ウィッチーズと独りきりのウィザード 第19話 『ダイナモ作戦 前編』 | 日々 遊々

ウィッチーズと独りきりのウィザード 第19話 『ダイナモ作戦 前編』

注:ナイトメアの形体についての事前説明(画質悪くてすいません)

共通項:以下の三形体の違いによる火器(格闘は火器に非〈あら〉ず)使用の制約は無い。

ファイター形体(以下F形体):普通の戦闘機型、特性などは無し。
ガウォーク形体(以下G形体):変形し戦闘機の底面に脚部が、側面に腕部が現れる。戦闘機形体時には不可能な、トリッキーな動きが可能(例:飛行中に機首を前に向けたまま直角に曲がれたり)
ホバリング性能が三形体中最高
推奨出来ないが一応格闘戦も可
日々 遊々-g

バトロイド形体(以下B形体):人型。360度全包囲からの攻撃に即応可能なのが強み。
人型という特性上格闘能力が最も高い。
日々 遊々-b



第19話

Side.???

一機のガリアの偵察機が左右に機体を振りながら、背後からのビームを避けつつ飛行する。当初4機だった彼らの小隊は数を減らし、全滅の危機に晒されていた。


パイロットが無線機に向かって叫び続ける。


———緊急事態発生!緊急事態発生!
こちら哨戒機“うみつばめ”。ポイントEN‐3からEN‐5に大型及び小型ネウロイ混成軍の大規模侵攻を確認!
大型…目算で40機超、小型…200機オーバー!
即時交戦態勢を(ブッ!!)……………………………———

ビームが彼らの乗る偵察機を穿ち爆散、火の玉となって墜落していった。


Side.Out...



Side.Sieg

早朝に鳴り響く来襲警報。

飛び起きたジークが目にしたのは、遥か彼方の地平線上に浮かぶ、砂粒の集合体のようなネウロイの大軍。

警報の音に一瞬で目を覚ましたイリアに、部隊とイリア自身への指示をしたジークは、手早く身だしなみを整えると、一人司令室へと駆けた。

室内には既に司令、ガリア側のウィッチ隊隊長、ミーナの姿。

全員揃った事を確認した司令が重々しく口を開く。

「…皆、理解しているとは思うが……ネウロイだ。ここ数日静かだと思ったら戦力を整えていたらしい」

3人は黙ってその話を聞く。

「夜間哨戒に出ていた偵察機小隊の報告によると、大型ネウロイは40機超、小型ネウロイ200機を超えるらしい」

「…その隊は?」

「………」

ジークの言葉に司令が黙って首を振る。

「港の残留避難民と軍の予想撤退終了時刻、それとネウロイのこの基地への到達時間は?」

ミーナが司令に問い掛けた。

「…撤退終了にはあと10時間は欲しいらしい。敵は基地までこのままだと1時間だ」

その言葉に両ウィッチ隊隊長が顔を歪める。

「地上からの火力支援もなしに9時間保たせろという事ですか!?」

ガリア側の隊長が声を荒げる。

「…事態を重く見たブリタニア側が火力支援にドレッドノート級戦艦及び〇〇級駆逐艦で構成した艦隊を派遣するとの連絡があった」

それ以外に火力支援が無いという事実上の宣告。
その言葉にガリア側の隊長(名はアリスと言うそうだ。昨晩自己紹介された)が怒らせていた肩を落とす。


場を重い空気が支配する。


その空気を破ったのはジークであった。

ジークは周りの3人を見回すと、告げる。

「…予定をだいぶ裏切られましたがプランCと……予備策のSで迎え撃ちましょう」

ジークの宣言が静まり返った司令室内に響いた。




—————————————
プランC概略
ウィッチ隊が先行、大型機のみを足止めし、小型機は極力無視し、素通りさせる。
小型機は基地周辺まで引きつけ、航続距離に難が有るジーク配下の〈リッター〉が迎撃。
—————————————



