■戦評■J1第34節 ジェフ千葉VSFC東京 「ミスタージェフ」 | picture of player

■戦評■J1第34節 ジェフ千葉VSFC東京 「ミスタージェフ」

最後の結末を聞いて、うひゃー!と叫び声を上げながら泡を吹いて倒れ、気付くとそこは見知らぬ宇宙人に囲まれ(中略)遅くなりましたが、ともかく戦評いってみましょう。

■短評
とにかく奇跡を信じるしかない千葉は4-2-3-1。キーパーは今季初先発の櫛野。DFは右から坂本、池田、早川、青木。ボスナーは有給休暇。中盤の底には戸田と工藤で、なんとキャプテン下村はベンチ。二列目は右からレイナウド、ミシェウ、深井。1トップにはキャプテンマークを腕につけた巻が君臨。対するFC東京はキーパー塩田。DFが右から徳永、茂庭、佐原、爬虫類長友。中盤センターが今野と浅利。右に鈴木達、左にはにゅー。2トップはカボレと赤嶺のなんか顔濃いコンビ。

後のない千葉だが、その試合への入り方は常識的なものだった。中盤の速いチェックから守備をきっちりと固め、ボールを奪ったら前線の速攻でなんとかするという形。しかし、前線にばかっ速いトップがいるわけでもなし、FC東京の守備への切り替えも早いので、そうそう形にはならない。で、結局サイドから巻めがけてポートボールをすることになるのだが、いかんせん佐原は肉弾戦はお手の物。顔も講道館所属みたいだし。また、深井とレイナウドの突破から、という形を描いていたのだろうが、深井は絶不調。そしてレイナウドの対面は今売り出し中の長友。そして、必ず今野か羽生がヘルプに飛んでくる。サイドバックは上がってこないのでサポートはなく、不正確なアーリークロスを上げるほかどうしようもない。それでもシュートに何度か持っていった巻はたいしたものだが、これでは点にならないだろう。だが、元々、そういうゲームプランだったのだろう。前半は守備を締めて後半勝負。ミラー監督はそう思い描いていたはずだが、いかんせん39分にCKからカボレに決められその目論見は水の泡。暗澹たる気持ちで千葉は前半を終える。しかし、FC東京も自分たちのペースだったとは言いづらい。梶山がいないおかげで良くも悪くも遅い攻めがなく、鈴木達也やカボレの個人技で突破はしていたがそれも単調。鬼気迫る千葉のペースにつき合わされるような前半だった。

さて、後半。お互いにメンバーチェンジせずに入ったが、千葉はここからが本番。坂本、青木の両サイドバックが上がり始め、攻めに絡む。ただ、FC東京もそれですぐ崩れるほど脆くはない。確かに一対一の状況を作れるようにはなったが、ただそれでも長友、徳永の体力バカを簡単に振り切れるわけもなく、膠着状態。そうこうしているうちに、案の定SB上がったスペースを突かれて、最後は長友にミドルを決められるという逆噴射の展開。ほとんどの千葉関係者が頭を抱え、実際その後数分は混乱を極めたのだが、それでも気持ちが切れなかったのが後に生きた。ミラー監督はやけっぱちで新居と谷澤を投入。しかし、この交代も劇的な効果を生んだとは言いがたかった。谷澤が赤嶺をイラつかせることに成功したくらい。そのまま時は流れて、後半30分。パスカットを受けた谷澤がダイレクトで佐原の裏にロビングを送る。それを新居が左足のビューティフルトラップから迷いなく振り抜いてゴール。ストライカー新居の真骨頂。やっぱあそこで使わないとね、この人は。ただ、決めた新居がすごいことはすごいのだが、このゴールは偶然に近い。思うに、このときFC東京はプランを決めかねていたのではないか。とどめの3点を取りに前に行くのか、それともこのまま逃げ切るのか。中途半端に上がってくれていたおかげで、あの得点は生まれた。もちろん、佐原のポジショニングミスも見逃せない。ここからはいけいけ。その3分後には青木のロングクロスを巻が胸で落として、谷澤がボレーで同点。なぜ、あの場面で長友が競っていたのかは謎。そして、さらに3分後には今野が例年とは逆のやっちゃったでレイナウドをPA内で倒し、そのPKをレイナウド自身が決めて逆転。こんなに走っているレイナウドを見るのは初めてだ。そして、それからの五分間、FC東京の放り込みに耐えに耐え、最後は速攻から新居のスルーパスを受けた谷澤が独走で最後は浮かせて4点目。あそこでチップキックとか神経ぶっ壊れてるとしか思えない。その後は巻が本職のCBでボールを跳ね返し続け、ジ・エンド。他会場では東京V、磐田ともに破れ、まさに奇跡の残留確定。いやー、こりゃ盛り上がるわ。

千葉は奇跡的な残留を遂げた。0-2から11分で4点取ったなんて逆転劇をこの試合でやったということは確かにすごいが、そこには多分に運の要素も絡んでいた。しかし、運も引き寄せる人がいてこそ。主力の大量放出、クゼ監督のノープランなどの逆境から早めに切り替え、ミラー監督の招聘、即戦力選手の獲得など打てる手は打った。資金力不足から思うような補強ができなかった東京V、過去の栄光のオフト氏招聘でお茶を濁そうとした磐田とは、フロントの差があったと言えるだろう。確かに課題は多い。攻撃面での一本調子なビルドアップ、ミシェウのようなリズムチェンジャーのチームへの組み込み、レンタル選手との契約、DFのサイドのケア…上げればキリがない。ただ、そういった来季のことを悩むことが出来るのも残留してこそ。今はそんなことを考えなくて言い。ただ、偉大な仕事の余韻に浸ろう。

FC東京は最後の最後にナイーブさが出た。2-0の場面で中途半端な体勢になってしまったことが、この大逆転劇を生む一つの要因になったことは間違いがないだろう。あのとき鹿島だったらどうしたか、ということを考えてしまう。そこが優勝チームとのわずかな差でもあるし、大きな差でもある。ただ、千葉のようにその段階まで行き着くことができないチームは多い。一年でそこまで持ってきた城福監督と選手は賞賛されるべきだろう。このチームはこれからだ。ただ、来年はもっと厳しい戦いが待っている。そこを乗り越えられるかどうか。


■picture of player 巻誠一郎

この男のメンタルのタフさはどうなっているのか。もう負けられない試合の中、絶対絶命の状況に陥りながらも、とにかく諦めずに自分のできる仕事を100%以上の力で全うし続けた。その背中に味方がいかほど鼓舞されたかは想像に難くない。シーズンを通しても怪我の時期はあったが、それでも試合で常に戦い続け、少ないチャンスからゴールをもぎ取った。その姿は、サッカーが小手先の技術だけのスポーツではないことを無言で知らせてくれている。鉛を背負ったまま走り続けるような苦しいシーズンだったが、偉大なるミスタージェフが誕生したことは何ものにも代えがたい。引退までいてください。