55

そこは部屋には違いありませんでした。

しかし課長がいたシングルルームとはちがって、とても広くて綺麗でした。

特別仕様の、「○○の間」とでも命名されていそうな豪華な広い部屋。

スイートルーム？貴賓室？

目の前は応接間風。つきあたりに大窓、それはバルコニーにつながっていて、東京の夜景が見下ろせる。輝く街の明りがキラキラ射し込んでいました。

そして。

それに、すぐ目がいきました。

応接風の部屋の右奥にドアがあって開いている。その奥はまた別の部屋、寝室？

そんな部屋の周囲のことにまず目がいったのです。

そして部屋の中央にある、クラシカルなリビング家具、椅子、応接机････

そして、そんなに豪華な部屋に人はいない。奥の寝室にも人の気配がない、とりこみ中のような会話をしていた初老の老人も他の誰もいない。

ただし。

部屋の中央の応接机に、何か、のっている。

それが信じられなかった。

部屋の豪華さに目がいったのは、その信じられないものから目をそらしたい潜在意識のためだったのか？

「････」

課長は口を小さく円くあけたまま、机の上のそれに目が釘付けになった。

また携帯が鳴る。電話にでる。課長はいう。

「熱田くん････」

電話の向うで、―はいー、という返事。続いて課長は叫び声をあげた。

その叫びは、自分でも信じられないほどの大声！

―課長、落着いてください―

課長は頭を抱える。

「落ちつけ？何を？落着くんだ、君は一体、誰だ？本当に熱田くんか？」

―はいー

「じゃあ、机の上のあれは、いったい･･･？つくりものか？蝋人形か」

とても、そうは見えない、つくりもののわけがない。

あまりになまなましい、見間違えるわけがない、それは本物の、首だ！

熱田の首だ！

生首。首元をざっくり斬られ、やや歪んだ表情で、目を閉じ、乱れた髪が瞼にかかっている。

課長は頭が混濁した真っ白ゼリーになった。ぶるぶる震えて頭も体も何もない、白濁ゼリー人間になってしまったのです。

―そうなんです、課長、それがそうなんです、首です、僕の生首です、

ホラホラ、それが僕の首だ･･･―

「････」

―やられちまった僕の首だ、それが僕の生首だ･･･―

しばらく、課長は声がでませんでした。

混濁しきった存在となった課長は、自分の頭とは何処か違うところから考え、知らないどこかから自分のかすれた声を出しました。

「いったい、何があったんだ。熱田くん」

―やられちまった－

・・・・つづく

大手町のゴースト2024 55 やられちまった僕の首