30分後、空には15人のウィッチ、ナイトメアⅡ、そしてジークの姿があった。


本来のプランCと異なる点は、ジークは接触時の初撃のみ、イリアが隠し札的存在のナイトメアⅡに乗って正式に大型機の迎撃に回った事である。

ジークは背にネメシス、左右の手にウィッチ用九連装フリーガーハマーが装備、イリアの操るナイトメアⅡには『アーマードパック』と呼ばれる火力増強装甲が追加されていた。

迎撃の先陣を切るのは、最大の火力を持つイリア、ジークと続き、その後で他のウィッチ達が追随する予定である。



「ネウロイの測定可能域に到達、計測を開始します」

ウィッチ隊の数キロ前を先行していたジークとイリア。
ナイトメアⅡはF形体である。

久しぶりに戦闘時の冷静モードのイリアが告げた。

イリアの機体に搭載されている望遠カメラが、黒い無数の大小が入り交じったネウロイ群の総数を割り出した。

「……情報を更新。現時点の機数、確認可能なだけで大型機60小型機350」

「増えた、か……取りあえず後ろに連絡を」

夜間で、更に追われながらの目視の計測である。
多少多めに見積もられていると一縷の望みを持っていたジークは、期待を裏切られ眉をしかめた。

「はい。…敵との距離30キロメートル。敵分布、大型小型とも均一に散開中。大型は以前にも遭遇したエイ型。小型機はラロス、ラロス改の混合。展開幅は北北西から南南東にかけて60キロメートル。横一列に隊列を崩す事無く真直ぐこちらへ向かってきます」

「…よし、プランCの1、こっちは北から行く。イリアは南から宜しく、真ん中辺りで落ち合おう。…あと、同時に『仕込み』も忘れずに」

ジークの提案をイリアも承諾する。

「了解。では、真ん中で」

同時に二人は弾かれ合うように離れると鏡合わせのように大きく旋回し、ネウロイの目の前を横切るコースを狙う。

その距離、約8キロメートル。

ネウロイ側も旋回する二人に気付くと、隊列を乱す事無く大型ネウロイがビームを斉射する。
1機に付き20を優に越す砲塔×約60の集中砲火。

1000を軽く超える光条が空を埋める。

一人に対し向けられる砲火はその半数ではあるが、その様は正に圧巻、当たればシールドを張ろうが只では済まない事は分かりきっている。


……そう、『当たれば』だが。


ジークはストライカーユニットには不可能な鋭角的な軌道を描〈えが〉きながら、イリアは三形体への変形を織り交ぜた変幻自在な飛行でスピードを落とす事なくネウロイのビームを翻弄していく。

掠る事なくビームを避け続けながら二人はそのまま予定通りのコースに入る。

それと同時にジークはフリーガーハマーの安全装置を、イリアはナイトメアⅡの火器管制システムを解除した。


次の瞬間、期せずしてお互いの言葉が被る。

「「ファイア!!」」


Side.Out...



Side.Iria

「(ターゲットマルチロック、…撃〈て〉ッ)」

G形体のナイトメアは、機体をネウロイの高さに合わせ、真横に飛びながら装甲、機体各々の発射口を展開する。

一瞬で最も効率的にネウロイ群にダメージを与えるポイントをロックしたイリアは、最適なタイミングで機体各所に装備されたミサイルを解き放つ。

ナイトメアⅡには、本来ならば小口径のビームが搭載されているところにミサイルポッドが装備されていた。
これは後のウィッチ隊との迎撃戦での、ネウロイを貫通しての誤射を防ぐ為である。

結果として今のナイトメアは動く火薬庫状態、誘爆しようものなら、半径2~3キロは吹き飛ばせるだろう。

イリアの放ったミサイルは大型ネウロイをピンポイントで爆撃の渦中に巻き込む。

大型機1機につき、大型小型のミサイルを計10~20発前後、飛行に支障が出るように、あわよくば撃墜を狙って敵の胴体部分に火力を集中する。

高速飛行中が故の一瞬の攻撃機会、それを逃さない為にイリアは自分の感覚を機体の隅々まで行き届かせる。

単純に1キロおきに1機の大型ネウロイがいる計算である。
ジェット機の1キロメートルなど、ほんの瞬きの間。2機目3機目を次々と攻撃していく。

イリアは既に10機先までのマルチロックを済ませていた。

同時進行でジークに頼まれた『仕込み』を機体の遥か下の大地へと大量にばらまいていく。
まいているのはトランプよりも若干大きい金属片、とあるルーン文字を彫り込んだものである。

