大津中学2年生の男子生徒が飛び降り自殺した事件に関し、7月7日付の毎日新聞は、「大津市で昨年10月、いじめを受けた市立中学2年の男子生徒(当時13歳)が飛び降り自殺した問題で、生徒の父親(47)が滋賀県警に被害届を再び提出する意向を固めたことが7日、関係者への取材で分かった。父親はこれまで『同級生から暴行を受けていた』とする被害届を県警大津署に3回提出しようとしたが、いずれも受理を拒否されている。学校側は男子生徒の自殺後、全校生徒対象のアンケートを実施。複数の生徒からいじめを受けていた事実が判明した。暴行に関する説明もあったため、父親が昨年10月に2回、同12月に1回、同署を訪れて『被害届を出したい』と相談したが、『被害者が死亡しており、事件にするのは難しい』などと断られたという。同署の福永正行副署長は5日、『遺書もなく、犯罪事実の認定に困難な部分があると説明させていただいた。被害届の受理を拒否する意図はなかったと、当時の担当者から報告を受けている』と取材に答えている。」との記事を掲載しています。
 
ここで、大津警察署は、被害者死亡や証拠の不十分さ等から刑事事件として立件することが困難であるという理由で父親の被害届を3回に渡って受理を拒否しました。確かに、生徒の父親は法律専門家ではないから具体的にどの構成要件に該当してどの犯罪が成立するかを知る由もありませんが、一般人の感覚でも自殺した自分の息子が暴行を受けたことが犯罪に該当することくらいは解るはずです。また、アンケート調査の内容等を精査すると、傷害罪、脅迫罪、強要罪、侮辱罪、名誉毀損罪及び自殺教唆罪等も成立しそうです。なるほど、犯罪捜査規範4条では、「1項、捜査を行うに当たっては、証拠によって事案を明らかにしなければならない。 2項、捜査を行うに当たっては、先入観にとらわれず、根拠に基づかない推測を排除し、被疑者その他の関係者の供述を過信することなく、基礎的捜査を徹底し、物的証拠を始めとするあらゆる証拠の発見収集に努めるとともに、鑑識施設及び資料を十分に活用して、捜査を合理的に進めるようにしなければならない。」と合理捜査の原則を規定しており、警察は、生徒たちの間接目撃情報及び父親の供述のみでは合理的に刑事事件として立件するのは難しいと判断したのかもしれません。
        しかしながら、犯罪捜査規範59条では、「警察官は、新聞紙その他の出版物の記事、インターネットを利用して提供される情報、匿名の申告、風説その他広く社会の事象に注意するとともに、警ら、職務質問等の励行により、進んで捜査の端緒を得ることに努めなければならない。」と規定されており、同条項の「新聞紙その他の出版物の記事、インターネットを利用して提供される情報、匿名の申告、風説その他広く社会の事象」等の例示から考えれば、これだけ多数の生徒たちの間接目撃情報及び父親の供述は確認の必要があり十分に捜査の端緒となり得ると思われます。同時に、犯罪捜査規範61条1項は、「警察官は、犯罪による被害の届出をする者があったときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない。」と被害届の受理義務に関する規定を置いていますが、これは、文理上、刑事事件としての立件可能性を被害届受理の条件にしているようには読めません。そもそも実際に捜査してみなければ刑事事件として立件可能かどうかはわかりませんから、刑事事件としての立件可能性を条件に被害届の受理・不受理を決定するのはナンセンスです。場合によっては、軽微な事件を端緒として、重大事件の発覚につながる可能性すらあります。
