ファーストアルバムは散々聞いたし、このセカンドアルバムも車の中でもう何回も聞き倒しているが、僕はこの中でUmbrella(アンブレラ)が一番のお気に入りだ。

歌詞カードを見もせず、その曲の題名が何なのか知りもせず、とにかくひたすらデッキに入れっ放しで聴いていた時期に妙に気になり、この「アンブレラ」だけは歌詞を見ながら聴きなおした。もちろん「チェリー」だとか「ローリングスター」だとか、どこかででも流れる曲は始めから耳に馴染んでいるが、この「ちゃ~ぷ、ちゃ~ぷ・・・」で始まるモノトーンのメロディは一種独特の空気をたたえていて、このアルバムの中では全く違う匂いを発していたのだ。


ちゃぷちゃぷ雨がふる二丁目の路地

あなたを迎えに駅までゆくの

ちゃぷちゃぷ本当はケンカしたから放っておきたいけれど

黒い傘忘れてた だから

待ってるのよずっと待ってるの

許してあげるだから早く マイダーリン

改札口が見えるこの場所で

困り果てたあなたの事捜すけれど

今夜も帰りが遅いね


ちゃぷちゃぷ降り続く二人の間に小さな水たまり

白い靴汚れてた だけど

待ってるのよずっと待ってるの

許してあげるだから早く マイダーリン

改札口が見えるこの場所で

手を振っているあなたの事捜すけれど

今夜も帰りが遅いね


わかってるはずなのに

雨が降るたびここに来てしまう 今夜も

待ってるのよずっと待ってるの

許してほしいあたしのこと マイダーリン

改札口が暗くなるたびに

優しかったあなたの事想って泣いた

今夜も帰りが遅いね

今夜も帰りが遅いね


行を開けて歌詞を3つに分けた。1番と2番、それに最後の展開の部分だ。この3つはいわゆる三段論法でいうところの「序・破・急」にあたると思う。


では、彼がうっかり忘れていった傘を手に、駅に迎えに行っている。ただ、ケンカした為にあまり気がすすまないのだ。そうは言いながら、「許してあげ」ている。ここまでは、ケンカも些細な事のようだし、「許してあげて」もいるから、「まぁカップルにはよくあること」と軽く流せそうだ。むしろ「ケンカしたから」とふてくされた言い方から「放っておきたいけれど」「だから」と畳み掛けるあたりは揺れる感情の振幅をよく表わしていて心を突き動かされる。つまり、「ケンカしたんだから雨に濡れようが知ったこっちゃない」ではなく、「ケンカしたからこそ」気持ちがそれ以上離れる事を怖れ、大切な人が雨に濡れる事を放っておけないのだ。


では、「実は事態は深刻なのではないか」と聴く側に思わせる展開が開く。

「些細な事」と思っていたが、水たまりが出来てしまっている事が告白されるのだ。しかも、単に「雨が降る」ではなく、「降り続く」とあり、少しずつ少しずつ、時間をかけて出来た水たまりだと明かしている。そうして「白い靴汚れてた」とある。これは、僕は「白い靴=女の子」と解釈した。ここまでで、ケンカの原因やどちらが悪いのかも明かされていないが、「白い靴汚れてた」によって、女の子の方に実は非があるという吐露だと思うのだ。

「待ってるのよ」以下はと同じだが、最後の1文に変化が見える。「困り果てたあなたの事」ではなく「手を振っているあなたの事」と言っている。つまり、「許してあげる」と言っていた自分優位の立場ではなく、「許して欲しい」そして「迎えに来た自分を、仲の良かった以前と同様に温かく受け入れて欲しい」という願いが透けて見える。

「降り続く雨」=「二人の関係に生じたかすかな齟齬(そご)」が、次第に「水たまり」=「認め合っていた仲に生じた溝」となり、距離が少しずつ離れている。女の子はその原因は自分だと認め、ざんげの気持ちを抱き、「手を振っているあなたの事」その姿をひたすら待っているのだ。


そしてだ。


以下続く。


参考記事:YUIと鬼束~その母性と父性