ここ数日の平穏な毎日の間にガリア基地の施設を使い、機械で大量に自動生産を行った物、その数は数十、いや数百万枚に上っていた。


イリアはレンズをチラリと一瞬ジークに向ける。
それに写るのは、こちらを見る事なく高速で向かって来るジークの姿。


弾切れのフリーガーハマーを棄ててはゲートを開き、新しいものを取り出し攻撃を加えながらこちらに接近してくる。
身に着けたウエストポーチからはルーンの札が噴水のように溢れ、イリア同様大地に吹雪のように札を降らしてゆく。


ミーナ達後続からは蒼い羽根の妖精が燐光を散らしながら爆炎の華を咲かせている様に見えている事だろう。


イリアは意識の片隅でそんな事を考えながら、マルチロックを微妙に修正しつつ攻撃を加えていく。


あと数分で合流、気を引き締めなくては。
イリアはそう自己完結すると、攻撃に意識を集中させるのであった。



Side.Out...


Side.Sieg

「済まない、遅れた!」

ジークはイリアより約30秒遅れて、合流地点に到着した。

「大丈夫、わたしもちょうど今きたところ………ってこの会話はデートの待ち合わせのときにするものなんじゃ?……うん、ジーク、デートに行こう」

一瞬素に戻ってしまったイリア。
ついでにデートの催促をされた。


現在地点はネウロイ群より1000メートルほど上空、大型機は攻撃の影響で大混乱の真っ最中、こちらに攻撃を加える余裕は無い様子。
小回りの利く小型機は直ぐに態勢を立て直し、真直ぐ基地へと向かっている。

攻撃が一時的に止まっているとは言っても戦場でするにはあまりに場違いな誘いであった。


「デート、ねぇ…。取りあえずこの作戦が終わったら休暇取って『世界』旅行に行くからそれで良いでしょ」

『地球上の国々』ではなく、『様々な時空』を暗に指しながらジークは頷いた。

「了解♪」

言葉にご機嫌さを滲ませながらイリアが機体でサムズアップをした。

ロボットのマニュピレーターのサムズアップはシュール過ぎる。
内心そう思いながらも口にはしない。

「二人とも、大丈夫だった!?」

「今のところは」

「無傷です」

ジーク達に追いついた後続の中から飛び出す4人。
先頭を飛んでいたミーナが二人に叫ぶ。

完全に避け切った二人は傷一つ負っていない。

ジークとイリアはミーナの言葉を否定する。

「そう、良かった。…作戦は予定以上ね、二人の攻撃で大型機が15機撃墜されたわ。小型機の大半は基地に向かったから、ジークさん貴方は作戦通り基地の防衛に」

「ああ、ここは私たちに任せておけ」

「まぁ、一応全力で頑張るしね」

バルクホルン、エーリカと続く。

「ジークさんは貴方の為すべき事をなさってください」

シノーラがニコリと微笑んだ。


因みにペリーヌとアメリー以外のガリアの面々は、初めて見た二人の火力に呆然と、以前ジークの力の片鱗を見た事のある二人には、「「まぁ、何でもありなんだろう」」と納得されていた。


