「骨盤を前傾させましょう」と言われて、その通りにやってみたら腰が痛くなった。
そんな経験はありませんか?

これはあなたのやり方が悪いわけではありません。
むしろ、とても自然な反応です。

世の中には「骨盤は中立にしないといけない」と発信している人がたくさんいます。
それは間違いというより、骨盤前傾を痛みなく手に入れる方法を知らないから、安全策として中立をすすめているのです。

実際、骨盤を前傾させると痛い人は多い。
だからこそ「中立に戻しましょう」という声が広がっています。
ですが、それは痛みの原因を取り除いたわけではなく、痛みが出ない位置に避難しているだけです。

骨盤前傾が反り腰になってしまう人と、反り腰にならずに自然と胸が開いていく人。
見た目はよく似ているのに、体の中で起きていることはまるで違います。
この差を生んでいるのが、腸腰筋です。

 

目指すべき姿勢とは何か

まず、私たちが目指す姿勢を言葉にしておきます。

骨盤は前傾。
足の裏はフラットで、しっかり接地している。
猫背がなく、巻き肩もなく、肩が下がって背中側に位置している。
胸郭が開いている。
そして、膝が少しだけ緩んでいる。

この状態のとき、人は深く呼吸ができて、首も自然にまっすぐになります。
胸が大きく開いているから、息がたっぷり入る。
これが人間本来の構造です。

ここで大事なのは、骨盤前傾と反り腰は別物だということです。
反り腰は、腰だけが反って、上半身がその上に乗りきれていない状態。
本来の骨盤前傾は、骨盤が前に傾いた土台の上に、胴体がすっと伸びて積み上がっている状態です。

同じ前傾でも、腰に圧が集まるか、胴体が上に抜けていくか。
この分かれ道に、腸腰筋が関わっています。

骨盤前傾も、股関節重心も、腸腰筋が活性化していなければ絶対に手に入りません。
これがこの記事の結論です。

 

胴体深部という考え方

腸腰筋の話に入る前に、胴体深部という言葉を説明させてください。

鎖骨付近から骨盤まで。
この四角形のひとくくりを、私は胴体深部と呼んでいます。

ここに含まれているのは、腸腰筋、大腰筋、腸骨筋、骨盤、仙腸関節、背骨、胸椎、腰椎、そして肋骨です。
体の表面ではなく、もっと奥。
普段の運動やストレッチではなかなか届かない、体の芯の部分です。

健康も、スポーツパフォーマンスの向上も、この胴体深部にアプローチしなければ実現できないと思ってください。
表面の筋肉をいくら鍛えても、芯が固まったままでは、上に積み上げているだけになってしまいます。

Regulusがアプローチしているのは、まさにこの場所です。
そして、この胴体深部の中心にいるのが腸腰筋なのです。

 

膝重心と股関節重心の違い

ここで一つ、誰でもできる感覚のチェックをしてみてください。

少し膝を緩めて立ちます。
そこから上半身をほんの少し前に倒していくと、ふっと手が軽くなる瞬間があります。
腕の重さが消えて、体が前に運ばれるような感覚です。
このとき、体重が膝ではなく股関節に乗っています。
これが股関節重心です。

逆に、腸腰筋が動いていない人が同じことをやろうとすると、胸を上げようとした瞬間に、腰椎、つまり腰のあたりに圧力がかかってしまいます。
これが反り腰の正体です。

腸腰筋が中でぐっと伸びてくれていれば、腰に圧をかけずに、お腹の奥から上半身を押し上げるように起こせます。
腰で反るのではなく、芯で立ち上がる感覚です。

膝重心の人は、立っているだけで膝の前側に体重が乗り、太ももが常に頑張っています。
股関節重心の人は、股関節の上に骨盤と胴体が自然に積み上がるので、力みが消えます。

この未来を体で描けるかどうかが、最初の分かれ道になります。

 

なぜあなたの胴体は動かないのか

腸腰筋が動く感覚を、もう少し具体的にお伝えします。

少し膝を曲げて、頭と骨盤を動かさずに、胸だけを独立して動かしてみてください。
やってみると、多くの方は胸を動かそうとした瞬間に、肩が動いたり、骨盤まで一緒に動いてしまいます。
そもそも胸を単独で動かす感覚そのものが、ほとんどない方も少なくありません。

