膝が過去を 背負って来た

六尺の身長で 二十二貫目

その上 十貫の荷物で

高い山に 何度も登った

肉体労働 してきた膝は

黙って 私について来た

八十近くになって 愚痴を言う

寒さで 痛みを感じる

使い過ぎて 痛みが残る

温かい湯の中で 膝を癒す

両手でつかむと 骨ばかり

関節の潤滑油が 切れたらしい

年とともに 脂肪を摂らなくなり

そういう 結果になった

腰ばかり 心配してきて

膝の心配 してこなかった

そつツケが 回ってきた

すまんとしか 言えない

いたわらなかった 女房のように

足下から 寂しそうに

私を見上げている 何故か

目を合わさずに 逸らしている

苦労をかけ放しの 膝と女房

気付いたときは 遅いのだ

女房は既になく 膝も

もう元には 戻らない

自業自得 誰のせいでもない

窓の外に 欠けた

冬の月が見下ろしていた