はじめに

両手をみぞおちに当てて、頭と骨盤を止めたまま、胸だけを動かしてみてください。

頭が動く。骨盤が動く。肩がすくむ。
このどれかが起きた方は、胴体が一つの塊として動いています。

胸を動かすというのは、肋骨を動かすということです。
肋骨が固まっていれば、呼吸も浅いままになります。

そしてこの状態でストレッチや筋トレをやっても、狙った場所は動きません。動く場所だけが余計に動く。代償が強化されるだけになります。

姿勢矯正トレーナー Regulusの星子豊英です。今日は「測る力」の2つ目、胸の独立運動です。腸腰筋が動いているかどうかを見る指標になります。先に言っておきますが、これができる方はほとんどいません。できなくても、気にしないでください。

胸だけを動かせますか?

やり方をお伝えします。

膝を軽く緩めて、母趾球側で立ち、やや前傾します。指3本ずつでみぞおちに手を置いてください。頭と骨盤を動かさずに、胸だけを独立して、円を描くようにゆっくり動かしてみてください。

頭や肩が動くのはダメです。骨盤も一緒に動かないように。

多くの方は、難しいと思います。
なぜなら、胴体が一つの塊だから。どこか一箇所を動かそうとしても、全部が一緒に動いてしまう状態です。

やり方と、たいてい起きる三つのこと

やってみると、ほとんどの方に次のどれかが起こります。

一つ目、頭が一緒に動く。
二つ目、骨盤がついて動く。
三つ目、肩がすくんで上がる。

この三つのどれかが起きていたら、胴体が分かれて動かない状態です。胸だけを動かしているつもりで、周りのどこかが代償して働いています。

できなくて構いません。今の自分の状態を正確に知ることが、測る力の目的です。

動かす前に、肩の位置を見る

動きに入る前に、鏡で肩の位置を見てください。
肩が高い位置にありませんか。そして、前に巻いていませんか。

肩が高くて巻き肩になっている時点で、腸腰筋は活性化していません。胸郭や肩甲骨付近も硬くなっています。

よくある誤解を一つ解いておきます。
「自分はなで肩だから」とおっしゃる方がいます。実際に見ると、なで肩に見える方のほとんどが巻き肩になっています。肩は低いけれど、内側に巻いている。そして肩にはしっかり力が入っています。

分かりやすいのは鎖骨です。肩に力が入って巻いていると、鎖骨がくっきり浮き出ます。

肩の力を抜くためには、重心、癒着、腸腰筋の活性化がポイントです。

なぜ腸腰筋の指標なのか

腸腰筋は、胴体の芯にある筋肉です。腰椎から太ももの付け根付近につながっています。内臓の後ろ側を通っているので、触れません。見えません。

だから多くの方が困ります。
腸腰筋トレーニングをやっていても、効いているかどうか、動いているかどうか分からない。「効いている感じがする」という感覚は、当てになりません。

大体の場合、腹直筋や太ももの前側が代償して働いています。

ではどうやって判定するのか。動きで見ます。
感覚ではなく、事実で判定する。これが指標動作の意味です。

胸だけを独立して動かせる方は、胴体の中の腸腰筋がしなやかに動いています。
動かせない方は、胴体が癒着していて、塊として動くしかない状態です。

肋骨が固まると、呼吸が浅くなる

もう一つ大事なのが肋骨です。
腸腰筋は、肋骨とも密接につながっています。胸を動かすというのは、肋骨も動かすことにつながります。

肋骨がガチガチに癒着している方は、頭と骨盤を動かさずにこの動きはできません。独立して動くはずの肋骨が、板のように固まっているからです。だから胸を動かそうとすると、胴体全体が動いてしまいます。

この肋骨が動いていない方は、呼吸が浅くなります。

息を吸うというのは、肋骨が広がるということです。広がらなければ、吸える量が限られます。浅いから動かなくなり、動かないからさらに呼吸が浅くなる。この繰り返しが、何十年も続いています。