なぜか。
鎖骨から骨盤までが、一個の四角形としてくっついてしまっているからです。
四角形でしか動けない状態。
これを私は癒着と呼んでいます。

胴体が癒着して、腸腰筋がガチガチに固まっているから、胸と骨盤を分けて動かせないのです。

逆に腸腰筋が活性化していると、厳密には腰椎から股関節にかけて働いている腸腰筋がやわらかく動くことで、胸と骨盤が分離します。
だから胸だけを動かせる。
骨盤を止めたまま、胸を自由に動かせるようになります。

この感覚がさらに進化すると、動きはどんどん小さくなっていきます。
頭と骨盤を止めたまま、胸や鎖骨だけが内側で動く。
みぞおちを少し操作するだけで、体の奥が連動して反応する。
武術や合気道の世界で語られる、外から見えないほど小さな身体操作は、この延長線上にあります。
派手な動きではなく、芯の中の動きほど洗練されているのです。

 

腸腰筋のねじりとクッション

腸腰筋が動くようになると、二つの大きな機能が手に入ります。
ねじりと、クッションです。

まずねじりです。
足をまっすぐにして、膝と骨盤を動かさないようにキープしたまま、股関節を境にして体をねじっていく。
膝も骨盤も動かさず、股関節を支点にして上半身が九十度ねじれていく感覚です。
これが腸腰筋のねじりです。

ここで膝が一緒に回転して、つま先が外を向いてしまう人は、股関節で捉えられていません。
それは回転であって、ねじりではない。
股関節で捉えているからこそ、膝を動かさずにしなやかにねじれるのです。

このねじりは、野球のピッチングやバッティング、ゴルフ、テニス、卓球、サッカーのあらゆる動きに直結しています。
バッティングで膝が大きく曲がって無駄な動きが入る選手は、股関節ではなく膝で捉えてしまっています。
股関節で捉えられれば、その無駄が消えて、力がまっすぐ伝わります。

次にクッションです。
バスから降りるとき、高いところから着地するときを思い出してください。
腸腰筋が中でクッションになっていると、股関節で衝撃を受け止められます。
着地の瞬間に腸腰筋がきゅっと縮んで、衝撃を吸収してくれるのです。

クッションがなければ、必ず膝で受け止めることになります。
腸腰筋が固まっている人は、ここで踏ん張るしかなく、膝から先に体が落ちていきます。
膝で受けるか、股関節で受けるか。
この差が、スピードと体への負担の差になって表れます。

 

呼吸と横隔膜のつながり

腸腰筋は、横隔膜とも連動しています。

みぞおちを少し上げると、横隔膜が勝手に引き上がります。
歌のオペラ歌手が深く息を扱えるのも、この連動が働いているからです。

胸郭が開いて、腸腰筋がやわらかく動く人は、横隔膜が大きく上下できます。
だから一呼吸が深い。
逆に胴体が癒着して固まっている人は、横隔膜の動きも制限され、浅い呼吸になりがちです。

姿勢を整えると呼吸が深くなるのは、気持ちの問題ではありません。
腸腰筋と横隔膜という、体の奥の構造がほどけた結果として、息が深く入るようになるのです。

 

トップ選手がやっていること

ここからは、動きの中での話です。

テニスやゴールキーパーで、ボールがパッと飛んできた場面を想像してください。
普通はワンステップ入れてから動きます。

ここで腸腰筋が動く人は、股関節でふっと抜く感覚を持っています。
膝を曲げてから動くのではなく、胸を落とすようにして一歩目が出る。
だから速いし、膝も曲がっていません。

ディフェンスで一歩前に出る場面、後ろに下がる場面でも同じです。
後ろに動くときも、腸腰筋がきゅっと縮んで股関節に乗るから、無駄なく動けます。
これが縮まない人は、いちいち膝でぐっと踏み込んでから動くので、その分だけ遅れます。

