近所にTさんが住んでいる。確か、僕が中学1年の時に引っ越してきた一家だ。以来25年余をご近所サンとして過ごしている。そこに今日、回覧板を回してきた。取り立てて急ぐ内容でもないが、回覧板というものは右から来たら左に回さなければならないシステム。玄関から「回覧板で~す!」と声をかけ、上がり口に置いたら失礼するつもりでいた。ところが、声で僕と知れたらしく「は~い!・・・久しぶりだねぇ!最近どうしてるのぉ?」とTさんの方から声を掛けられて足止めされた。実は、Tさんの息子は僕と同級生なのだ。だから親しみが湧くと見えて、時々話し掛けられる。
Tさんの息子を仮に「つよし」としよう。まぁそういう感じの名前だし。
つよしは勉強にはあまり熱心でなく、さりとてスポーツに秀でる事もなく、それだけならクラスに埋もれてしまうような少年だった。しかし彼は遊びの時間になると急に力が出てきて、冗談を言ったり人を笑わせたりという「おもしろい」やつで、休み時間に目立つクラスの人気者だった。仲間からは、つよしはほとんど苗字を呼ばれなかった。男子にも女子にも、彼はすべからく「つよし」であり、「つよしクン」だった。逆に僕は下の名前を呼ばれた試しがない。あだ名は一応あったが、その呼び名を使うのは親しい友人だけで、それ以外はたいてい苗字で呼ばれていた。誰からも名前を親しげに呼ばれるつよしの事を、僕は時折羨ましく感じた覚えがある。つよしとは家が近かった事もあり、割合良好な仲だった。「内では敵対心を抱く」とか「そりの合わなさ」を覚える等は全くなく、さりとて「無二の親友」というほどの間柄でもない。つよしとは中学の3年間を同じクラスで過ごしたものの、高校で進路が分かれてそれっきりになっていた。僕が高校を出ると即座に東京に出てしまったせいもあり、つよしの消息は知れなかった。僕が30歳になる半年ほど前、約10年を東京で過ごして郷里に戻った時は、つよしの方も実家には既にいなかった。
町で久方ぶりにつよしの父であるTさんと再会した時、Tさんは嬉しそうに僕に話し掛けてくれたものだ。
「つよしはどうしてるんですか?」
「あぁ、福岡に行ったよ・・・結婚もした・・」
「あぁ、そうですかぁ。たまには里帰りしてるんですか?」
「・・・それがねぇ・・・3年・・くらい前から音信普通なんだよ」
「えぇ?連絡がとれないんですか?」
「・・・う~ん。もうさっぱりどこで何やってるかわからん。」
僕はびっくりして、もっと何かを聞きだしたかったが、実の父親がわからないものを、同級生だとはいえ10年も会っていない僕にできる事など咄嗟には見つからなかった。その後も3年に一度くらいのペースでTさんとは立ち話をするが、つよしに関しては二度聞いて二度とも「それっきり」という答えしかなかった。もう最近会ってもつよしの事は聞けないでいる。
ここまでが前ふり。長い。
続きは明日にします。