「一日一善」の先輩 | 「REGALO vintagewatch」ヴィンテージウォッチ専門店のブログ

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昔とある世界的に有名な企業で働いていたころ、可愛がってくれていた先輩がいた。


その人は見た目が…何と言うか…オタクっぽい。

高校の頃、仙台の名門野球部に所属し背が高くガタイが良く、掌はグローブみたいなゴツさ。

僕と出会った頃は野球はすでにやっていなくて少しポッチャリして色が白い、

そして何故か「テクノカット」だった。

そんな見た目をしているから初日から何だか妙に気になる…

仕事ではベテランだから色々な人に頼られる真面目な人なんだが…テクノカット。

分かりやすく言うとサモハンキンポーがオードリー春日の髪形をしているような感じ。

時に時代遅れの黒ブチメガネをしたりするからコレまた良い意味でひどい。


ある日、休憩時間の食堂で同じ席になって

「井原君、仕事どう?」

と、気さくに話しかけてくれた。


自分より5つくらい年上だとその時知ったのだが、話すと仙台の田舎の方の出身だという。

僕も広島の田舎の出だから田舎あるあるみたいな話題で盛り上がった。

すごく優しい人だし、垢抜けない感じが妙な親近感を抱いてすっかり仲良くなった。


見た目はそんな感じで、良い人を通り越してお人好しだからみんなからイジられる、

多分どこにでもそんな人は1人くらいいる。

当の本人は

「周りはイジッてるつもりだろうが、本当は俺がイジッてんだよ」

と、ニヤニヤしながら言うものだから手に負えない。


ある日、聞いていいのかどうかわからないがこの人なら大丈夫だろうと禁断?の質問をした。

「何でテクノカットなんですか?」

そう聞いたら

「高校卒業してからずっとだよ」

答えになっているようななっていないような…

ただ自信満々に答えたからそれ以上は追及しなかった。



数カ月して会社の態勢が大きく変更され、正社員の労働体形も変わった。

朝8時~夜中2時までの超過酷労働。まぁ今で言うブラック企業。

ようするに正社員は簡単にクビにできないから辞めると言うまでやらせる奴隷のような扱いだった。

当時の僕は派遣社員だったから直接影響は無いが、正社員やパートの古株がどんどん辞めて、

気付けば1年そこらの僕がリーダー的存在だった。


正直ダルいと思っていたところ、その先輩が突然何を思ったのか

「井原君、俺は今日から一日一善をしようと思うから重い荷物を持ってあげよう」

ハッキリ言ってこの人、大丈夫か?自分の仕事が遅くて上司を怒られているくせに、ついにイカれたのか?

でも良くも悪くもそう言う人だった。

本当に色んな人を手伝ったり、励ますようなことをしていた。


結局、その職場は少しして辞めたのでその先輩や仲の良かった同僚たちとも会うことは少なくなった。



それから1年後、2011年3月…

未曾有の大災害が起こった。


震災の日、お台場ヴィーナスフォートで一人でいた僕は大揺れする天井のライトにビビりながら建物の外へ逃げた。

そうすると目の前のビルは火柱が立つほどの大火事、横では旅行で仙台から来た夫婦が泣き崩れ、

道路はパトカーや消防車などの緊急車両が猛スピードで走っていた。

携帯電話は繋がらず、何が起こったのか頭がついてこない。

バイクで出かけていた僕は急いで嫁の職場へ。

銀座界隈も何やら異様な雰囲気。


「この世の終わりか…?」


その日から数日、夜の銀座ですら繁華街が真っ暗になり、テレビを点ければ地震速報が鳴りやまない

東北に比べれば都内の被害は大きくないとは言え、

これほど大きな災害が日本で起こったのかと思うと生きていることに感謝をせずにいられない。

数週間後、都心の交通網は完全に回復。その速さにただただ驚く。




震災の翌年、夫婦で房総半島へ移住を決意し当時住んでいた門前仲町にあった安居酒屋へ行った。

1年と数カ月ぶりにテクノカットの先輩に出会った。話を聞くとその日は先輩の「送別会」だったらしい。

お人好しで涙もろい人だから目も顔も真っ赤になった先輩は

「井原君、こんな日に出会うなんて運命だね~。井原君が辞めた後も一日一善はやめてないよ!!」

内心「ウソつけ」と突っ込んだが言わないでおいた。


送別会だというから色々聞いているうちに仙台出身ということを思い出して震災について聞いたらどうやら大変だったらしい。

家族は無事だったけど家は倒壊して住むところが無いと言っていた。

復興の手伝い、離れ離れになった兄弟との再会、そして家族で一緒に住むとのことで仙台に帰ると聞いた時に、

この人らしい決断だと思った。


誰にでも優しく、真面目で、不器用なくせに得意気な顔をする、変に人間らしいというか…


最後に

「井原君、もしかしたら今日で最後のお別れになるかもしれないけど、いつかどこかで出会ったら迷わず声を掛けてね。俺は気付いても声を掛けないから…」

何でだよ~~!!とみんなから突っ込まれるあたり変わってないなと思い、

「一日一善は死ぬまでやめないからな~」

と呂律が回らず完全に酔っぱらっていた。

帰りがけに薄っぺらい僕の掌で先輩の分厚い掌と握手を交わして帰った。



これを書いている本日3月9日。震災から丸5年が経とうとしています。

正直、僕のような人間にこの世は変えることはできない…当たり前だけど。

でも、もしできることがあるなら身の回りに困っている人がいれば手助けをする、

ドアを開けるとか、落とし物を拾うなど本当に些細なことしかできませんけど

些細なことの積み重ねが誰かの助けになれば良いと思う。

「やらない善よりやる偽善」で全然OK。

当たり前なことを当たり前にやればいい、それが廻り回って誰かのためになれば良い。


「一日一善」


震災から5年という節目の年、本当に世の中が良くなるかどうか分かりませんが、

誰かのために善い行いを、そして知らない人のために祈ってみてはいかがでしょうか?

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