バル×ジャベの化学変化ってあるのね | ■RED AND BLACK■レ・ミゼラブル2015日記

バル×ジャベの化学変化ってあるのね

今井バルジャンは、もう何回も見たことある。

阿部ジャベールも、すでに2~3回観た。

だけど、組む相手によって同じ役者さんがこんなに違って感じられるのか、と思ったのは、たぶんこれが最初。7/22ソワレね。


1815ツーロンで、すでに、なにか今までの2人とは違ってた。今井バルの朴訥な「♪俺は! ジャン・バルジャン」に対する阿部ジャベの返答「俺はジャベール!」に、泥臭い気合が入っているの。「お゛れ゛は」って、濁点をつけているみたいに。「仮釈放犯のくせに、なめんな、生意気いうな、俺に向かって」と威張っているんだと思うけど、阿部ジャベはそこを朗々ときれいに歌ったりはしない。ざらついて低く濁っている声。そこに、ジャベールが抱える出自のコンプレックスまでもが現われている気がした。


ここで、「あっ」と思った。ジャベールは、物語の最初から、バルジャンを通して無意識のうちに自分を見ているのだと。バルジャンが19年閉じ込められていた牢獄という忌まわしい場所で、自分も生まれた。警官という社会的地位のある職についた今でも、生まれにまつわる後ろめたさから逃れられない。バルジャンと相対するたびに、ジャベールは自分の心の暗い部分をみせつけられたような気がして、許せなくなるのだろうな。


そんな阿部ジャベの暗い熱が伝わったのか、今井バルの独白が熱い。派手に大声を出したり、身振り手振りを加えたりしてるわけでもないのに、自分の恥を神にさらして生まれ変わりたいという叫びが、舞台から湧き上がっている。歌のテクニックというよりは、精神力が見せる技だったように思う。涙誘うほどだった。


もちろん、対決もね。今井バルといえば「♪ 考えろジャベール おーれーのーちーかーらーをー 」の力強さが抜きんでているけれど、阿部ジャベ相手だと必死さが一段と際立っていた。少しでも気を緩めたらジャベールに負けてしまうかもしれないという瀬戸際。少し控えめに歌うこともある「♪ お前をたとえ刺し殺しても俺はやるぞ」も、この日は全然容赦してなかった。目の表情も怖い、怖い。椅子をたたきつけるところなんか、阿部ジャベ、思わず退いて「ひいっ」って声出してたもんね。


こういう真剣勝負を何度か経て迎えた、阿部ジャベのスターズ。これがまた新鮮で…。だって、「俺様ひとりワールド」じゃないんだもん。しっかりバルジャンの姿が見えるんだもん。「この歌のどこにどのようにバルジャンがいたのか?」と問われると答えるの難しいのだけど、阿部ジャベが語りかけているのはお星さまではなく、バルジャンなんだと思った。バルジャンに対する執着が、それまでのシーンで何度も強調されているせいかな。バルジャンに勝ったとき、自分の心の弱みにも勝ったことになる。阿部ジャベールが潜在意識でそう思っていたのなら、「スターズ」にバルジャンの姿が見えるのも、もっともなことかもしれない。


今井バルと阿部ジャベ、組み合わせの妙によって、持ち味がここまで引き出されるとはね。お互いが触発しあって、舞台の上で化学変化を起こしたかのよう。この夜は2人から目が離せなかった。