「ロコモティブシンドローム」と聞くと、多くの方はお年寄りの話だと思われるかもしれません。ところが今、同じ言葉が子どもたちに使われ始めています。「子どもロコモ」。立つ、歩く、しゃがむ、手を挙げるといった、体を動かすいちばん基本の力が育たないまま大きくなってしまう子が、はっきりと増えているのです。

しゃがもうとすると後ろに転んでしまう。片足で5秒立てない。手を真上にまっすぐ挙げられない。前屈で指が床に届かない。少し前の時代なら当たり前にできたことが、できない子が珍しくなくなりました。これは一部の運動が苦手な子の話ではありません。子どもたち全体に静かに広がっている、いわば時代の変化です。

数字が示す、見過ごせない現実
整形外科医で子どもロコモの対策にいち早く取り組んできた方が、6年間にわたり就学時から小中学生まで運動器検診を続けてこられました。片足立ち、しゃがみ込み、肩の挙上、体前屈という4つの基本動作を調べたところ、そのどれか一つでもできない子が、全体の約4割にのぼっていました。学年が上がるにつれてバランス力や体の柔らかさが落ちていく傾向も確認されています。この「約4割」という数字は、その後の各地の調査でもくり返し報告されており、2025年の今も子どもロコモが続く課題であることを物語っています。

国もこの問題を放っていません。2016年からは、学校の健康診断に運動器検診が加わりました。背骨の側弯症だけでなく、四肢の状態や子どもロコモの兆候をチェックする仕組みです。さらにスポーツ庁の全国体力調査では、近年も子どもの体力が低下傾向にあり、直近の調査では小学生女子の体力合計点が過去最低を記録しました。ゲームやスマートフォンを見て過ごす時間が1日3時間以上という子の割合も増え続けています。

その一方で、大人の世界ですらロコモという言葉の認知度は2025年度で約42%にとどまっています。問題は広がっているのに、それを正しく知っている人はまだ半分にも満たない。この「気づかれにくさ」こそ、子どもロコモのいちばん怖いところかもしれません。

なぜ、体の使い方を学べない子が増えたのか
理由はとてもシンプルです。体を動かして遊ぶ機会が、決定的に減ったからです。外遊びの場所が減り、放課後に校庭で自由に遊べなくなり、公園ではボール遊びが禁止のところも多い。塾や習い事で忙しく、デジタル機器に触れる時間は増える一方です。

かつての子どもは、かけっこで転び、転んだときにとっさに手をつき、ボール遊びや友だちとの取っ組み合いの中で、脳と目と手を総動員して距離をはかり、力の入れ方を覚えていきました。痛い思いをしながら「体の使い方」を体に刻んできたのです。ところが今の子どもたちは、その経験そのものが少ない。だから体の使い方を十分に身につけないまま育ってしまう。

もう一つ、決定的なことがあります。「姿勢が悪くなること」です。歩き始めた1歳ごろの子どもの姿勢は、胸をしっかり前に向け、頭を背骨の上にバランスよく乗せた、本来とても良いものです。ところが長時間の勉強やゲームで体を丸める時間が増える7歳前後から、姿勢が崩れ始めます。骨盤が後ろに倒れ、あごが前に出て、背中が丸まる。いわゆる猫背やストレートネックが、どんどん低年齢化しているのです。

そして悪い姿勢は、見た目の問題では終わりません。Regulusが姿勢の土台として最も重視しているのは、重心です。体の重みを、股関節で素直に受け止められているか。その鍵をにぎるのが、肩甲骨や背骨、とりわけ胸椎のしなやかさと、背骨と太ももの骨を体の内側で結ぶ深いインナーマッスル「腸腰筋」です。腸腰筋がきちんと働くと、重心は仙骨と両股関節を結んだ三角形の中に収まり、背骨もすっと立ち上がります。逆にここがうまく使えないと、重心が定まらず、しゃがめない、手が挙がらない、前屈ができないという、子どもロコモのチェック項目にそのままつながっていきます。背骨と腸腰筋を通して重心が整えば、体は大きく無理なく動き、基本動作も取り戻せる。姿勢と運動機能は、地続きなのです。

怪我のリスク、そしてスポーツの土台として
体が硬く、バランス感覚が育っていないことは、便利な現代の暮らしでは一見すると支障がないように見えます。けれど、それはやがて大きな怪我という形で表れます。実際、小中学生の骨折率は年々上がっており、ゲームが普及し始めた2000年ごろを境に、中学生の骨折は大きく増えたと報告されています。

転んだときにとっさに手が出ない。組体操で下になっても体を支えられない。卓球で活躍していた子が跳び箱の着地に失敗して骨折する。こうしたことが現実に起きています。基本動作が身についていない体で、いきなり激しい運動に飛び込むと、本来なら避けられたはずの大怪我につながってしまうのです。

