今回は、サービス残業代請求に関する判例を紹介します(つづき)。 
第3 当裁判所の判断
1 争点1(皆勤手当,無事故手当,住宅手当は時間外手当(残業代)算定の基礎となるべきものか)について
(1)本件において,原告らが時間外労働(残業)をした事実は当事者間に争いがない。したがって,通常であれば,原告らにこの時間外労働(残業)に応じた時間外手当(残業代)請求権が発生する。本件では,この時間外手当(残業代)の算定に当たり,被告の賃金中に設けられている各種手当のうち,皆勤手当,無事故手当,住宅手当が算定の基礎となるかが問題となっている。
(2)前記争いのない事実のとおり,被告は,
ア 平成18年7月21日,〔3〕の皆勤手当と〔4〕の無事故手当を時間外手当(残業代)の算定基礎から外すと通告し,同年7月末日支払の賃金から上記〔3〕と〔4〕の各手当を時間外手当(残業代)の算定基礎から除外して計算し,支給した(前記争いのない事実(4))。
イ 同年10月19日,組合との間で,同年7月に遡って,〔3〕の皆勤手当と〔4〕の無事故手当を時間外手当(残業代)の算定基礎から外すことを合意する労使協定2を締結した(同(5))。
ウ 同年12月4日,組合と,12月支払の賃金から〔2〕の住宅手当5万円を4万円に減額し,そのうち1万円を時間外手当(残業代)の算定基礎から除外することと,トレーラー運転手の〔5〕の乗車手当7万5000円を6万円に減額すること等を内容とする労使協定3を締結し,同年12月支給の賃金から,上記協定により計算した時間外手当(残業代)を支給した(同(6))。
エ 組合と,平成19年2月に遡って,〔3〕の皆勤手当と〔4〕の無事故手当を廃止し,代わりに同月以降の給与につき,2か月ごとに査定の上,2か月ごとに支給される精皆勤報奨金・無事故報奨金を設けることを内容とする,平成19年7月23日付け労使協定4を締結した(同(7))。
(3)労基則21条は,「法第三十七条第四項の規定によつて,家族手当及び通勤手当のほか,次に掲げる賃金は,同条第一項及び第三項の割増賃金(残業代)の基礎となる賃金には算入しない。」として,「別居手当,子女教育手当,住宅手当,臨時に支払われた賃金,一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」を掲げる。ここにいう「臨時に支払われた賃金」とは,臨時的,突発的事由に基づいて支払われるもの及び結婚手当等支給条件は予め確定されているが,支給事由の発生が不確定であり,かつ非常に稀に発生するものをいう(参照,昭和22年9月13日発基第17号)と解される。上記規則21条に列挙されたものは,労基法の強行法規的性格からいって,限定列挙又はそれに近いものと考えられる。したがって,ここに列挙された手当以外の費目は,基本的に時間外手当(残業代)の算定の基礎となるものというべきである。そして,算定の基礎となるか否かは,手当の名称にかかわらず,その実質によって判断されるべきである。
(4)平成19年7月以前に,前記皆勤手当,無事故手当,住宅手当及び乗車手当が,運転手である各従業員に一律支給されていたものであることは,前記争いのない事実(3)のとおりである(ただし,乗車手当については,運転する自動車の種類により金額が異なる。)。本件全証拠によるも,上記各手当が,皆勤手当であれば各従業員の出勤,欠勤の様子により,無事故手当であれば運転手である従業員の事故を起こさなかった頻度等により,住宅手当であれば従業員の支出している住宅費の額により,乗車手当であれば当該種類の自動車を運転した距離や荷物の種類・量等により,いずれも個別に査定を経た上で,支給されるものであるとは認められない。したがって,これら手当のうち皆勤手当及び無事故手当は,基本給と同様な賃金の一部であるということができ,これを時間外手当(残業代)の算定の基礎から除外して計算して時間外手当(残業代)を支給する行為(上記(2)ア)は,労基法37条4項及び同法施行規則21条に違反するというべきである。
 この点,被告は,これら手当の支給と額を定めた労使協定1が,暫定的・試験的なものであると主張し,被告代表者本人及び(証拠略)はこの趣旨を述べ,甲1にも「暫定的処置として下記のとおり合意した」との記載がある。しかしながら,暫定的なものであっても,上記(3)に列挙した手当に該当しなければ,通常の賃金の一部であるから,その手当が存する月の時間外手当(残業代)の計算においては,算入しなければならないものである。さらに,同協定に掲げられた各手当が,前記判示の「臨時に支払われた賃金」の定義に該当するとは到底いえない。したがって,仮に被告主張のように,これら手当を定めるに当たって,暫定的処置として設けたという経緯があったとしても,結論を左右しないというべきである。
(5)上記(2)イ及びウの行為について
 平成18年7月に遡って,皆勤手当と無事故手当を時間外手当(残業代)の算定基礎から外すこと,及び12月支払の賃金から住宅手当5万円を4万円に減額し,そのうち1万円を時間外手当(残業代)の算定基礎から除外することと,トレーラー運転手の乗車手当7万5000円を6万円に減額すること,はいずれも労使合意の上で(少なくとも外形上)行われている。被告は,労働協約によりこれらが取り決められているから,これらのうち時間外手当(残業代)の算定基礎から除外する行為は,合法であると主張するようである。しかしながら,労基法は,労働条件に関する最低条件を定めたものであり,労働協約といえども,これに反してはならないことは当然である。したがって,労使協定2及び3のうち,上記のように時間外手当(残業代)の算定基礎から除外する行為は,上記(4)同様,労基法の上記規定に反するから,当該労使協定の効力につき検討するまでもなく,無効というべきである。その余の賃金減額行為等の効力については,後に検討する。
なお、企業の担当者で、残業代請求についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。そのほか、個人の方で、不当解雇保険会社との交通事故の示談交渉刑事事件多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題オフィスや店舗の敷金返還(原状回復)などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。