        ところで、警察事情に詳しい方からの情報によれば、警察が告訴状や被害届の受理を渋る理由の1つは、被害届や告訴状の受理事件数の増加検挙率の低下統計上の治安の悪化警察の威信低下という構造があるからのようです。しかしながら、仮に統計上の検挙率を低下させても、現に捜査すべき事件を捜査せずに犯罪を放置しているとすれば、実際には治安を悪化させていることになるはずです。今回の大津中学2年生男子生徒自殺事件に関しても、マスコミがテレビや新聞上で大騒ぎすると迅速に警察が強制捜査に着手したことからも推察できるように、警察の真の関心は、「実際の治安の悪化」よりもむしろ「統計上の治安の悪化」乃至「警察の威信低下」にあるようです。とはいえ、結局、警察が本件に関する捜査に着手したこと自体は良かったと言わざるを得ません。これにより真相が解明されれば、それこそが最善です。
もっとも、警察が捜査に着手する不確実な事件の数が増加すれば、統計上の検挙率が低下するとともに警察の捜査が徒労に終わる可能性は高くなります。一方、警察や検察が徒労を嫌い確実と思われる事件ばかりを選別して捜査に着手し起訴に持ち込もうとするから、逮捕状発付率99.96%及び有罪率99.98%(簡裁を含む第一審有罪率)という異常な高率になり冤罪が生み出される結果になるわけです。すなわち、検察や警察が、逮捕状発付率99.96%及び有罪率99.98%という世界に例のないほどの異常な高率を維持し、統計上の治安の悪化を嫌い、社会に対する検察や警察の威信低下を防ごうとすれば、必然的に告訴状や被害届の受理を渋る傾向が醸成される結果になると思われます(http://blogs.yahoo.co.jp/marvellous157/16127257.html)。
ちなみに、私の知人が強要罪で首都圏の某警察署に被害届を提出しに行ったところ、巡査部長クラスの刑事が対応して、十分な説明もなしに短時間で被害届の受理を拒否されました。そこで、私が県警本部の告訴担当部門に相談に行くように同人にアドバイスすると、同人は、県警察本部告訴担当部門に相談に行きました。すると、県警本部の担当者は丁寧に対応して「所轄署にはキチンとした対応をするように書面で通知しておきますから・・・」とのことだったので、しばらく後に同警察署に再度被害届を提出に行きました。すると、先の巡査部長らしき刑事が再度対応して、「あんた、県警本部にまで相談に行ったのかい・・・身体に危害が及ぶような暴行を手段としてしなければ、強要罪は成立しないよ・・・」などと言って、今度は警察OBによる地域住民相談に回されました。そこで、私は、同人に被害届ではなく告訴状を配達証明郵便で署長宛てに直送するようにアドバイスしました。すると、告訴状配達日の翌日午後早くに電話がかかってきて、例の刑事が「告訴状を受理する方向で手続を進めるから、署に来てください・・・」との話でした。なんと警察の対応が豹変したのです。
実は、同告訴状配達日に今回の大津中学2年生男子生徒自殺事件に関して警察が父親の被害届を3回も受理を拒否した事実がテレビや新聞で初めて大々的に報道されたのです。同日は、以前にも警察が告訴状や被害届の受理を渋っている間に被害者が殺害されたり事態が悪化する事件が何件も起きていたので、マスコミの論調も「またか・・・」という感じで、橋下徹大阪市長もテレビのインタビューで「こんなひどい話があるか・・・」と涙を流していたので、かなり世間に対するインパクトは大きかったと思います。けだし、事件に関する大々的報道が所轄署による告訴状の受理を触発したことは間違いありません。
ちなみに、各警察署で最初に対応する巡査部長クラスの刑事は、犯罪被害が重大で事件性や証拠が明白である場合以外には、滅多に告訴状や被害届を素直に受理したり上司に話を進めたりしません。そして、一つ念頭に置いておくべきことは、巡査部長程度の警察官は法律専門家ではなく、刑法や刑事訴訟法の知識も十分でない場合が多いということです。でも、そこで諦めたらまず刑事事件として立件される道は断たれます。被害者は、県警本部に相談したり、署長宛てに被害届や告訴状を直送したり、監察や都道府県公安委員会を利用したり、等、もう少し執念深く粘った方がいいと思います。