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桜井市長 遠いところ、わざわざ来ていただいて、ありがとうございます。
武豊騎手 いえ。ずっと被災地に行きたいと思っていたのですが、どこに何をしに行けばいいのか分からずにいたんです。そんなとき、今年も相馬野馬追が開催される(23~25日)と聞いて、馬関係のことなら力になれるかもと思いまして。
桜井 津波で亡くなった人や、原発事故で避難を余儀なくされた人がいるなか、できる限りのことをしようということになりました。ハイライトの甲冑(かっちゅう)競馬と神旗争奪戦がない縮小開催となるのは残念ですが、伝統をつないでいけることは、よかったと思います。
武 1000年以上の歴史があるお祭りですものね。
桜井 例年なら、騎馬武者が500騎ほど参加するのですが、今年は90騎ほどになりそうです。
武 このあたりは馬が多く、馬との生活が根付いていますよね。
桜井 南相馬市を含む旧相馬郡内で、250頭ほどが飼われています。あとは、他の地域から借りて野馬追に出しています。
武 野馬追に出ている馬の多くが、元競走馬なんですよね。それも、約20キロもある甲冑を着た人を乗せるので、9割以上が牡馬だとか。牝馬は引退後、ほとんどが故郷の牧場に帰れますが、野馬追が、牡の元競走馬の大きな受け皿になっていることは、ぼくたち競馬関係者にも案外知られていません。
桜井 野馬追のためだけに馬を飼っている人もいますよ。馬が好きな人たちが、それだけたくさんいるということです。競走馬としては一線を退いても、ここで野馬追と春秋の振興競馬で走っている。
武 振興競馬とは?
桜井 野馬追振興の意味で開催しているもので、乗り手がジョッキーの格好でレースをします。
武 市長も野馬追に参加されるのですか。
桜井 ええ、追執行委員長ですから。
武 甲冑競馬や神旗争奪戦にも、ですか?
桜井 いや、さすがにそれは(笑い)。親族には長年参加している人間が何人もいるのですが、私は去年、騎馬武者行列で初陣を飾りました。
◆生観戦したい
武 市長が「世界で影響力のある100人」に選ばれるきっかけとなった映像のバックに、相馬野馬追のポスターがありましたね。何か、メッセージや思いを込めたのですか?
桜井 いえ、結果としてアピールする役割を果たし、世界中のメディアから「野馬追はどうするんだ?」と聞かれるようになりましたが、たまたまポスターの前で撮影しただけです。初めてユーチューブに動画をアップしたのは、震災2週間後の3月24日。あの頃は、そんな余裕はありませんでした。とにかく物が入ってこなかったので、何とかしなければ、と。政府は何もしてくれないし、マスコミも来てくれないし…。
武 僕たち競馬関係者や競馬ファンが、野馬追のためにできることは、どんなことでしょうか。
桜井 やはり、情報を共有していただけるとありがたいですね。すでにJRAから支援金をもらったり、昨年は大井競馬場でPRイベントをさせてもらったりしていますが、さらに武さんのような人が、事あるごとにいろいろなところで野馬追について語っていただけるとうれしい(笑い)。
武 守っていかなければならない大切な馬事文化ですから、そうします。
桜井 馬事文化が根付いているアメリカ、フランス、ドイツの人々は、気にかけてくれますね。姉妹都市のアメリカ・オレゴン州のペンドルトンには、ラウンドアップという馬の祭りがあり、特に熱心に応援してくれます。
桜井 武さんの先輩の木幡初広騎手、ここの出身なんですよ。
武 え? 福島というのは知っていましたが、南相馬市だったんですか。
桜井 私の家のすぐ近くで、うちも彼の実家も津波でやられ、しかも原発から20キロ圏内の警戒区域なんです。
武 いま、木幡さんのご家族全員、美浦の木幡さんのお宅で暮らしているそうです。
桜井 実は、去年の野馬追のとき、初広君のおやじさんに、軽くて持ちやすい太刀を借りて乗ったんですよ。初広君の両親も姉2人も、よく知っています。おやじさんは農協に勤めていて。私は、酪農を26年やっていましたから。
武 市長は、震災後50日間、この市長室で寝泊まりしたと聞きましたが。
桜井 そう。隣の部屋でカップラーメンを食べながら。自宅が警戒区域にあるので、今も知人宅から通っています。朝早く来て、夜遅く帰って寝るだけ。結構気の毒なんですよ(笑い)。だから、被災者の気持ちが分からないでもないんです。
武 というか、市長ご自身も被災者なのでは?
桜井 そうなのかもしれませんが、自分たちが悲惨な立場だとは思っていません。被害は、自ら克服しなければならない。3月11日は、朝にランニングして自宅で着替えて登庁したら、議会の最中に地震がきたんです。午前中、中学の卒業式であいさつをしたのですが、その子たちのなかからも犠牲者が出たのがショックでした。
◆勇気もらった
武 去年まで、7月23日から25日までと日にちで決まっていた野馬追の開催日が、今年から変わったそうですね。
桜井 7月の最後の土、日、月曜日になりました。たまたま、去年までと同じ日付になりましたが。
武 今年は、24日の日曜日に函館で騎乗するので、月曜日の午前10時から始まる神事に間に合わないのですが、来年は何としても駆けつけたいと思っています。
桜井 ぜひいらして、武さんも騎馬武者姿を披露してください(笑い)。
武 来年は、本来の形で実施したい、と?
桜井 500騎のうち、少なくとも300騎以上は並べたいですね。
武 神旗争奪戦、前から見てみたいと思っていたので楽しみです。
桜井 ただ、月曜日の神旗争奪戦は、小高郷の騎馬武者だけなんですよ。本来は300騎以上での争いなのに、80騎ぐらいしか出ないんです。
武 それでも充分な数だと思います(笑い)。
桜井 平日開催だったとき、木幡初広君も甲冑競馬に出たことがあるんです。のぼり旗で上体があおられたりと、普通の競馬とは違うのですが、武さんなら何をやっても大丈夫でしょう(笑い)。
武 きょうは、野馬追や南相馬市の方々を応援するつもりで来たのですが、市長やみなさんに、逆に力付けられました。今後、僕にお手伝いできることがあれば、何でもおっしゃってください。
桜井 はい。まだまだですが、これからも前向きに復興への道を進んでいきます。ポジティブな考えを世界に発信しながら、気概を持って、新たな発想の街づくりをやり切りたいと思っています。
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