ここに、Regulusがいちばん伝えたいことがあります。体を支える土台が整うことは、怪我を防ぐだけでなく、すべてのスポーツの伸びしろそのものを変えるということです。サッカーでも野球でもダンスでも武道でも、本当に上手い人の動きには力みがなく、体の中心、つまり股関節に重心が乗っています。重心が定まっているから、無駄な力がいらず、速く、しなやかに動ける。幼いうちにこの「重心の使い方」を覚えた子は、これから先、どの競技を選んでも、最初の一歩が違います。特定の種目を教えるのではなく、すべての種目の足腰をつくる。それが、姿勢から入ることの本当の意味です。

だからこそ、家庭から習慣化する
学校や検診で「気づく」ことはできても、毎日の生活の中で体を変えていけるのは、やはり家庭だということです。一日のうちで子どものいちばん近くにいるのは、お父さんお母さんだからです。

だから私は、専門家が学校で「担い手」になるのと同じように、ご家庭にも「担い手」になっていただきたいと考えています。子どもの姿勢は、叱って直すものでも、放っておいて治るものでもありません。正しい時期に、正しい土台を、家庭から育てていく。これが、私たちの出発点です。

Regulusが大切にしていること
私のアプローチは、プランクのような筋肉で体を「固める」ことではありません。むしろ逆です。重心を股関節にすっと預けられるようになること。これを私は「股関節重心=股関節の捉え」と呼んでいます。手足を一生懸命動かす前に、まず背骨をしなやかにゆるめ、上半身と下半身が別々に動けるようにし、背骨と股関節を結ぶ腸腰筋を目覚めさせる。すると重心が体の真ん中に戻り、軸が一本通ります。幹と根がしっかりすれば、枝葉である手足は自然と軽く動き出す。釘を一本も使わず、木と木の組み方だけで何百年も建ち続ける日本の「継手」と同じで、固める強さではなく、組み合う強さなのです。

私が見ているのは、背骨と腸腰筋、そして重心です。長く同じ姿勢を続けると、筋肉や筋膜は固まり、互いに癒着して動きにくくなります。その固まりをゆるめ、背骨に一つひとつ動きを取り戻し、腸腰筋に力を戻していく。体に触れて押したり矯正したりするのではなく、子ども自身の動きの中でそれを引き出すのが、私のやり方です。専門用語を覚える必要はありません。子どもが体の感覚の中で、自然と覚えていける。それを何より大事にしています。

もう一つ、私が手放さないのが、親子で取り組むという形です。子どもに教えて終わりにはしません。お父さんお母さんに「姿勢の応援隊長」になっていただき、毎日一緒に体を動かし、声をかけ、変化を見守る。その積み重ねが、教室の中だけでは決して届かない深さで、子どもを変えていきます。姿勢を通じて、親子の時間そのものが豊かになる。私が目指しているのは、そういう景色です。

これからのこと ―「姿勢レスキューRegulus」を始めます
そして、このたび私は、その思いを形にした「姿勢レスキューRegulus」プログラムを、いよいよスタートします。姿勢や動きのクセが固まる前の、7歳から10歳の黄金期に合わせて、姿勢と動きを楽しみながら育て直す、子どものための育成プログラムです。

柱は三つあります。一つは、ヒーローになりきって取り組む「ヒーロー体操」。背骨をしなやかにほぐし、腸腰筋を目覚めさせて、重心を股関節の真上に整える動きを身につけていきます。二つめは、家庭で毎日乗れる専用のバランスボード。不安定なボードの上で、子どもは自分の重心がどこにあるかを全身で感じ取り、力を抜いて乗るほど安定するという感覚を、言葉ではなく体で覚えていきます。熊本県産の木を使い、化学製品を使わない、リビングに馴染む道具です。三つめが、お父さんお母さんが応援隊長として伴走する「おうち姿勢パートナー制度」。ここまでお話ししてきた「股関節重心」を、机上の理論ではなく、お子さんの毎日の習慣に変えていく仕組みです。

一人の子どもの姿勢が変わることは、その子の人生が変わることです。集中できる、よく動ける、怪我をしにくい、そして、心が安定する。それが何万人と積み重なれば、子どもの体力低下という社会の課題に、家庭の側から一つの答えを返すことになります。大げさに聞こえるかもしれません。けれど、すべてはリビングのバランスボード一枚から、たった一歩から始まります。

お子さんの「しゃがめない」「姿勢が気になる」が、もし少しでも心に引っかかっているなら、今がきっと、いちばん良いタイミングです。これからの「姿勢レスキューRegulus」を、どうか楽しみにしていてください。全ては、姿勢から始まります。