「ま、ちょっと待ってくれ。…イリア、タイミングは?」

「…32秒後発動がベスト」

イリアのその言葉を聞いたジークが左手を地面に向け、詠唱を開始する。

「『凍てつく吹雪、茨の棘、閉ざされた門。悪しき者を穿ちとどめる楔〈くさび〉となれ!』」

ジークの声が朗々と響き渡る。

その詠唱とほぼ同時に、態勢を立て直した大型ネウロイ群が、ジークとイリアがばらまいたカードの真上に到達する。

「『第三のルーン、スリサズ!』」

きっかり30秒、ジークの言葉の終わりと同時に、カードの撒かれた地点、つまり60キロメートルに渡って、天に向かう無数の白い棘が奔〈はし〉る。

「ォ□ォォ@ォ※ッ」

ネウロイの苦悶の声らしい音が空に響いた。

大地から伸びた棘はネウロイの各部を貫き、動きを封じ込める。

棘自体の太さはそれほどでもないし、狙いも甘いのでネウロイを破壊するには到〈いた〉らない。
しかし、時間稼ぎという点では最高の効果を発揮した。

残存大型機は全てが地面に縫い付けられ身動きを取る事が出来ない。

「…ッ……これで30分は足止めできる!今のうちに出来る限り数を削って!」

一気に身体の魔力の4割程が減った事による倦怠感に抗いながらジークは怒鳴る。

「わ、解った!総員散開、このチャンスを逃すな!!」

「「「「了解ッ!!」」」」

ガリア組が隊長の命令を受け各所に散らばっていく。

その際、ペリーヌとアメリーが擦れ違いざまにジークに一瞬敬礼すると、そのまま二人でネウロイへと向かっていった。


その場に残ったのはカールスラントの面々。

「…じゃ、また後で」

「ええ」

「ああ」

「うん」

「はい」

5人は一緒に拳同士を軽くぶつけ合う。

それが終わるとミーナ達4人も散開していく。

最後に残ったのはイリア。
大きさの都合上5人の輪に入れなかったのである。

「イリア、ここは任せた。…気をつけて」

「当然です。……デートの約束があるのにやられる訳にはいかないし♪」

最後にそう付け加えると、イリアはG形体の機体を翻しネウロイへと向かって加速していった。

「………」

ジークは最後に60キロメートルの広範囲に伸びた戦場を見回した。

その目に映るのは、固定砲台となったネウロイに猛攻を掛ける皆の姿。

ジークはそれを一瞥すると、基地へと転移魔法で跳んだ。



〈リッター〉の格納庫内に描かれた転移魔方陣に降り立ったジークに、整備員達が声を掛ける。

「隊長!お待ちしていました、何時でも出撃〈で〉れます!!」

「他の皆は!?」

〈リッター〉の操縦席に乗り込み、パチパチと内部の小さなスイッチをいれながらジークは問う。

「全機健在です!この基地から8キロメートルほどの空域で5分ほど前に小型ネウロイ群と会敵、戦闘に突入したと報告が入っています!」

「わかった!!多分数時間しない内に何機か弾薬や燃料の補給に来るはず。その準備を!」

回り始めたプロペラの音にかき消されないよう、お互いに怒鳴り合うように会話する。

「了解、隊長、ご武運を!」

ジークはその声に、垂直尾翼の舵を振る事で応える。

ジークは滑走路から飛び立つと、全速で部下の元へと機体を走らせた。


Side.Out...



Side.Crow

マズいな。

普段ジークの列機を務めているクロウは顔を歪ませる。

小型ネウロイ群と会敵した〈リッター〉隊は苦戦を強いられていた。

理由は明快。
〈リッター〉は大型ネウロイとの戦闘を念頭に置いた機体である。

大型ネウロイに対して有効なフリーガーハマーの弾頭が当たりにくいのであった。

序盤は爆発距離を設定し、ネウロイを爆風に巻き込むように戦っていたのだが、混戦となったいまでは機銃での格闘戦〈ドッグファイト〉による戦いに変わっていた。


撃墜された者はまだいないが、300超対16…いや隊長がいないから15か…


クロウは目の前の敵機を蜂の巣にしながら次の敵を探す。

しかし、その20倍を超える戦力差がクロウの危機察知能力を鈍らせていた。

『クロウ准尉!後ろに着かれてるぞ!!』

仲間からの通信。
クロウは反射的に操縦桿を倒し、機体をロールさせた。

同時に一瞬前までいた所をネウロイの実弾による攻撃が駆け抜ける。

回避の成功に息を吐く暇も無く、クロウは後ろを取られた状況を打開しようと機体を機動させる。

「ッ!?…振り切れない!!」

ピタリと後ろに着いて来るネウロイ。


ヤバい、このままでは…


ネウロイに更に距離を詰められている。
この距離では避けられない!


ガンッ


クロウが諦めかけたその時、重い砲声と同時に、後ろのネウロイがゴキリと折れ曲がり爆散した。

「ッ!?…すまない、助かった!!」

何者かに助けられた事を理解したクロウは礼を言うと、その機影を確認しようと銃弾の飛来元に視線を送る。

「…な!?貴方がたは!?」

その目に映った機影は想像もしていない物だった。


Side.Out...



Side.Sieg

「…どうなっている?」

戦闘空域に到着したジークは、予想外の事態に目を見開く。


何 故 機 数 が 増 え て い る ?


多大な戦力差があったのである、部下達が墜とされていることも覚悟していた。
理由はすぐに分かった、見慣れぬ機体が混じっているのである。

「クロウ准尉!これは一体!?」

ジークはクロウの機体を見つけると無線を繋いだ。

『ガリア空軍の方々です!』

「しかし、あの機体は…?」

ジークはその答えに混乱する。
その『ガリア空軍』が何故カールスラントの機体、それも〈リッター〉の企画段階のバリエーション機に乗っている?


