10月18日ウェブ版週刊朝日は、警察庁の片桐裕長官が、同日、一連のパソコン遠隔操作による「なりすまし」ウイルス事件で、大阪や三重など4都府県警が逮捕した4人は誤認逮捕だったと認めたことを報道しました。誤認逮捕された被疑者の1人である19歳の大学生は、当初「身に覚えがない」と否認していましたが、結局、刑事に「認めないと罪が重くなる」と自白を強要され罪状を認めました。その後、家庭裁判所でも検察官の判断に何ら疑問が示されず「保護観察処分」が下されました。
 
ところで、日本の刑事裁判所における地方裁判所及び簡易裁判所を含めた第一審有罪率は99.98%(略式起訴も含む)ですが、検察官が起訴すべき案件を慎重に選別しているので法律的・道義的に問題はないという説明が長年に渡り為されてきました(http://blogs.yahoo.co.jp/marvellous157/GALLERY/show_image_v2.html?id=http%3A%2F%2Fimg2.blogs.yahoo.co.jp%2Fybi%2F1%2F13%2F06%2Fmarvellous157%2Ffolder%2F254574%2Fimg_254574_15459851_10%3F1341666392)。
 
しかしながら、今回の事件を含めて最近の頻発する冤罪から考えると、「検察官による起訴すべき案件の慎重な選別」という説明にも疑問符を付さざるを得ません。ましてや家庭裁判所が検察官の判断に何ら疑問が示さず下した「保護観察処分」は、検察官の判断に対する「めくら判」と言っても過言ではありません。刑事事件における有罪率99.98%及び否認事件には執行猶予すら付かない可能性が高い司法の現実を考えれば、大学生が結局刑事に「認めないと罪が重くなる」と自白を強要され罪状を認めたのも無理はないように思えます(http://blogs.yahoo.co.jp/marvellous157/16127257.html)。
 
一方、少し過去のことになりますが、大津中学2年生の男子生徒が飛び降り自殺した事件に関し、今年7月7日付の毎日新聞は、「大津市で昨年10月、いじめを受けた市立中学2年の男子生徒(当時13歳)が飛び降り自殺した問題で、生徒の父親(47)が滋賀県警に被害届を再び提出する意向を固めたことが7日、関係者への取材で分かった。父親はこれまで『同級生から暴行を受けていた』とする被害届を県警大津署に3回提出しようとしたが、いずれも受理を拒否されている。学校側は男子生徒の自殺後、全校生徒対象のアンケートを実施。複数の生徒からいじめを受けていた事実が判明した。暴行に関する説明もあったため、父親が昨年10月に2回、同12月に1回、同署を訪れて『被害届を出したい』と相談したが、『被害者が死亡しており、事件にするのは難しい』などと断られたという。同署の福永正行副署長は5日、『遺書もなく、犯罪事実の認定に困難な部分があると説明させていただいた。被害届の受理を拒否する意図はなかったと、当時の担当者から報告を受けている』と取材に答えている。」との記事を掲載しています。ここで、大津警察署は、被害者死亡や証拠の不十分さ等から刑事事件として立件することが困難であるという理由で父親の被害届を3回に渡って受理を拒否しました。確かに、生徒の父親は法律専門家ではないから具体的にどの構成要件に該当してどの犯罪が成立するかを知る由もありませんが、一般人の感覚でも自殺した自分の息子が暴行を受けたことが犯罪に該当することくらいは解るはずです。また、アンケート調査の内容等を精査すると、傷害罪、脅迫罪、強要罪、侮辱罪、名誉毀損罪及び自殺教唆罪等も成立しそうです。
 
