しかし、想像していた終わりはいつまでたっても彼におとずれることはなかった。
「どういう、ことだ…」
目をあけると、向かい側にミスラが立っていた。
ミスラは心底楽しそうにアイクを見て顔をゆがませた。
「どういうことなんだ!」
アイクが叫ぶ。
「どうもしてないよ?。君はフォモルじゃない、それだけのことだよ」
ふふふ、と笑みがあがってくるのを隠し切れず、口元をおさえる。
「馬鹿な、だって、腕が…!」
突き出した腕は、陽の光の元でみるといつも通りの色をしていた。
肌に赤い血がまとわりつく以外は。
「なんで、どうして!!」
振り返り、窓ガラスにうつる顔は、黒いところなんてなにもない。
「きみはずっと魔物になりたいっておもってただけ。
人間ってさ、見たいものしか見えないって本当だね。」
ミスラはアイクに笑いかける。
「君が必死にごまかし続けて膨れ上がらせた嫉妬心、素敵だったよ。」
うっとりした表情でミスラが続ける。
「僕が何者なんだ?って前に聞いたね?
僕は石より生まれ出でて人の嫉妬の心を糧にして生きる…この美しい世界の守護者だよ。」
芝居がかった口調でミスラが言う。
「フォモルになったせいだって思ったら、お友達殺すのなんて簡単だったでしょう?
自分じゃない、って思えたらこんなに楽なことはなかったでしょう?」
「やめろ!!!」
張り上げた声が掠れる。
「君はまじめすぎたんだよ、アイク。
こんな気持ちはもってはいけないって思い込みすぎたんだ。だから自分を許せなくって…
もう一人の自分…なんでもやってくれる化け物を作り出した。」
「やめろ…」
頭をおさえて倒れこむ。
「大丈夫だよ、アイク。僕はこうみえて公平な、神にも近い存在だからね。」
「力の源をくれた君にも、そのきっかけをくれたかれらにも平等に力を与えてあげることにしたんだ。」
にっこりと笑うミスラの視線の先にいびつにうごめく、血まみれの二つの影がみえた。
ミスラはアイクの肩をもち、かれらの方にむきなおらせる。
アイクはその影が何者なのかをみとめると、泣きながら笑った。
「ほら、今度は彼らの復讐の番だよ。」