2年前の3.11後、原発をテーマにイベントをやろうぜとドリアン助川に声をかけたんだけど、そのとき、「今、ハンセン病のその後をテーマに小説を書いとって、しばらくはそれに集中したいもんで、悪いけど、ちょっと無理だわ。」と断られた。
彼が大切なダチの誘いを断って書き上げた小説『あん』がいよいよ発売になった。
助川は自由自在に人を泣かせる。
俺は叫ぶ詩人の会のライブでは、毎回、1曲目で号泣した。
彼の『カラスのジョンソン』、『メキシコ人はなぜハゲないし、死なないのか』、『星の降る町』と、どれもばっちりやられた
それが今回はハンセン病だ。想像するだけで涙ぐんじまう。
俺は、ドラマの『1リットルの涙』や『秋の童話』を観るときのように、覚悟を決めて、ハンカチとティッシュをしっかり用意して読み始めた。
元ハンセン病患者のおばあさん、前科のあるどら焼きやの兄ちゃん、さり気なく絡んでくる女子中学生、と、どう考えてもヤバい展開で、ぐんぐん話に引き込まれ、途中、何度もグッときた。
・・・が、不思議なことに、最後までハンカチの出番はなかった。
何ていうか、「誰にも生まれてきた意味がある」なんていう重いテーマを、妙に爽やかな読後感で締められちゃってさ。
もちろん、まるで物足りなさなんて感じない。
淡々と描き切ったからこそ、いつまでも胸に残るもんがある。
助川は、まるで本物の小説家になっちまったみたいだ。
自分の命を削るようにして言葉を紡ぎ、それなのに何事もないかのように深い思いを込めた日常の物語を描いていくなんて、本物の小説家じゃなきゃできるわけないぜ
ちきしょう、俺もダチの誘いを断って何かに集中しなきゃ