世界フィギュアを見て感じた事だ。
金メダルを獲得して女王の座についた安藤美姫と銀メダルの浅田真央。
前日のSPから、二人ともコスチュームを変えて挑んだわけだがそれが揃って赤だった。おそらく勝負を懸ける意気込みかと思うが、色は同じでもそこには明らかな違いがあった。安藤の方は背中が大きく開いた、赤といってもワイン色に近い深い赤。
浅田は胸元に飾りをあしらった、原色っぽい鮮やかな赤。
そこには3歳の年齢差があった。
前に安藤はこんな事を言っていた。
浅田を見て、「この子はすごい。必ず出てくる子だし、この子が完璧な演技をしたら絶対に勝てない」と。しかしこうも言っていたと思う。
「その年齢に応じた滑りがあるはずで、真央の真似をするんじゃなくて、自分のパフォーマンスをしっかり出せばいい」と。
それは今回、衣装にも明確に表れていた。
浅田はSPで5位と出遅れ、その遅れを取り戻す為に自分の全てを出す覚悟で挑み、見事にやってのけた。前評判では金メダルの期待が大きく、それはもう想像もつかないプレッシャーだったはずで、SPで失敗した分も負担になり、精神的にかなり追い込まれていたと思う。その大一番で素晴らしい演技をやり切るところが彼女の凄さでもあるが、演技が終わった時点で全てが開放され、まだ演技者が二人残っている段階で、また得点も出ていない時点で、言い換えると「メダル獲得が確定していない」にも関わらず喜びを爆発させて涙を見せた。ゴルフで言えば出入りの激しい、結果オーライとはいえ危なっかしい二日間だった。それが若さでもある。見ている側としても、「彼女の精神的苦痛」と、「それをはねのけたことが理解できた安堵感」で開放されたし感動もさせてはもらったが。
それに対する安藤。
初日のSPではきっちり演技をまとめ、2位の好位置につけた。
二日目のフリーについては、逆転を狙って『諸刃の剣』である4回転サルコーへの挑戦も口にしたが、ウオーミングアップ中、絶対の自信はないと見るやすっぱりと気持ちを切り替えて確実な構成を選択した。そのフリーの演技は堂々たるもので、大人の演技を思わせる華麗な滑りだったと思う。衣装についてもうひとつ付け加えるなら、安藤のそれはお尻が綺麗に見えるというか、見えやすいというか、「敢えて見せたのか?」と思えそうな、色気たっぷりなものだった。
安藤は演技終了後も充実したやり切った様子はあったものの冷静な表情を崩さなかった。浅田と好対照だ。大人だ。そうして、最後の最後、自分の得点が誰よりも高い事をはっきりと確かめて、その時初めて落涙したのだ。最終演技者というのは誰よりも緊張するはずで、しかもキム・ヨナがチャンスをくれていて、妙な減点さえなければ逆転可能な状況。気持ちの維持はかなり難しかったに違いない。そこを安藤はやり切った。
素晴らしいのひと言に尽きる。
採点競技はある意味冷酷だ。
自分の最高のパフォーマンスが出せたとしても、他の選手がそれ以上のものを出せば勝てない。また、自分自身で最高だと感じていても、採点は開けて見なければわからない。
村主章枝が前にこぼしていた。
「これ以上どうしたらいいのか自分でもわからない」と。「根本的な部分から構成しなおす必要があるかもしれない」と。
彼女自身が納得していたのに、得点は思ったほど伸びなかったからだ。そう言う意味では、中野友加里も厳しい立場にいるのかなと思う。それなりにやれているようだが、メダルには届かず、おそらく120%の演技が出来たところでメダルの圏内に滑り込むのがやっとという感じだ。
だから、思い描く滑りが高得点にそのまま結びついている安藤と浅田は乗りに乗っていると言える。
上り調子の浅田を意識しすぎることなく自分のベストを尽くす安藤。
粗さはあるものの、やっぱり誰もが認める浅田真央。浅田がコンスタントにベストパフォーマンスを引き出す事の出来るような、そういうメンタルの強さを身につけたらまさに敵なしだろう。
練習で100回連続で成功しても、本番で101回目を失敗したら全てが消える採点競技。
銀盤で舞う彼女達の姿は本当に美しく、わずかな違いが失敗につながる氷上における数分間の、刹那の幻。
史上初の1、2フィニッシュを成し遂げてくれた二人には、おめでとうと同時にやっぱりありがとうと言いたい。
