これまでのストーリー
夏は必ず、たらぶちで泳ぐ。
真っ裸だ。
その日は、たらぶちの近くで仕事をしていた友さんがやって来て、わら縄を丸めたタワシで農具を洗った。
友さんは、六十を過ぎている。
背中を丸めて、時間をかけて何度も洗った。
裸になって褌一つになると、深みに入っていき体を水の中に沈めた。
しばらくして浮き上がると、風だと大きく息を吐いて、口の中にに含んだ水を吹き出した。
手には、わら縄のタワシを持っていて、それで腕や指先を洗った。
「コラッ、お前ら、ここがどこか知っちゃるか」
「たらぶちやろう、おじさん」
「書けるか」
かなでたらぶちと書いたら、
「そうやない、漢字で書けるか」
「まだ、習うてないけ書けん」
「太郎は書けるか」
「うん」
「渕の字は難しいぞ」
「書けん」
「ここはのう、太郎渕って書いて、たらぶちって言うんじゃ」
「それがどうしたん、おじさん」
「それよ、太郎っちゅう名前の子が、ここで河童にはらわた抜かれて、死んだんじゃ」
「うそやろう、溺れただけやろう」
「そうやない、尻からはらわたを抜かれて死んだ。尻に大きな穴が空いちょったんじゃ」
「そんならおじさん、何で入ったんね」
「おら、褌しちょる」
「ふんどししちょったら、ええんね」
「そらそうよ。さっきからお前たち見ちょったら、ええ度胸しちょるのうと思うたが、そうやない。
知らんだけよ。
無知って言うんはのう、馬鹿とおんなじ、怖さを知らん」
「ふんどししちょったら、どうなるん」
「まだわからんか、河童が手を入れにくいやろうが」
そうかもしれない、が持っていない。
「そう言うても、ふんどし持っちょらん」
「よし、来い。俺がふんどしこさえてやる」
そう言うと、わら縄を巻き付けて、ふんどしを造ってくれた。
「どうか」
「おじさん、何かはじかいい」
「そうか、我慢せえ。今までお前、河童様にご馳走差し出しちょったんやけ」
「おじさん、差し出しちょらんよ」
「まだわからんか。その深いところにおるんぞ。
そこに尻向けて泳ぎよるやないか。
それが差し出して、どうぞって言うんと同じよ」
「おじさん、もう帰るんかな」
「もう、お前たちの守りはでけん。
俺が帰ったら、尻の穴に石でもはさんで、河童に見つからん様にせえ、ええか」
「うん」と言って、石を挟んで泳げない。
結局、いつもの様に真裸で泳いだ。
つづく