その答えは『ガリア空軍』からの通信により明かされた。


『貴君がジーク・アントワーク大尉か?こちらガリア空軍ユーリ・ヴォルゴフ少佐以下16名、これより貴君の指揮下に入る』


ネウロイを破壊しながらの彼らの説明を要約すると…


機体が既に無く、このダイナモ作戦の初期にブリタニアに退避していた少佐の元に、カールスラント皇帝フリードリヒⅣ世の腹心、ジークもよく知るマルセルが訪れたらしい。
機体の貸与を条件にジーク達の部隊の援護を依頼された彼は、ネウロイに一矢報いるチャンスに是も非も無く賛同し、意志を同じくする他部隊のパイロットを召集し、この戦いに赴いたとの事。


「いや、でもその機体は…」

『問題ない、慣れだ慣れ』

彼らの機体はジークが企画段階で諦めたモノ。

それは対ネウロイ用ビーム装甲はそのままに、フリーガーハマーを搭載せず、代わりに主武装として左右各主翼下部に50ミリカノンを搭載した機体。

フリーガーハマーが面での一撃を重視するものならば、50ミリモーターカノンは点での打撃に重きを置いたものである。


ジークがこの装備を断念した理由はただ一つ…

…重過ぎるのだ。

主翼に錘〈おもり〉を着けたまま飛行するようなものである。


操作に慣れるのに時間が掛かりすぎる。


ジークに求められていたのは大型ネウロイと戦える即戦力である。
それ故に慣熟が容易なフリーガーハマー装備の〈リッター〉を推〈お〉したのだ。


それを『慣れ』で済ませるとは…。


ジークは戦慄を覚えながらも内心で納得している自分に気付く。

この時代には自動操縦や、飛行を補助する機能は無い。
頼れるものは自身の腕と経験のみ、そんな時代ならば未来の技術の恩恵に預かっている自分の推測など当てになるはずも無い。

ジークは無線を通じ、ガリアの少佐に言葉を送る。

「了解しました、貴隊を歓迎します」


次いでジークは増えた31人の部下達に発破をかける。

「全隊員に通告、皆、既に気付いただろうがガリアの勇士達が我々に加わった!だが敵〈ネウロイ〉は我らの10倍を超えている!しかし忘れるな!我々の後ろにはその100倍を超える人々が助けを待っている!一機足りとも此処を通すな!!」

ジークの声が無線の全周波に乗って戦場に響き渡る。

『『『『『『『了解ッ!!』』』』』』』

31人の声が大気を震わせた。


Side.Out...



Side.A lot of people

「ママ~、あれ見てー」

「何やってるの!早く船に乗りなさい!!」

そこはパ・ド・カレー港、ブリタニアへの避難民がひしめいている
ブリタニアからの避難船に乗り込む人々の流れの中で、後ろを振り返った一人の少女が足を止め声をあげる。

その行為は乗船の流れを停めてしまい、少女の母は叱りながら娘の手を引いた。

「でも、ほら、あれ」

母は後ろを振り向く事無く、船上へと続くタラップを足早に歩き続ける。

「……おい!あれ見ろ!」

その少女の声に何の気なしに後ろを振り返った若い労働者風の男が大声をあげた。

その言葉は周囲に連鎖していき、辺りにざわめきが広がっていく。

「……?」

周りのただならぬ空気を感じた母が足を停め、娘の指差す方向に目を向けた。

その目に映るのは5キロ以上離れた空で、黒い羽虫の群にしか見えない小型ネウロイ達の中を翔けるあまりに小さな数十の点。
しかしその点が駆け抜けた後は、微細な埃のごとき白い破片が大地に降り注いでいくのが微かに見て取れた。

