生きるべきか、死ぬべきか。戦うべきか、降伏すべきか。 a | barsoのブログ

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 質問:日本が隣国から侵略されたとき、戦うべきか、降参すべきか、迷って悩んで夜も寝られません。どうしたらいいか教えてください。(迷える子羊より)

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隠「さあ、重要な質問だ。熊さんなら、どうする?
クマ「うーん、ご隠居、俺は降伏なんかしねえ。徹底戦います。だが、命は失いたくねえ。正直いうと『生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ』です」
隠「お、ハムレットの心境か。熊さん、じつはその名文句は、いざ戦争が始まった時の対処法をも示唆しているのだが、その前にちょっとその翻訳に疑義がある話をしようかね
クマ「あら、誤訳なんですか」
隠「原文は、」
クマ「言えますよ。ツービー オア ノッツ ツービー、ザッツ イズ ザ クエスチョン」

 

隠「よく覚えていたな。そう、“To be, or not to be, that is the question.”。この “be” は日本人にはちょっと難しい単語だ。生きるとか死ぬといった意味はないのだが、そうだな、熊さん、ビートルズの名曲 “Let It Be” の意味を知っているか?
クマ「レッツ イッ ツビーは、確か “自分らしく 素直に生きればいい” という意味だったような気がします」
隠「お、熊さんは記憶力がいいな。“be” はbe動詞の原形で、基本的に『いる・ある・なる』と覚えればいい。『あるがまま』と訳せばスピリチュアルの標語になるが、 “Let It Be” はじつは英訳聖書に出てくるのだよ」 クマ「あら、聖書から採ったんですか」
隠「場面は受胎告知。天使ガブリエルが処女マリアに現れて、『あなたは妊娠して子供を産む。子をイエスと名付けなさい』と言う。マリアは性経験がないので最初は信じないが、『神に不可能はない』と言われて素直に信じて、“let it be” すなわち『あるがままに』『み心のままに』と答える
クマ「ははあ、そうすると、ハムレットは『あるがままでいいのか、あるがままじゃ駄目なのか』迷ったんだ。生きるか死ぬかの、そんな大問題の二者択一じゃねえんですね」
隠「そう、生きたいのは人間なら当たり前の感情だ。だが、生きているにしても、今のままでいいのか悪いのか、その決断が付かなかった。だからハムレットは優柔不断タイプの典型とされているのだよ
クマ「そうか、ハムレットは、どうしたらいいか検討したんだ」
隠「そう、検討士とはおおむね、決断力がない人を言う

 huayet7.jpg
 Dante Gabriel Rossetti “Hamlet & Ophelia”

クマ「でも、なんでまた迷ったんですかね」
隠「我が家に小田島雄志訳のがあるが、ええと、この辺に、あった、この三幕一場には、こう書かれている。

 

 

 このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ。
 どちらが立派な生き方か
 このまま心のうちに暴虐な運命の矢弾をじっと耐えしのぶことか、それとも、
 寄せくる怒涛の苦難に敢然と立ちむかい、闘ってそれに終止符をうつことか。


クマ「あら、『生きるべきか、死ぬべきか』じゃないんですね」
隠「そう、『このままでいいのか、いけないのか』という訳は、直訳的な訳だよ。ハムレットはデンマーク王の王子だった。父王が実の弟に毒殺されて王位を奪われたらしいことを知ったとき、その『暴虐な運命をじっと耐え忍ぶか』、それとも父を暗殺した王と『闘って苦難に終止符を打つか』、どうすることが『立派な生き方か』と悩んだのだ
クマ「そうか、なにが『立派な生き方か』熟慮したんだ」

skwiqwh.jpg父王の亡霊が現れて、 

「じつは弟に毒殺された」
とハムレットに次げる。
一緒にいるのは
親友のホレイショ。
 Fichier:Hamlet, Horatio, Marcellus and the Ghost 


隠「その『立派な』と訳されている原語は “nobler” で、『崇高な』とも訳せる。『男らしい』と訳している翻訳者もいる。ハムレットの願いは、堂々とした高潔な生き方をすることだった
クマ「でも、ご隠居、「親の仇を討つのは正義なんだから、問答無用で殺してしまえば、すぱっと決着を付けられるんじゃねえですか」
隠「そうだな、『このままでいい』はずがないのはハムレットも分かっていたが、問題は恐いことがあった。続く独白を読むよ。

 

 

 短剣のただ一突きでのがれることができるというのに、
 つらい人生をうめきながら汗水流して歩むのも、
 ただ死後にくるものを恐れるためだ。
 死後の世界は未知の国だ、旅立ったものは一人として戻ったためしがない。
 それで決心がにぶるのだ。
 
 見も知らぬあの世の苦労に飛び込むよりは、
 慣れたこの世のわずらいをがまんしようと思うのだ。
 このようにもの思う心がわれわれを臆病にする


隠「『短剣のただ一突きで』いまの苦しみは逃れられても、『死後の未知の世界』が恐ろしい。だから『決心がにぶる』『もの思う心がわれわれを臆病にする』と言っている
クマ「なるほど、死ぬのは一瞬だが、死後の世界は『未知』だから恐ろしいんだ」
隠「天国にしても地獄にしても、行って戻ってきた人間はいないしな、ま、悩むのも無理はない
クマ「ハムレットって、ふにゃふにゃしている人間じゃなく、強い人間に思えてきました」
隠「誠実な人間は、いかに生きれば良い名を残せるか?を考える。しかし俗な人間は現世の命第一だ。とにかく金儲けや野心など現世の利得を第一に考える
クマ「だから『戦う一択じゃなく、とっとと占領されたほうがいい』なんて言うんですかね」
隠「うむ、利己的な人間は信義とか道義というものがないから、平気で自国を裏切ったり、あるいは逆に他国を侵略したりする。熊さんや、世界の歴史は、国と国との領土争いの繰り返しだ。世界地図はしょっちゅう書き換えられてきた。ところが日本国は世界で一番歴史が長く続いている稀有の国なのだよ」 

クマ「あのローマ帝国だって今はないですもんね」
隠「そうそう、日本が戦争に負けて占領されたのは、アメリカに一回だけ。これも世界の歴史上、非常に珍しいのだよ
クマ「はいはい、昔の日本は中国にもロシアにも勝ってます」

 ksiruo9.jpg
 日本が英・仏・伊と並んで常任理事国だった国際連盟。のちに独・ソ連が加わる。

隠「バイデン大統領が日本に来たとき、『日本の常任理事国入りを支持する』と言った。リップサービスだが、ロシアがつぶれるのが前提の発言だから、プーチンははらわたが煮えくりかっているだろう」
クマ「プーチン閣下は頭カッカ」
隠「うむ、日本人も、独裁者に侵略させない必要十分な抑止力を持ち、大和民族の自尊心と向上心をもっと表せば立派で崇高な国になれるのだが、問題は9条信仰と事なかれ主義だ。日本人が早くハムレット型の優柔不断から脱却できればいいのだがなあ
クマ「それでは、ご隠居、ちょいと空気吸いに出掛けてきます」
隠「おや、どこに?
クマ「はい、近くの『ドンキ』まで」


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「今日のひとこと」
平和憲法があるからといって、世界が日本を優しく扱ってくれると期待するのは、 

自分がベジタリアンだからといって、牛に襲われないと期待するのと似ている。

(諧謔と知性のブログ『夏への扉』のジョーク(2022/05/25)のパロディです)