私はずっとこれを病気だなんて思わなかった。
最近タバコを辞めた。世間はどこもかしこも禁煙ブームだけど、そこだけは流行無視で吸い続けてた。
最初は辛かった。次第にタバコの煙がうざくなった。今は横で上司が吸ってても何とも思わなくなった。
私はニコチン中毒だったけど、それを克服するのは私には案外余裕だった。
これは病気だったかもしれないけど、重症ではない。
私の病気は、ファッションだ。
素敵な靴と服に出会ってしまったら最後、値札も見ずにレジへと向かってしまう。
1つ買ってしまったら止まらない。靴にあわせて服も買う。服にあわせてアクセサリー…魔の連鎖に逆らえない。
この間ついに私の限界を越えた。
今までギリギリでやり過ごしていたのに、ついに越えた。
それから、私はショッピングを謹慎した。
しばらく悪魔は身を潜めていた。雑誌で見て、欲しいなとは思っても、SHOPに駆け込みはしなかった。
街で、百貨店で、欲しい!とは思っても手には取らなかった。
「よかった。私は病気じゃなかったんだ。」
少し安心した。
でも、私は病気だった。重症だった。
打ち合わせにいく途中
DIORのショーウィンドーに目が釘付けになった。
夏の最新コレクション。
レザーとオーガンジーにサテンとsilkを見事に合わせた、繊細で大胆で完璧なdressだ。
ちなみに私は最近パーティーにも行かない。
dressを着る機会は皆無に等しい。
数秒か、数分か、数時間か…時間が止まって、心臓の音が聞こえるくらい興奮した。めまいがして、何も考えられない。
手にとって見るだけなら…
久しぶりに、その重厚な扉を開けた。
新品の服の匂いにクラクラした。
完璧で美しいdressは、ほっそいマネキンに着られて優雅に私を迎えた。
試着だけなら…一瞬dressから視線を外して店員を探した。
そして、私はDIORを後にした。
何も買わなかった。
店員が近づいてきて、私は微笑んで外に出た。
街に出た瞬間、涙が頬を伝ってた。
私は病気なんだ。中毒なんだ。
実感して、泣けてきた。
何でだろう。いつからだろう。どうしたら治るの。…
時間を少し過ぎて打ち合わせが始まった。大きい仕事だ。集中しないと…出来なかった。意見を求められ、ideaが出なかった。みんな少し驚いてた。
私はある分野にかけては優秀だと自負してる。
他のことでも、何となくこなせる器用さがあると思ってる。
私は病気だ。
集中しないと…治すことに集中しないと…
いいideaを出さないと…
帰り道で、ショーウィンドーに映る私を見た。冷静に見ると、仕事用の靴がボロボロだった。
必要なのは、あの美しいdressじゃない。仕事用の靴だった。
帰り道で、そこそこの仕事用の靴を買った。仕事で使える服を買った。
美しいとは思わなかった。心臓の音も聞こえなかった。
会計をして、あの興奮と満足感は味わえなかった。
よかった。私は小さな声で呟いた。
私は病気だ。
今は悪魔に勝ててる。
ギリギリで勝ててる。
負けるわけにはいかない。
それでも、怖くてたまらない。
悪魔は私のすぐ後ろにいるんだから…
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