とある飛空士の夜想曲下 幕間 | ひっぴーな日記

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「魔犬がバルドー機動艦隊に触接しているっ!」

その知らせは飛騨の直掩機にも響いていた。魔犬の名は当然帝軍の中でも皇軍でも響いている撃墜王。千々石武夫。皇軍に存在するという「海猫」と同じぐらいの、いやそれ以上に聞き及んでいる名称である。

第一機動艦隊、八神艦隊が転進、一路バルドー機動艦隊を目指したのには流石の周囲の護衛艦も直掩機も途惑った。しかし蓋を開けてみればこういうこととだ。

バルドー機動艦隊は遥か四万メートルもの距離を挟んでいる。さらにこの距離ならば直掩に気づかれることなく
、更に言えばその直掩諸々囮の三好艦隊へと飛び立ってがら空きという状態だ。

飛騨、摂津の五十センチ砲を一方的に浴びせることが出来る格好になっている。それもどうしてか、雲鶴飛行隊にいる千々石がバルドー機動艦隊の三百も超える敵直掩機は円状に周り、一機も飛んでこない。周囲に優秀なレーダを持っているあの機動艦隊は流石に四万メートルも離れているこの超弩級戦艦も補足はできないだろうが、直掩に配された飛騨飛行隊中隊長世古誠中尉は千々石が原因ではないかと直感した。

先の戦闘で列機を連れ、たった三機で艦隊に爆弾を直撃させた男だ、あの中に噂の「海猫」がいてもおかしくない。

 そんな忘我の淵にいた世古は飛騨の回頭に気づく。この敵の砲弾が当たらない場所から、一方的に叩きのめせる位置から一トンを超える鉄甲榴弾を送り届けることができる。

 飛騨の右回頭と同時に摂津も回頭し始め、終わるとその搭載された五十センチ三連装砲塔三基が仰角を付け始めた。

 いくら千々石が着弾観測しようともこの距離は一キロ先のアリに小石をぶつけるぐらいに神業だ。だが、一日一週間の訓練と言われるこの二つの超弩級の船員の錬度は高い。

 初弾で交叉する。

 そう思った世古は真電改の無線機を掴み、直掩機らに指示を出す。

「飛騨が撃つぞ! 高度をあげろ!」

 直掩とはいってもたった十四、自分をいれて十五、一中隊の乏しいものだ。

 まず飛騨の五十センチ砲の九連続発射は、周囲の飛空機にとって脅威だ。実際、飛騨の主砲が火を噴いた直前、周囲から音が消え、爆風と衝撃波に襲われた。その閃光と発生した気流に思わず失速しそうになり、搭乗席から投げ出されそうになる。直前でオーバーブーストで直上に向かった為この程度ですんだが、他の直掩機も無事で済んだようだった。

 高度七千で巡航に戻り、その隊列を戻しその様子を見た。

 高い高度からなのかやはりわかりずらいが、輪陣形を組んでいる空母付近に巨大な水柱が上がるのが分かった。煙が出ないところを見ると直撃弾ではない。

 やはり初弾で交叉。飛騨の船員達はもし生き残れば永延に語り継がれるだろう。

 次弾は摂津も組んでの十八発の一トンの弾が龍の雷のごとくバルドー艦隊を襲う。あちらの無数の直掩機はなぜかこちらに飛んでこない。いや、千々石がひきつけているのか、どうなのか。

 次弾は直撃だった。目測三百メートル級の空母が二つに折り曲げられ、爆発、沈んでいくのが分かる。もはや飛騨と摂津の独壇場だった。

「バルドー機動艦隊を撃沈後、太刀洗湾へ転進。一機たりとも飛騨に敵機を近づけるな」

 世古は指令所からの命令を部下に伝えた。太刀洗いにはほぼ航空戦力はないといってもこの数でどこまで持つか。持たせることが出来るか。

 別れの時は近い。