バレーボールでもわかりやすい。
レシーブやブロックで、膝を曲げてから動くのではなく、胸からふっと入れる。
膝が曲がっていないのに、低い体勢に入れているのは、腸腰筋と肋骨がクッションになっているからです。

走る動作も同じです。
陸上の世界では「骨盤が前傾すると足が上がらないから中立にしなさい」という指導があります。
ですがこれも、腸腰筋が動いていないことが理由です。
腸腰筋が固まっていると、前傾したときに足が上がらなく感じる。
腸腰筋が動いていれば、骨盤を前傾させたまま、足を思いきり引き上げられます。

マラソンや陸上選手は、腕を真後ろに引いても胴体がぶれません。
胴体と肩が分離しているからです。
海外のトップ選手の動きをよく見ると、ここがしっかり縮んでいます。
縮むべきところが縮んでいる。
それが内部の感覚です。

肩甲骨がやわらかい選手でも、土台が膝重心になっていれば、結局どこかに負担が集まります。
肩や肘の柔らかさだけでなく、その下の股関節と腸腰筋という土台があってはじめて、体は楽に大きく使えるのです。

痛みと不調も、出発点は同じ

ここまでスポーツの話をしてきましたが、結局これは痛みや不調を改善する話とまったく同じです。

腰痛、股関節痛、膝の痛み、肩こり、首こり。
腸腰筋が動くようになると、首の可動域も上がります。
肩を動かさずに肘を真後ろに引けるようになり、胴体と肩が分離していきます。
普段は肘を引くと肩や胴体まで一緒に動いてしまう人が、肩を静かに保ったまま動かせるようになる。
これも分離の表れです。

股関節で捉えられないと、腸腰筋は他の筋肉に仕事を代わってもらおうとします。
これを代償動作と呼びます。
腹筋や脚に無理な負担がかかり、結果としてどこかに痛みが出る。
固まった腸腰筋を放置していると、痛みは形を変えて現れ続けます。


腰が痛い、膝が痛い、肩が凝る。
場所はバラバラに見えても、出発点が同じことは少なくありません。

さらに腸腰筋は腸とも密接に関わっています。
猫背、反り腰、巻き肩で、大腰筋まわりのリンパが滞れば、腸の働きも落ちます。
食事はもちろん大切ですが、姿勢が整って体の奥の巡りが戻ると、腸の調子も変わっていきます。

変化は、ちゃんと積み上がる

実際の変化を少しだけ紹介させてください。

四ヶ月後には、骨盤が前傾しながら肩が下がり、猫背が解消していきます。
六ヶ月後、十ヶ月後と進むと、骨盤は前傾しているのに胴体がしっかり上に伸びてくる。
反り腰になるのではなく、前傾した土台の上に胴体が積み上がっていくのです。
これは腸腰筋が活性化し、胸椎がやわらかくなり、股関節重心の感覚を手に入れたからこそ得られる姿勢です。

膝が開いていた方は、膝の上がしっかり締まってきます。
これも股関節重心の表れです。

五十代の女性で、まだ二ヶ月ほどの方でも、左右の差が整い、太ももの張りが落ちてきました。
四十代の女性では、O脚を解消し、骨盤底筋もしっかり締まってきました。
肩、特に上がっていた右肩の位置が戻り、肩こりと首こりも軽くなっています。

肩が下がり、胸郭が開く。
癒着がほどけて腸腰筋が活性化するから、肩が本来の位置に戻る。
変化は気合いではなく、構造がほどけた結果として、ちゃんと積み上がっていきます。

骨盤前傾は、無理に作るものではありません。
腸腰筋が活性化し、股関節で体を捉えられたとき、いちばん楽な姿勢として自然に現れるものです。

反り腰になって痛い人は、やり方が間違っているのではなく、まだ腸腰筋に届いていないだけです。

まずは今日紹介した、胸だけを独立して動かす指標をやってみてください。
頭と骨盤を止めて、胸だけを動かす。
おそらく、まったくできないことに気づくはずです。

その「できない」を知ることが、変化のいちばん最初の一歩になります。
今のあなたの胴体が、四角形のまま固まっているのか、それとも分離して動けるのか。
それを体で確かめるところから、すべてが始まります。

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