毎日新聞5月17日付ウェブ版によれば、「日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長は17日朝、従軍慰安婦を巡る自身の発言を米政府が批判していることについて『アメリカの日本占領期では日本人女性を活用したのではなかったのか。自国のことを棚に上げて日本だけを批判するアメリカはアンフェアだ』とツイッターで反論した」とのことです。
 
確かに、日本政府は、昭和20年占領軍受け入れに際して1億円の予算を投じ国営売春施設「特殊慰安施設協会」を設置しました。これには占領軍兵士の性欲を満たし、良家の子女を保護する目的がありましたが、アメリカ政府の要請があったわけではありません(実際には最盛期には約7万人の娼婦がいました)。しかしながら、結果として米軍兵士及び売春女性の間に性病が蔓延し、昭和21年3月27日、GHQは国営売春施設「特殊慰安施設協会」を廃止させました。これは「帰国した兵士が性病に感染している」と彼らの妻や母親からGHQに多数の抗議が寄せられたことに起因します。同時に、アメリカの国内では、売春行為を非人道的・反民主主義的行為として世論が彷彿としました。
 
ところで、戦前の日本では、人身売買による公娼制度が存在しましたが、戦後、1946年1月、GHQは、日本民主化の一環として日本政府に対して公娼制度の廃止を要求しました。これにより人身売買による強制的な売春制度は存在しなくなったものの、女性の自由意思に基づく売春制度は、1956年に売春防止法が制定されるまで存続しました。上記の国営売春施設「特殊慰安施設協会」は、建前上は女性の自由意思に基づいていたようです。一方、日本人を対象にした売春制度としては赤線が有名です。これは警察が吉原や東向島等の売春営業が合法化された地帯を地図上に赤線で囲んでいたことから付いた名称です。
 
これに対し、制度化されない街娼(通称「パンパン」)も昭和20年から存在が確認されています。某統計によれば、1946年には日本全国で7万から8万人、朝鮮戦争の激化した1952年には15万人近くのパンパンがいたとされています。これは当時生活に困窮した日本人女性が生計を立てるために占領軍兵士を相手に売春をしたものです。なお、同様の傾向は、旧ソ連崩壊後のロシアや東ヨーロッパでも見られ、多数の女性がホテルや飲食店を通して売春の斡旋を受け金銭を稼いでいました。もっとも、1956年の売春防止法の制定により、赤線もパンパンも規制されました。
 
次に、アメリカ国務省人身売買監視対策室(2006年人身売買報告書)は、「・・・日本は、商業的な性的搾取のために売買される男女や子どもの目的国および通過国となっている。人身売買の被害者の大半は、合法的な仕事を求めて日本へ移動してくるものの、だまされたり強制されたりして、借金に縛られ、あるいは性的奴隷状態となった外国人女性である。中国人およびタイ人の移民が強制労働で搾取されているとの事例報告もある。女性や子どもは、主としてタイ、フィリピン、ロシア、および東ヨーロッパから、商業的な性的搾取のために日本へ売買されている。これより規模は小さいが、コロンビア、ブラジル、メキシコ、韓国、マレーシア、ビルマ、およびインドネシアからも、女性や子どもが性的奴隷として日本へ売買されている。日本人の未成年女子が性的搾取のために国内で人身売買される問題も継続している。日本における人身売買被害者数についてのはっきりとした推計はないが、被害者は相当数に上るという点で大方の意見が一致しており・・・」と報告しています。

以上のような日本の歴史及び現状を踏まえれば、橋下代表が記者会見でアメリカ政府の非難に対して全日本人を代表して「日本人の価値観はアメリカ人とは違うことを認識していなかったのは国際感覚に欠けていた」と謝罪したり、戦後アメリカも日本の売春制度を利用したとの反論は当を得ないことが理解できます。すなわち、橋下氏が主張するアメリカ人と違う日本人の価値観とは、「売春OK」を意味する戦後GHQにより公娼制度が廃止される以前のものであり、現在は性的搾取のための人身売買国家として非難されている日本の立場を全く認識していません。決して日本人の現在の価値観は「売春OK」ではなく、現在も売春行為(いわゆる本番行為)は不道徳かつ違法な行為であり、未だにこのために検挙される風俗嬢も少なくありません。橋下氏は全く勝手に日本人の価値観を決めているとしか言えません。けだし、橋本氏自身の価値観や習慣がそうだから売春制度に対して肯定的なのだろうと疑わざるをえません。アメリカが「アンフェア」と言う前に、太平洋戦争直後の日本政府と同じように、橋下氏が公的に売春制度を実施させようとする愚を繰り返しているということを公言せざるをえません。