∽∽RED EYES∽∽
★THE STAR☆DUST FIVE★
Episode.66
「For her who feels sad.」
都内某所、隔離されたとある街が吹き飛んでから間もなくこと。『ピエール』と名乗るレッドアイズが次に出現したのは、同じく都内某所のとある研究施設であった。詳細な位置情報は極秘事項であるが、そこはプロジェクトCセクションの研究施設である。
…ただいま
ピエールは、当該施設の研究主任であったタキ マサノリという人物のなれの果て。彼が施設から研究サンプルであるクリスタルプレートを持ち出し、その未知なるエネルギーでピエールへと進化した。
…狭っ苦しいわね
…こんな閉鎖的な世界が
…アタシの全てだったのね
悪魔のような、道化師のような、形容し難い姿へとなり果てたタキ マサノリ。彼は古巣に戻って、感慨深げにそう謳う。
…まるで蟻の巣窟
…必死こいてうじゃらうじゃら
…そんなの嫌
…薄気味悪いったらない
…アタシはキリギリスになりたいわ
同僚、或いは部下や上司。仲間とも言える人々に、彼は異形なる姿を見せ付ける。飛んでみせたり怪力を披露したかと思えば、目から怪光線を放ち、口から炎を吐いてみせた。
…アタシが怖い?
…何をそんなに怯えているの?
…アタシのパーフェクトボディーこそ
…全ての答えなのよ?
…よそ見しちゃ嫌
…もっとちゃんと見なさいよ!!
彼の言葉など、誰も聞いてはいない。届く筈もない。研究員達は逃げ惑うばかり。しかし逃げ場などなくパニック状態。唯々、破壊と殺戮をもたらすピエールの独壇場。
…哀れなもんね
…何て弱々しいの?
…こんな脆弱な群の中で
…アタシは何を競っていたというの?
…馬っ鹿馬鹿しい
タキ マサノリには、当該施設研究員達に恨みがあった。コミュニケーション能力の欠如した自分は棚に上げて、自分を認めてくれないことへの身勝手な逆恨み。多かれ少なかれ誰もが抱くその程度のことで…。
…こんなもんか
…存外つまんないわね
研究員達は皆殺し。その後に、施設は消滅した。膨大なエネルギーの爆発によって、全てが吹き飛ばされた。彼にとっては積年の恨みを晴らしたことになる。しかしピエールとなった今、そんなことはどうでも良いことであった。
決して復讐というものの虚しさを思い知った訳ではない。そんな感傷に浸れる程、彼はヒトとしての心を持ち合わせてはいない。もはやヒト、ではないのである。
…さーてと
…次は勇者ね
彼はピエールとして、新たな目的意識を見出すことになる。そうでもしなければ、己の存在理由を保てない。だからその思考回路をファンタジー世界の設定に準じることに疑問を抱くことがない。そこに疑問を抱いた瞬間、彼の存在理由は崩壊する。それは支離滅裂な破綻した人格のピエールだからこそ許される遊び、なのかも知れない。とにかく、ピエールの新たな標的は『勇者』であった…。
…みーつけた
JSMR本部は混乱極まっていた。捕獲部隊全滅と共に街ひとつの消滅、及びプロジェクトCセクションの消滅。リアルタイムで共有される映像データなどから得られる情報は断片的で、そこにはピエールと名乗るレッドアイズの存在が見え隠れするものの、とにかく街や施設が消滅してしまうのである。詳細は要として把握できなかった。
…伝説の勇者さま
…みーつけた
しかし構わずピエールは活動している。勇者を殺す、という目的意識を持って行動していた。そして辿り着いたのは、やはり都内某所のとある病院。10階建ての建物の外壁をなぞるように飛び、とある窓を覗いたところで静止した。覗き込んだ病室は個室で、ベッドはひとつ。病人が眠っていた。
…あら可愛い坊や
…アタシの知らない勇者さまね?
…何だって良いわ
…勇者なんてみんな同じよ
窓を破って病室に侵入したピエールは、彼が勇者だと思うその病人を見下ろし、尖った指先を差し向ける。その指先に炎が灯り、徐々に肥大していく。ファンタジー的に解説するならば、火炎魔法と言ったところか。
…さようなら
そうして巨大な火球を放とうとした刹那、
「!!」
何者かが病室のドアを蹴破って突入してきた。不意の体当たりを食らったピエールは、凄まじい勢いで窓の外まで突き飛ばされてしまう。
「…起きろよ。」
突然の侵入者が、ベッドの脚を乱暴に蹴飛ばしてそう言った。その人物は赤い眼をギラつかせ、蒼白いオーラをまとっていた。
「…ちょっ!?
いきなり何だよ!!」
ようやくベッドの上で飛び起きたのは、アカバネ ユウト。先の戦闘で腹部を刺されて入院中のユウトであった。どうやら睡眠剤で眠っていたらしく、窓を破られてもドアを蹴破られても気付かなかった。しかし侵入者の殺気混じりの声で、ようやく身の危険を察したらしい。
「…ミズキか!!
テメーとうとうやりやがったな!?
寝込み襲うとは卑怯だぞ!!」
起きたばかりで状況をまるで飲み込めてはいないユウト。だが侵入者はキサラギ ミズキであった。それだけで切迫した状況であることは理解した。
「…チクショー!!
今オレ絶対安静なんだけど!!
