、日本弁護士連合会は、間接的対価関係として会費や入会金を取って法律相談を提供する場合を例示します。しかしながら、X社の専門家登録サイトに登録して活動する司法書士、社会保険労務士及び行政書士等の多数の隣接法律職は、X社に毎月登録料を支払って無償で利用者の法律相談に応じ、利用者は専門相談に対する対価を何ら支払いません。したがって、登録専門家の相談と対価的関連性にある「報酬」は存在せず、弁護士法72条違反は成立しないと考えられます。
      私の知人の中には、法テラスの無料法律相談に行ったが、「法的に問題ない」と説得されるだけでほとんど「事無かれ」主義の態度を貫き、問題に対する具体的な法的見解を示してもらえなかったという方がいらっしゃいます。また、ある方は、離婚調停で某弁護士からひどく侮辱され、弁護士懲戒請求を他の弁護士に依頼したら、「同僚は売れない」と言って引き受けてもらえなかったということです。このような話は、この方々だけではなく、世間一般で時々耳にします。
ところで、弁護士に訴訟を依頼すると、格安の弁護士でも最低20万円程度以上弁護士報酬が見込まれる事件しか引き受けず、平均的には最低50万円の弁護士報酬を覚悟しなければ引き受けてもらえないのが現実のようです。しかしながら、平均年収400万円程度のサラリーマンの家計にとっては、50万円の弁護士報酬の支払は過酷です。
    ちなみに、法科大学院を開設し、法曹養成に力を入れ、弁護士数を増加し、日本を法化社会にするというのが政府の当初の方針でした。しかしながら、国民による弁護士及び裁判の利用数は思うように増加しないのが現実のようです。これは、現実には国民は弁護士数が少ないから弁護士を積極的に利用し得ないのではなく、弁護士費用が未だ高額であり国民の経済的余裕を凌駕していること及び国民の司法に対する信頼が十分に高まっていないことに原因があると考えられます。弁護士数の増加で法律サービスの利用促進を図り法化社会の実現することを目論んだ政府の思惑ははずれたように思えます。
思うに、仮に弁護士自身が弁護士費用20万円未満の業務を引き受ける意思がないのに行政書士を含む隣接法律職を弁護士費用20万円未満の業務から弁護士法違反を理由に積極的に排除するのは国民の法的救済の必要性を考えると現実的ではない気がします。
    低所得者層及び貧困層の法的救済のために仮に弁護士ほど完全な法律サービスが提供できないとしても、二十万円未満の少額法律サービスを隣接法律職に開放して自由化しても深刻な問題を惹き起こすとは思えません。なるほど、弁護士会は既得権益の確保に誠に熱心と言わざるを得ません。なお、裁判官及び検察官も将来退官後に弁護士になることを見込んでいるので弁護士の業際範囲の幅が狭まることを好まないようです。