ワールドカップ短評 19
■アルゼンチン1‐1ドイツ(PK2‐4)
■短評
優勝候補筆頭VS開催国の試合は、お互いに死力を尽くした戦いとなり、開催国の運が少しだけ上回った試合だった。アルゼンチンはコロッチーニとルチョ・ゴンザレスを入れ、3バック+ソリンの変則4バックのDFラインに、マスチェラーノ&ルチョの守備的MF。トップにはサビオラに代わって、テベスが入り、クレスポとコンビを組む。対するドイツは今まで通りの布陣だが、アルゼンチンの攻撃力を警戒してか、バラックのポジションはいつもよりも引き気味。前半は完全な潰し合い。両チームとも激しい中盤のプレスからいいボールを出させず、決定的チャンスお互いにゼロ。ドイツは今までのようにオフサイドを積極的にとりに行かなくなったので、守備ブロックがかなり安定した様子。また、テベスが裏を取るタイプではないため、サビオラがいなかったことが、ドイツにとっては幸いだった。テベスも確かにキープと突破力でアクセントになっていたが、いかんせん囲まれることも多く、またリケルメとプレーエリアががっつりかぶるため、ポゼッションを異常に高くするだけにとどまった。ドイツの攻撃に関しては、前半は特筆すべきことなし。慎重にいったこともあったし、2トップはアジャラ&エインセの前に完敗。試合は若干アルゼンチンペースだが、拉致問題もびっくりの膠着状態の中、後半を迎える。このまま後半も神経線が続くかと思われたのだが、開始早々にセットプレーからあっさりとアジャラがヘディングでゴールを決める。これでようやく試合は動き始める。バラックがポジションを上げ、その隙間にアルゼンチンMFが入り込んで逆襲という形で、ゲームに流動性が出てくる。ドイツはオドンコール、ボロウスキー、ノイヴィルと立て続けに選手を投入、対するアルゼンチンもカンビアッソ、クルスを投入し、守りに入る。プランの明確な変更もあり、徐々に試合はドイツのペースへ。ただ、ドイツの交代選手が有効に機能していたかどうかは疑問符がつく。オドンコールは再三突破していたが、有効とは言いがたく、ボロウスキーも時間とともに埋没していった。アルゼンチンは体を張って守り、決定的チャンスはほとんど作らせなかったのだ。おそらくこのまま試合は終わるはずだった。しかし、ここでやはり違いを見せられるタレントがいるかどうかという差が出てしまう。ドイツにはバラックがいたが、アルゼンチンにはリケルメがいなかった。後半35分に、バラックの折り返しをボロウウキーが流し、クローゼがヘッドで叩き込んで、アルゼンチンのプランは崩壊。アルゼンチンにとって誤算だったのは、GKのアボンダンシェリが負傷で退場したこと。これによって切れるカードが減ってしまい、リケルメを既に下げてしまったアルゼンチンにはなす術なし。どろどろの延長戦を経て、「サッカー以外のもの」で勝負は決定。PK戦になってしまっては、あのアウェーの雰囲気はかなり足かせになっただろう。試合自体は、守備の集中力、一瞬の判断の早さと、レベルが実に高かった。結果論でしかないが、アルゼンチンは守りに入ったことが悔やまれる。プランが崩壊した時こそ、能力の発揮どころだと思うのだが、リケルメ中心のチームでリケルメを外してしまっては、それも無理な相談か。地力では明らかに勝っていたため、本当に敗退が残念でならない。ただ、これもフットボールか。ドイツはもうイケイケ。判定負けの試合を殴り倒してまで自分のほうに引き寄せ、勝ち切ってしまった。バラックの状態が気になるが、彼がいればイタリアとも互角の戦いを演じられるのではないだろうか。
■picture of player ダヴィド・オドンコール
右サイドを中心に散々仕掛けまわり、有効かどうかは微妙だったが、膠着する試合状況をカオスに陥れた。また、とられたボールに対して殺人タックルをかます、自分で仕掛けたタックルで相手と口論するなど、天然気味のマッチポンプっぷりが目立った。ドイツにはいない自爆系キャラだが、ほんとにそのうち自爆するかもしれない。なに、こいつ。おもしれー。
■イタリア3‐0ウクライナ
■短評
完全なイタリアの形。イタリアは前の試合と同じように、4‐4‐2もしくは4‐3‐2‐1という形で、カモラネージがかなり高い位置に張り出して自由に攻撃に参加する布陣。ウクライナはレギュラー2人のCBが戻ってきて、守り倒す気まんまん。しかし、その気合が持ったのは、たったの5分。右サイドのオーバーラップからザンブロッタが見事なミドルシュートを決め、イタリアがあっさり先制。その後もトニ、トッティのポストプレイに連動して、中盤から上がった選手がいい形を作り、またピルロを中心とした中盤が完全にミッドフィールドを制圧。ウクライナのDFには俊敏性と強さが足りず、トニとトッティには完全に後手。CB2人を前半で変えるも、さしたる効果もなかった。また、DFでの劣勢に引きずられるように中盤も対応が遅くなり、イタリアのパス回しについていくことができない。攻めても、中盤でガットゥーゾに潰されまくって頼みのシェフチェンコに全くボールが届かず、ロングボールを放り込むのが関の山。攻撃にダイナミズムを与えていたボローニンの欠場は、予想以上に大きかった。後半はもう完全にイタリアの注文相撲。ただ、1‐0の状況で迎えた二つの決定機(グセフのヘディング、混戦からのシュートをザンブロッタにゴールラインで弾き返されたシーン)をウクライナが決めきれなかったのはいたかった。その後にセットプレーとカウンターからあっさりイタリアに追加点をあげられ、試合終了。終盤には、オッド、ザッカルド、バローネという交代要員の投入をする余裕を見せるなど、イタリアの強さばかりが目立つ試合だった。イタリアはこれでほとんど無傷のままベスト4。組み合わせにも恵まれたこともあるが、延長までもつれこまずに来ているのは、圧倒的に有利。トニが得点をようやくあげ、次はネスタも復帰、トッティも復調傾向とあれば、いい材料しか見当たらない。ウクライナはこれが限界だろうか。CB2枚を代えたブロヒン監督の采配はさっぱりわけがわからなかったが、大勢に影響を与えるほどのものではなかったことも確か。中盤で変化をつけられる人材もなく、正直ベスト8に残っているのが不思議なくらいだった。無失点のまま後半を迎えられれば面白かったのだろうが、あれだけ中盤以降の選手を捕まえることができなければ、無理な相談。完敗です。
■picture of player ジャンルカ・ザンブロッタ
右サイドバックながら、見事なオーバーラップからスーパーミドルをずどん。この試合をイタリアが優位に進めることが出来た、立役者。カモラネージ、トニとの連携から再三オーバーラップを仕掛けて右サイドを制圧。守っても1対1ではほとんど負けなく、1点もののシュートをゴールから弾き返した。更に後半なかばからは左サイドにポジションを変えて、同じよなプレー振り。なんて使える子なの。一家に一台ザンブロッタ。今お買い上げの方にはもう一人ザンブロッタが(以下略)