胸の独立ができないというのは、腸腰筋が動いていないサインであると同時に、肋骨が固まっているサインでもあります。

ストレッチも筋トレも、代償になる

胴体が塊のまま、ストレッチをするとどうなるか。

伸ばしたい場所は動きません。代わりに、動く場所だけが余計に動きます。

筋トレも同じです。腸腰筋を鍛えようとして、腹直筋や太ももの前側が働く。エクササイズの動画を真似しても、形だけ似て、中身が違う。

だから、やっているのに変わらない。
効いている場所が、狙っている場所ではないからです。

これを代償動作と言います。

一箇所が動かないぶんを、別の場所が肩代わりする。その状態で回数を重ねると、代償のほうが上手になっていきます。

緩める前に鍛えると、代償が強化されるだけです。

だから順番があります。まず緩める。それから、使う。
姿勢の五つの力の三番目と四番目の話につながっていきます。

胸骨と横隔膜、呼吸と発声

もう一つやっていただきたい動きがあります。
今度は胸骨です。

少し膝を緩めて、母趾球側で立ち、肩を動かさずに、胸骨だけを前後に動かしてみてください。肩が動いてはダメです。

この動きがなぜ大事なのか。

胸骨のすぐ下に、横隔膜があります。呼吸の主役になる筋肉です。腸腰筋と筋膜で密接につながっていて、解剖学的にも機能的にも、ほとんど隣り同士です。

だから、胸骨が動くようになると、横隔膜が動くようになります。横隔膜が動くと、呼吸が深くなります。

声を使う方は、特に関係があります。
声は呼吸の延長です。息が浅ければ、声に張りは出ません。胸骨が動くと、ブレスがしやすくなります。歌う方、人前で話す方、プレゼンをする方。ボイストレーニングの前に、ここが動くかどうかが重要です。

そしてもう一つ、胸にリズムが生まれます。
呼吸に合わせて胸が動く。動くから息が入る。入るから、また動く。

ギター、ピアノ、音楽関係はもちろんですが、これがスポーツなどの動きにもつながっていきます。
一括りの胴体では、このリズムが生まれません。

できるとどう変わっていくか

できるようになると、どう変わっていくか。

最初は大きく動かします。
さらに腸腰筋の感覚が進化すると、動きが小さく、精密になっていきます。

大きく動かすだけでなく、狙ったところが動く。

そして、首の根元、みぞおち、おへその3点を、独立して動かせるようになっていきます。頭と骨盤が動かずに、です。

この3点が別々に動くようになると、呼吸がさらに変わります。

ただ、ここまで来るには時間がかかります。
最初は全く動かなくても気にしないでください。ほぼ全員が同じスタートラインです。私も最初は、1mmも動きませんでした。

スポーツ競技と股関節

ボディフェイントや、キレのある動き。
才能の話に見えますが、胴体が分かれて動くかどうかで、かなりの部分が決まっていきます。

一流の選手を見てください。
胴体が塊で動いている人はいません。首、胸、腰、骨盤、股関節。それぞれが別々に動いて、しなやかに連動しています。

だからフェイントが効くし、方向転換が速いし、無駄な力みがない。

これは日常生活でも同じです。
胴体が分かれて動く体のほうが、立ち上がる、振り向く、物を持ち上げる、どの動きも軽くなります。

脚の軽さ、腰痛、股関節痛、歩き方

腸腰筋が働き始めると、変わるのは胸の動きだけではありません。

まず、脚が軽くなります。
腸腰筋は太ももの付け根につながっています。ここが働くと、脚は付け根から持ち上がる。働いていないと、太ももの前側で持ち上げることになり、股関節や腰にも負担がかかります。脚もパンパンになるので、脚痩せもしません。

腰痛にも直結します。
腰痛の方は、腰椎に常に圧力がかかっています。この圧力を抜く方法は、マッサージや整体では一時的です。重心を股関節にして、腸腰筋で体幹部分を保持できるようになると、腰椎の圧力が抜けて、腰痛が解消していきます。

股関節の痛みも同じです。
腸腰筋が硬いまま股関節を動かすと、詰まった感じが出ます。可動域を広げようとストレッチをしても、この重要な腸腰筋が働いていなければ、根本は変わりません。

歩き方も変わります。
股関節に乗ったまま、腸腰筋で脚を引き上げられるようになると、一歩一歩が軽くなり、呼吸が深いまま歩けるようになります。

前回とのつながり

前回の話とつなげておきます。

前回の手の軽さは、股関節に乗れているかどうかを見ました。
今日の胸の独立は、乗ったまま動けるかどうかを見ています。

立っているだけなら、股関節に乗れる方はいます。
でも、動いた瞬間に胴体がガチガチだと、重心が外れます。

どんな動きをしても、仙骨と両股関節を三角形で結んだ中に重心を収めること。そのためには、腸腰筋を活性化しないといけません。

まとめ

今日は、測る力の2つ目。胸の独立運動でした。

できれば、腸腰筋が動いている証拠。
できなければ、胴体が一括りの塊になっている証拠です。

腸腰筋は外から触れませんし、見えません。だからこそ、感覚ではなく、動きの事実で判定します。

そして、これが動くようになると、脚が軽くなり、呼吸も深くなり、腰や股関節の負担が減っていきます。

できなくて構いません。今の自分の状態を知ることが、測る力です。

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