ふたつのレミゼ(バルジャン編) | ■RED AND BLACK■レ・ミゼラブル2015日記

ふたつのレミゼ(バルジャン編)

23日はマチソワしたのだけど、実に対照的な、ふたつのレミゼを観た。


●バルジャン

昼の今井バルと、夜のさとしバル。歌に魂乗せてるバルと、言霊がせりふに宿るバル。どちらも「独白」が素晴らしかったと思うのだけど、「歌派」「言葉派」でこんなふうに違ってみえるんだなあ。


今井バルジャンは「♪ どうして許せよう 魂に触れて」や「♪ 認めていいのか こんなこと」のように、自分に問いかけるときの歌い方が特に胸に迫ってきた。自分を愛せない人間の、世の中に対する懐疑が、むきだしのままで伝わってくる。芝居のためにつくられた感情なんか一切入る余地のない、裸のバルジャンの心。これを自らの声一本で表現しているんだから、すごい。それも、過剰に歌をアレンジすることなく、あくまでシンプルに旋律を歌っているだけなんだもの。「♪ 生まれ変わるのが 神の御心か」で、銀の燭台2つを握る腕がぶるぶると震えていたのが今でも脳裏に残る。


さとしバルが「♪ 鎖につながれた」で両手首を合わせて前に差し出し、続く「♪ パン一つの罪で」で片腕を上げたとき、「むむっ」と警戒信号が働いた。もしかしてこの人、演技過剰になりつつある? だけどそれは杞憂だった。「♪ 石のように心を閉じて生きてきたのだ 俺の人生」を地声で叫ぶのを聞いたとき、これはもはや「歌」というより、バルジャンの心臓を突き破って出てきた告白だと思った。「愛」というものを失くしていた自分を認めた瞬間。心を閉じたままでいれば気づくこともなかったであろう自分の心の傷をさらけ出し、ステージの上に血をどくどくと流しているかのような、生々しい叫びだった。バルジャンが感じている胸の痛みがじりじりと刺さってくるかのよう。さとしバルの言葉の力、2007年レミゼの大きな収穫だった。