弁護士には、弁護士会による懲戒処分というのがある。弁護士は時として国を相手に闘うわけなんで、国に管理されるのは望ましくない。そこで、弁護士自治といって、例えば司法書士なら法務局が権限を持つような懲戒処分については、弁護士会が行うことになっている。

 

 実をいうと僕は、去年の7月から9月にかけて、2か月間の業務停止という、かなり重い処分を受けた。今だからいえるけど、この間、一切弁護士とは名乗れないし、法律相談も受けられない。それどころかすべての事件も顧問契約も、一旦解除しなければならない。もちろん収入も途絶えるわけで、これはかなりきつい。

 

 なんでそんなことになったかというと、はっきり言って、僕自身やましいことをしたという認識はまったくない。


 困り果てた依頼者を緊急的に救済するため、普通じゃ考えもつかないだろう妙案を思いつき、実行したというだけだ。

 相手にとってはビックリしただろうし、やり過ぎだと感じたかもしれない。でも、それだけ悪質なんだから仕方がない。逆に、僕の依頼者の喜びぶりはハンパじゃなかった。

 

 それで相手は怒りまくって懲戒請求をしてきたんだけど、「何いってんだ。そっちこそ反省しろよ」と、不安も感じなかった。

 綱紀委員会に呼ばれたときも、「何が悪いんですか?説明してください」と開き直った。

 次は懲戒委員会に呼ばれた。部屋のドアを開けると、裁判官や検察官を含む15人ぐらいに取り囲まれ、色々と尋問されたんだけど、ここでも僕は同じ態度をとった。そして、「また今後、同じような場面があれば、そして依頼者のためになると判断すれば、もちろん同じことをするでしょう」とはっきり言ってやった。

 だって、弁護士が依頼者のために全力を尽くすのは当然のことで、そのためにあらゆる方法を模索することは重要なことだ。こんなところで「反省してます。もう二度とやりません」なんて言えるわけがない。

 

 とはいえ、そんな態度を取るべきじゃなかったんだろう。せめて先輩弁護士に相談したり、代理人になってもらうことをお願いすべきだった。公開法廷の裁判官だって間違いをするんだから、非公開の場である懲戒委員会なんか、いくらでも感情的な判断に走ることは容易に想像できたはずだ。

 

 そんなわけで、とんでもなく重い処分になったんだけど、議決書の理由を読むと事実とはまったく違うことが書かれている。審査の過程で話にも出なかった作り話が最大の理由になっているわけだ。もちろん、懲戒請求の理由としても書かれていなかったことだ。そこまでしないと業務停止という結論は出せなかったということだろう。

 それで今度は、普段からリスペクトしている先輩弁護士たち9人に代理人になってもらい、日弁連に異議申立てのための審査請求をしたんだけど、こちらも先日、あっさり棄却された。もう腹立たしいというしかないけど、元裁判官で、綱紀委員でもある主任代理人が、「俺だって、そんな方法を思いついたらやっちゃうけどね」と言ってくれただけで、もう良しとすることにした。

 

 脱原発弁護団の河合弁護士には、「そりゃ闘う相手を間違ってるだろ」と言われたけど、その通りなんだろう。

 ありがたいことに、顧問先もすべて戻ってきてくれたし、依頼者の人たちも誰一人、僕に説明を求めることはなかった。

 これからもビビったりせず、こじんまりせず、でもくだらないところで足元をすくわれることのないよう冷静に、でも大胆に、さらに自分を磨いていきたいと思う。