水族館からの帰りに、気がついたら電話が圏外になっていた。
水族館が圏外だったから、電波が戻っていないだけなのかと思って
電源を一度落として入浴する事にした。
だけど電波は戻っていなかった。
何が起こったのだろうと暫く考えていたら、
そういえば夢中になって新しい携帯で写真を撮っていたら落っことしたんだった。
そうだった。
買ってそうそう、いきなり壊したかもしれない。
いま、大事な電話がかかってこようとしてたら、どうしよう。
そこまで考えて、考えるのをやめてしまった。
面倒になったのもあるが、どうにかなると思ったのもあるが、
こんな時代にこんな事態になっていることが、
すこし面白くなったから。というのが一番大きかった。
電話やメールが発達して、とても便利になった。
誰でも思う事だと思うが、便利すぎることは時に不便だ。
使いこなせないような複雑で多機能な機械。
片手におさまるくせにそれがないと通常の日常が送れなくなってしまっているなんて。
あの場所で、あの時間に。
いないと会えなかったあの人とも、
たとえ1時間遅刻していようが、場所を1キロ間違えていようが、
すぐにどうにかなる。
今すぐにどうにかなる機械。
今すぐにどうにかしてくれる機械。
便利で色気のない、文明の利器。
テレフォンカードに硬貨を握りしめて
夜中に忍び出てかけたLove call。
何度も忘れないように思い出した待ち合わせ場所。
指先で覚えた大事なNumber。
いま、そこから私は隔離されてて、
いま、私を捕まえられる人は居ない。
私の居場所を解ってるのは、私だけ。
都会の真ん中で一人、快適なかくれんぼをしている気持ち。
じゃあ、見つけて欲しいと思うとしたら、誰?
真っ先に思い浮かぶ人は
私を絶対に見つけてくれない人。
私があと少し若かったら、もしかしたら私が鬼だったかもしれないけど。
Amore ヴァイオリン 鍵盤 甘い旋律
今夜もここでいいやと思った。