なるほど、犯罪捜査規範4条では、「1項、捜査を行うに当たっては、証拠によって事案を明らかにしなければならない。 2項、捜査を行うに当たっては、先入観にとらわれず、根拠に基づかない推測を排除し、被疑者その他の関係者の供述を過信することなく、基礎的捜査を徹底し、物的証拠を始めとするあらゆる証拠の発見収集に努めるとともに、鑑識施設及び資料を十分に活用して、捜査を合理的に進めるようにしなければならない。」と合理捜査の原則を規定しており、警察は、生徒たちの間接目撃情報及び父親の供述のみでは合理的に刑事事件として立件するのは難しいと判断したのかもしれません。
 
しかしながら、犯罪捜査規範59条では、「警察官は、新聞紙その他の出版物の記事、インターネットを利用して提供される情報、匿名の申告、風説その他広く社会の事象に注意するとともに、警ら、職務質問等の励行により、進んで捜査の端緒を得ることに努めなければならない。」と規定されており、同条項の「新聞紙その他の出版物の記事、インターネットを利用して提供される情報、匿名の申告、風説その他広く社会の事象」等の例示から考えれば、これだけ多数の生徒たちの間接目撃情報及び父親の供述は確認の必要があり十分に捜査の端緒となり得ると思われます。同時に、犯罪捜査規範61条1項は、「警察官は、犯罪による被害の届出をする者があったときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない。」と被害届の受理義務に関する規定を置いていますが、これは、文理上、刑事事件としての立件可能性を被害届受理の条件にしているようには読めません。そもそも実際に捜査してみなければ刑事事件として立件可能かどうかはわかりませんから、刑事事件としての立件可能性を条件に被害届の受理・不受理を決定するのはナンセンスです。場合によっては、軽微な事件を端緒として、重大事件の発覚につながる可能性すらあります。
 
また、兵庫・尼崎連続死体遺棄事件で、兵庫県警と香川県警は、相当期間に渡って事件を感知していましたが、「家庭内の問題に警察は介入できない」と言って、捜査に着手しなかったとのことです。
 
ところで、警察事情に詳しい方からの情報によれば、警察が告訴状や被害届の受理を渋る理由の1つは、被害届や告訴状の受理事件数の増加検挙率の低下統計上の治安の悪化警察の威信低下という構造があるからのようです。しかしながら、仮に統計上の検挙率を低下させても、現に捜査すべき事件を捜査せずに犯罪を放置しているとすれば、実際には治安を悪化させていることになるはずです。今回の大津中学2年生男子生徒自殺事件に関しても、マスコミがテレビや新聞上で大騒ぎすると迅速に警察が強制捜査に着手したことからも推察できるように、警察の真の関心は、「実際の治安の悪化」よりもむしろ「統計上の治安の悪化」乃至「警察の威信低下」にあるようです。また、警察官が出世の妨げになることや懲戒処分を恐れ、家庭問題や民事不介入を楯にとって捜査に着手しない例も多いようです。
 
もっとも、警察が捜査に着手する不確実な事件の数が増加すれば、統計上の検挙率が低下するとともに警察の捜査が徒労に終わる可能性は高くなります。一方、警察や検察が徒労を嫌い確実と思われる事件ばかりを選別して捜査に着手し起訴に持ち込もうとするから、逮捕状発付率99.96%及び有罪率99.98%(簡裁を含む第一審有罪率)という異常な高率になり冤罪が生み出される結果になるわけです。すなわち、検察や警察が、逮捕状発付率99.96%及び有罪率99.98%という世界に例のないほどの異常な高率を維持し、統計上の治安の悪化を嫌い、社会に対する検察や警察の威信低下を防ごうとすれば、必然的に告訴状や被害届の受理を渋る傾向が醸成される結果になると思われます(http://blogs.yahoo.co.jp/marvellous157/16127257.html)。
ちなみに、各警察署で最初に対応する巡査部長クラスの刑事は、犯罪被害が重大で事件性や証拠が明白である場合以外には、滅多に告訴状や被害届を素直に受理したり上司に話を進めたりしません。そして、一つ念頭に置いておくべきことは、巡査部長程度の司法警察員は決して法律専門家ではなく、刑法や刑事訴訟法の知識も不十分な場合が多いということです。