「おい、ありゃあ、……小型のネウロイと戦闘機が戦ってるぞ!……しかも、強ぇ」

記者らしき男が、カメラの望遠レンズ越しにその戦いを確認する。

「…本当だ。………負けんなよぉ!!」

船上から身を乗りだし、呆然と眺めていた一人が叫ぶ。

その波は瞬く間に周囲の船にまで伝播した。

「頑張れぇ!!」

「ネウロイなんかに負けるな!」

名も知らぬ飛行機乗り達に声援が送られる。



そんな時に操舵室に積まれた無線から、突如声が届く。

船長は一瞬でその声の主に感づき、咄嗟にその無線の声を船内、そして周囲の避難船に繋げた。

『———イは我らの10倍を超えている!しかし忘れるな!我々の後ろにはその100倍を超える人々が助けを待っている!一機足りとも此処を通すな!!』

ジークが部下達に向けて送った言葉、しかし避難民達はそんな事を知るよしも無い。
だが、自分達のために必死に戦う者がいる事を知らしめるには十分過ぎた。


無線から聞こえる力強い声にパ・ド・カレーの港が沸きあがった。



Side.Out...


Side.Sieg

「撤退完了まで後何時間掛かる!?」

『……司令部から返信、あと3時間です!港にはまだ3割ほどの人々が輸送を待っているとの事!』

戦闘開始からおよそ7時間、すでに各機とも数度の補給を行いながら戦いを継続していた。

基地の整備員達は、備蓄分の弾薬と航空燃料が切れたため、既に撤退している。

つまり、ジーク達の部隊員も弾薬あるいは燃料が尽きた者からブリタニアへと撤退していくという状態に陥っていた。
ジークの部隊の機体は既に半数を割り、現在14機。
撤退したのは14機。……そして残りの4機は撃墜された。


そしてウィッチ隊も同様らしく、徐々に魔力不足やユニットの破損などで撤退していく姿、また衣服を血に染めながら退く姿も見受けられた。

「…もたないな。皆、燃料は」

ジークは燃料計を見て首を振る。
残る部下からも同じような返事が返ってきた。

「そうか……。イリア、そっちは?」

ジークはウィッチ隊と行動を共にするイリアを呼んだ。

『ジーク!?こっちは全員もうギリギリ、わたしも弾切れで格闘戦の真っ直中』

確かにイリアの声の背後から何かを殴るような音が断続的に響いている。

『大型機は残り10機、ウィッチ隊は…残り6人。撃墜者は無し。……あと、わたしの中に怪我人が2人』

「!? 容態は!」

『…1人は出血があったけど今は止血して、薬で眠ってもらってる。もう1人は右腕に火傷、範囲は3…いや4割で深度Ⅲ。中じゃ水で冷やせないから、ジークの塗薬を塗ったあと消毒したガーゼで傷口を覆って薬で眠らせた』

ジークの塗薬とは、傷口に対する鎮痛作用・感染症予防・止血・化膿の防止などの効果があるものだが、悪魔でも治療のものでは無く、現状を維持するだけのものである。

「…解った。残りの6人に、『撤退を開始、予定地点で落ち合おう』と連絡。ミーナかアリスさんは?」

『両方ともいるよ』

「なら二人に、『プランS』に入ると伝言を」

『了解』

その言葉を最後に通信が切れる。

「フリーガーハマー装備機は一旦態勢を立て直し全弾一斉射撃!爆炎に乗じて撤退開始!!」

『『『『…了解!』』』』

Side.Out...



Side.Erica

ミーナからの指示に従い、ジークの指定地点に辿り着いた。
そこにいるのは初めて見る格好のジークただ1人。
他の機体は見当たらなかった。

「ジークッ!ジークの部下の人達は?」

「先にブリタニアに撤退させた。自分の機体はゲートの中。……他の皆は?」

何時になく険しいジークの表情にドキリとする。

「私だけユニットの出力がまともだったから一足先に連絡役を兼ねてきちゃった」

「そう…怪我とかは?」

「だいじょぶ、…でもちょっと残弾が厳しいかも」

「ん、…怪我して無いなら良かった」

僅かに頬を緩ませたジークに、少し強めに頭を撫でられる。


……イヤじゃないよ?イヤじゃないけど子ども扱いされてるみたいで…


「…ジークのその格好は?」

手を離したジークに聞いてみる。
黒いロングコートに黒いスラックス。
コートの下はカッターシャツだね、濃い琥珀色の。

コートの下の腰には、お腹の所でクロスして巻かれた2本の焦げ茶色のホルスター。
コートの左右両腰に入った切り込みから、銃の入った部分だけ外に出している。
その両方のホルスターには昔見せて貰ったおっきな拳銃。

後ろ腰には大きめのウエストポーチが6つずらりと。

コートの胸とか腕とか裾の部分部分の所々に黒く光る鎧みたいな金属が縫い付けられてて…、鎧とコートの比率は6:4くらい?


