barsoのブログ

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世の中に人生ほど面白いものは無し。いろいろな考えを知るは愉快なり痛快なり。
FC2にも共通の姉妹ブログを持っています。タイトルは 『バーソは自由に』 です。
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 ことばは、遊びで造られる。
 現代人は www(笑い)、リムる(解除する)、8888(拍手)などのネットスラングを作り出したが、漢字しかなかった万葉人は日本的な知的遊戯として、機知に富んだ「戯書(ぎしょ)」、すなわち現代で言う「当て字」を作り出した。

 心頭冷却すれば、夏もまた涼し。
 万葉仮名の多様な読みを愉しんで、気持ちだけでもクールにしてみませんか。

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 以下の「戯書」は万葉仮名の例。頓智のような読み方が面白い。
 (空欄3か所は理由を考えてみてください。ドラッグすれば正解が出ます)

1.「十六」=シシ(猪や鹿のこと)と読む。[掛け算で、四×四は十六だから]
2.「二八十一」=ニクク(憎く)と読む。[ニと、八十一は掛算の九×九だから]
3.「三五」=モチと読む。[三×五は十五。十五夜の月はモチヅキと読むから]
4.「山上復有山」=イデと読む。[山の上にまた山があるから「出」となる]

5.「向南山」=キタヤマと読む。[南に向かっている山は北にあるから]
6.「目不酔草」=メサマシグサと読む。[酔ってなければ目が覚めている]
7.「所聞多」=カシマと読む。[聞くところ多ければ(女は)カシマしいから]

8.「左右手」=マデと読む。[両手そろえば完全なので真(マ)となるから]
9.「義之]=テシと読む。[王羲之=中国東晋の書家=字の達人=手師=てし]
10.「孤悲」=コヒ(恋)と読む。[広辞苑:一緒に生活できない人や亡くなった人に強くひかれて、切なく思うこと。特に男女間の思慕の情。恋慕]

《現代ヴァージョン》
11.「生生生生生」=アイウエオと読む。[過去の拙記事で説明。→クリック]
12.「光宙」=[ピカチュウと読む]。ヒントは任天堂。
13.「泡姫」=アリエルと読む。[泡になった姫=リトル・マーメイドの人魚姫]
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  『万葉仮名』は、漢字を本来の字義とは無関係に使っている。
 万葉仮名の文章は漢文のように漢字が羅列しているが、五七五七七を頭に入れて考えれば、いろんな読みができる。
 下記は柿本人麻呂の有名な和歌だが、どう読んだらいいか?

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 この歌は、古くは次のように読まれていたらしい。
 あづま野の けぶりの立てる 所見て 返り見すれば 月傾ぶきぬ
 (東国の野に、煙が立っているのを見て、振り返ったら、月が西に傾いていた)

 しかし江戸時代の国学者・賀茂真淵はこう読んだ。
 (ひむがし)の 野にかぎろひの 立つ見えて かへり見すれば 月傾ぶきぬ
 (東の野に、かげろうが立つのを見て、振り返ったら、月が西に傾いていた)

 違いは何か。
 歌の前半は、上の古い読みでは「あづま野」つまり東国の「けぶり(煙)」と読んだが、下の真淵読みでは「東のほうの」の「かげろう(暁の光)」と解釈したので、ちょうど蕪村の「菜の花や月は東に日は西に」のように、東の太陽光と西の月光の対照感が出てきて、その両者の淡い光の違いが東西の空に感じられる神秘的な情景描写となっている。
 私は「ひむがしのぬに~」と、「野」を「ぬ」と読むと覚えていた。

 結句の「月西渡」を「月傾ぶきぬ」と読んだのは賀茂真淵だと思っていたが、今回調べたら、それ以前から読まれていたようだ。https://00m.in/SGPLv;
 この真淵読みのほうは名訓とされ、現代にまで通用している。

  p64ne6 (2)


 なお、当然ながら、結句の「月西渡」は、元々「ツキ ニシ ワタル」と素直に読んだという説もある。
 (ひむがし)の 野らには煙 立つ見えて 返り見すれば 月西渡る
 東(あづまはや) 野火立つ見えて 返しけむ しかせば月は 西に渡らむ


 「月が西に渡る」と読むと、月が西の空に大船のように移動していくようで雄大感はあるが、「月傾ぶきぬ」のほうが語感に詩的な情感があるように感じる。
 むろん、この読みも正解かどうかは分からない。

 同じ言葉でも、読み方によって受ける印象はまるで変わってきます。
 同じ言葉でも、一部を切り取られるとまるで意味が変わってきますね。

 

 


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●掛け算の「九九」は大和時代に中国から伝来。今は「一一」から昇順で覚えるが、当初は「九九」から始まる降順で唱えられた。
●『万葉集』は今から1300年も昔に、全20巻・約4500首の歌を集めた歌集。その作者層は 天皇、貴族から、下級官人、防人、農民、遊女、乞食芸人、詠み人知らずまで幅広い階層に及び、詠み込まれた土地も東北から九州に至ることを考えると、当時の日本人の知的レベルと文化意識がいかに高かったかが分かる。
●『万葉集』の用字を初めて分類したのは、本居宣長の門人だった小佐野和泉に学んだ僧・春登が文化十五年(1818)に出した『万葉用字格』という本。春登は、正音・略音・正訓・義訓・略訓・約訓・借訓・戯書の八種類に分類した。
●「傾く」とは、小学館デジタル大辞泉によると、①物が斜めになる。かしぐ。②太陽や月が沈みかける。③「勢いが衰える。ふるわなくなって、存在が危うくなる。④考えや気持ちがしだいにその方へかたよる。また、その傾向を示す。 ●画像は生成AIのMicrosoft BingのImage Creatorによります。
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