戦えねーし!!」
ベッドから飛び降りて構えてみせた寝間着姿のユウトだが、腹部を押さえて膝を付いてしまう。
「…表を見ろ。
オマエを殺そうとしていたヤツだ。」
窓の外を指差してそう言うミズキ。するとタイミング良く、ピエールが浮上してきた。
「…オマエが狙われるって、
ヴレイブなんたらの記憶がどうとか、
勇者が狙われるとか、
ミライのヤツが言ってた。」
無愛想に呟くミズキ。キサラギ ミライはイラストレーター。予知能力を発揮し、ユウトが狙われることを察知し、ミズキに助けるようにお願いしたのである。言葉数は少なかったが、そういう意味合いなのである。
「…なるほどね。
そりゃどうも。
しっかしアンタに助けられるとは
気分悪いぜ。」
ユウトもヴレイブソウルの星の記憶を共有する者として、ピエールを一目見て、その存在と行動原理を即座に理解した。勇者を殺すという目的で、理不尽ながら自分が狙われた理由に納得した。
「…心配するな。
オマエの為に来たんじゃない。
オレはアイツを始末する。
それだけのことだ。」
そう返すミズキの言葉には、ミライに言われたから仕方なくついでに助けてやった、という意味が込められていた。少なくともユウトはそう受け取った。
「…悪いけどオレ戦えねーぜ?
つーか手ぇ貸す気ねーし。
テメーも借りる気ねーだろ?」
ピエールは勇者に敵対心があるが、ユウトはミズキに対して敵対心があった。
「…何ならもういっぺん刺してやる。
二度と起きれなくしてやる。
嫌なら邪魔するな。
勝手に寝てろ。」
ベッドの脇の小さな棚の上に転がる果物ナイフを手にして、ミズキはそう言った。その赤い眼からは、本物の殺気が感じられた。
「…ハハッ、
洒落になんねーし。
テメーでも冗談言うんだな?
今日はやけにお喋りじゃん。」
ミズキの言葉が冗談かはともかく、ユウトは茶化してそう返した。ミズキは無口である。殆ど喋らない。記憶喪失という境遇と心に抱える闇のせいで、彼の言葉数は極端に少ない。しかし今日は違っていた。
「…ヤツはミライの絵を汚した。
悲しませやがった。
泣かせやがった。
それが気に食わない。
許せないんだよ。」
ミズキは言いながら、握り締めた果物ナイフの柄を砕いてしまう。感情のままに力が爆発していた。剥き出しの刃が彼の手を傷付けるが、流れ出る血は僅か、傷口はすぐに再生されていた。
「…あらあら?
そちらの闖入者はどちら様?
汚らしい眼しちゃって、
とてもじゃないけど
勇者さまってガラじゃないわよね?」
窓の外、ふわふわと空中を漂うピエールが腕組みをしてそう言った。自分も汚い赤い眼をしておきながら良く言う。
「…はじめまして!!
アタシはピエール!!
人類の新たなる進化のカタ…」
ピエールの自己紹介が終わる前に、ミズキが窓の外目掛けて蹴りを見舞っていた。そうして両者もつれ合い、地上に落下していった。
「…ちょっとアンタ空気読めないの!?
アタシの決め台詞遮るとか
有り得ないからぁーーーーーーっ!!」
ピエールは落下しながらミズキを突き飛ばしてしまう。ピエールは飛行能力があるが、ミズキはそのままアスファルトに落下してしまった。
「…。」
だがミズキはむくりと立ち上がった。蒼白いオーラをまとった彼は、超人的な身体能力を発揮する。飛行能力はなかったが、ろくに受け身も取らず地上に叩き付けられても掠り傷程度で済んでしまう。自分でも理解できない感情を持て余し、静かな怒りに満ちた赤い眼が、後から降りてくるピエールを睨み付けて離さない。
「…はじめまして!!
アタシはピエール!!
人類の新た…」
「…だから聞いてないっ!!」
地上に降り立って改めて仰々しく自己紹介をしようとするピエールの言葉を、やはりミズキは怒号で遮った。
「…何なのよ!!
んんーっもうっ!!」
ピエールは癇癪を起こして甲高い声で叫び、思い切りアスファルトを踏み付けた。するとそこからミズキ目掛けて亀裂が走り、火柱が立ち昇った。
「…キサマの勇者ごっこに
付き合うつもりはない!!」
ミズキは不格好に側転して火柱をかわしてみせるが、遙か後方、病院施設に炸裂して一部崩壊してしまう。
「…アタシ勇者じゃないわ!!
亜族完全体なのー!!」
間髪入れず指先から火球を放つピエール。
「…どうっでも良いっ!!」
火柱避けたところ計って向かい来る火球を、回避不可能と判断したミズキ。無造作に右掌を突き出した。すると全身に血のような赤いラインが浮かび上がり、それが閃光となって迸ると、すんでのところで相殺した。
「…あらやだ。
アンタってイカズチ扱えるのね?
汚いイ・カ・ズ・チ。
でもそれは勇者の証。
良く見ればいい男だし。
ちょっと素敵よ。
アタシときめいちゃったわ!!」
身をくねらせて、些か声のトーンを落としてそう言うピエール。気色悪く舌なめずりするその表情は、品定めしているかのようであった。要するにミズキを倒すべき相手として認識した、ということらしい。
「…殺してやる」
ピエールの気色の悪さがミズキの怒りに火を注ぐ。悪魔のような道化師と、狐火まといし赤い眼のミズキ。ひとつも会話は成立していない。一度たりとも噛み合ってはいない。だが各々の目的の為に、この戦いはもう止められそうになかった…。
~つづく~