「これか?……故郷の戦装束だよ」

何処か哀しそうな遠い目でジークが話す。

そんなジークの手から血がポタポタと…って!!

「ジーク!手!手!!」

「…あ」

手をキツく握り過ぎて手のひらから…
えっと、ハンカチハンカチ……あ、あった。
今朝ハンカチを持たせてくれたトゥルーデに感謝感謝っと。

「あー、…悪い。ちょっと故郷のこと思い出して…な」

バツが悪そうなジーク。
……なんかいつもと違う。

「故郷の服、か……そういえばジークの故郷ってどんなとこなの?」

ハンカチを細く裂いて包帯っぽくしてくるくる巻いて…っと。
……ん?なんか驚かれてる。

「…妙に手慣れてるな」

「あー、私のとーさんはお医者さんだからね、見てるうちに覚えちゃった」

…はい、おしまいっと。

「で、ジークの故k」

「ッ!『汝〈なんじ〉は緋弾、虚空を奔る一陣の閃光』!」

突然ジークが私を押し退けると、後ろのポーチから何かカードを出して、そのまま前に投げ付けた。

私も咄嗟に後ろを向いて銃を構えると…。

振り返った私が見たのは、こっちに向かってくるみんなとそれを追っていた10機の小型ネウロイが爆発する光景だった。


Side.Out...



Side.Sieg

「ジークさん、ありがとう」

「いや、いい。小型ネウロイの残りはあれ以外には?」

無事、とは言い難かったがミーナ達残存ウィッチ隊&イリアと合流したジークは、基地と港の中間地点まで退いて、簡単な情報交換をしていた。

役割を終えた基地は既に無人。
残ったウィッチはカールスラントの4人と、ガリアのアリス隊長とペリーヌである。

「いや、恐らくあれで全部だ」

「この子のレーダーにも映って無いから、ほぼ100パーセント最後の生き残りのはず」

バルクホルンとイリアが断言する。

「最後の斉射で上手く全滅してたと思ってたけど撃ち漏らしてたか…」

ジークは自分の見落としを内心で叱咤した。

「まぁ、戦闘機だけであそこまで減らせれば御の字でしょう」

ペリーヌに普段通り、どこか素直じゃない褒め方をされた。

「反省は後にして、今はネウロイのことを考えよう。引き離しはしたけど後10分もしない内に追いつかれる」

メンバーの中で最も上官のアリスが場を仕切った。

「今このメンバーの中でユニットの状態が正常な人?」

ジークが周りを見回して問い掛ける。

「はーい」

「はい」

エーリカとシノーラが手を上げる。
確かに他の皆のユニットは、排気口から黒い煙が出ていたり、片方だけのプロペラが消えかけたりと、万全と言える状況にない。

「じゃあその二人であと3時間の戦闘&ブリタニアまでの魔力があるのは?」

「…多分2時間が限界」

「…ごめんなさい、もう戦闘に回せるほどの魔力は…」

上げた手を申し訳無さ気に下げる二人。

「…解った」

ジークが頷く。

「…その前にプランSとは何だ?聞いてないぞ」

バルクホルンがミーナを見た。

「それは……」

ミーナがバルクホルンから目を逸らし言い淀む。

「わたしと一体化したジークが戦闘可能な人、この場合はエーリカと残って残りの時間を稼ぐんだよ」

イリアがナイトメアⅡの外部マイクを通して作戦内容を話す。

「いや、イリアは急いでブリタニアに行ってくれ」

「何で!?」

予想外の言葉にイリアが取り乱す。

「中の二人、特に火傷の子は早くちゃんとした治療を受けさせないと不味い」

「…む」

ジークの言葉にグッとイリア押し黙る。

「…ジークが今ここで回復魔法で治すっていうのは?」

イリアが代案をあげ、食い下がる。

「10分じゃ治せないし、その火傷を治すのに魔力を半分近く使った直後に10機の大型ネウロイと戦えと?」

「…じゃあ———」

イリアが更に幾つか提案するも、ジークの主張を崩すには至らない。

「………」

遂に案も出尽くしたのか、押し黙ってしまう。

「…納得したか?」

「…したけどしてない」

イリアの返事にジークが溜め息を吐くと改めて口を開いた。

「…やって欲しい事があるんだ。二人を病院に運んだら、クロウ准尉達と合流して〈リッター〉の警備と定期的な撤退状況の報告をして欲しいんだ。イリアなら辺り一帯の通信を全部拾って一番正確な情報を選べるだろう?……頼む」

〈リッター〉の警備というのは、この混乱に乗じて〈リッター〉の技術を他国(暫定的に協力関係にあるガリアを除く)に盗まれるのを防ぐ為である。
今のカールスラントにとって、〈リッター〉及びその技術は強力な外交のカード足り得るのだ。

部下達全員にその旨を伝えているが、強行策を取られたら抗うのは難しい。

「…解った。……無理はしないで」

表情を見る事は出来ないが、声から泣き出しそうになっているのが察せられた。

「……そればっかりは約束出来ないな…」

ジークが苦笑した。

1、2機ずつなら兎も角、10機同時というのはかなり厳しい。
ジークは苦戦を覚悟していた。

「……ま、私も一緒だから、安心しなよ」

エーリカがペシペシとG形体でホバリングしているナイトメアⅡのキャノピーをはたく。

「………わかった。…エーリカ、ちょっと来て」

「?」

イリアがエーリカを少し離れた所まで引っ張っていく。
何かを話しているようだった。

すぐに話は終わったようで、1分もせずに戻ってきた。

「ハルトマン、弾だ」

この場に残る事が出来ないカールスラントの3人が、残弾を空きのマガジンに詰め替え、バルクホルンが戻ってきたエーリカに手渡す。

その数2つ、本人の残弾を併せ、節約すれば多分保つであろう量である。

「お、ありがと」

エーリカはひょいっと差し出されたマガジンを取ると、長期戦の為の水筒や食料が入ったショルダーバックに詰め込む。

「…よし、私達もそろそろ移動しよう」

アリスのその言葉でジーク達は自然と二つの組に別れた。

即ち退く者と残る者である。

「……敬礼ッ!」

向かい合った二組が並び、アリスの声に合わせ敬礼する。

敬礼が終わると同時に撤退組は背を向け去っていく。

遠ざかる機影がコイン大まで縮んだころ、唐突に通信が入った。

『…港の埠頭で待つ!ぶ、無事に来なかったらただじゃおかないからな!!』

インカムから吐き出されるバルクホルンの鼓膜を破るような大声、二人揃って咄嗟に耳から音源を取り外した。

耳から遠ざけたままその声を聞いていたジークとエーリカが目を見合わせ笑う。

「「きっとトゥルーデ顔真っ赤だ」」

口調でそれくらい余裕で判断出来る。

「…じゃ、頑張るか」

「…うん、そだね」

一通り笑ってそう言うとジークは両手にP90を取り出し、エーリカは背中に背負っていたMG42を構え直す。

二人は頷き合うと、漸く追いついた10機の大型ネウロイへ向けて加速した。


Side.Out...




あとがき
どうも皆さんこんにちは、管理人の八九寺です

ごめんなさい、ダイナモ作戦を1話に纏めきろうとした管理人が浅慮でした!
容量不足で前後編となりました。

後編は出来れば8月以内に、最悪でも9月10日までに完成させます

その代わりに予定を前倒して掲載しましたので勘弁してください


あ、あと登場機体・艦船紹介 に<リッターⅡ>の情報を載せました

では


追伸:アンケートがすさまじい結果になっている件とコメント返し
^q^さんからアンケート欄にコメントをいただきました
そこで「皆嫁にしたら良いじゃない!大好きだー!」と意見をいただいたのですが・・・

無 理 な ん で す

理由は簡単、アメブロの1記事の許容限界文字量は約30キロバイト(以下KB)(改行などによって多少左右されますが)なのです。
対して今回のアンケートでの募集したキャラ数は14人
1人につき2KB(原稿用紙2.5枚くらい。参考程度に、18話の格納庫の部分だけで12KB)しか割けないようでは各キャラの細かい描写が出来ないのです。
よって、管理人は涙を飲んで人気投票で1位を取った1人にスポットを当てることにしたのです!!

・・・お分かりいただけたでしょうか?

というわけでみなさんどしどしアンケート(一人一日一票)をお願いします。