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あの幽霊が、疑惑の資料といった、あの書類が、そしてメールも消去されて、ない。

「？」

あの幽霊がここにあの後現われて、後片付けし、書類を持ち去ったか？それとも、昨日のことはすべて幻想だったか？

いや、できあがった起案はある。起案の仕事は間に合ったのだ。めでたい。そして昨日のことは幻ではない･･･

と、事務所入口の自動ドアが開いて誰かが入ってきました。

課長の席からはオフィス対角線上の遠い位置、入口カウンター前に立ったのは男二人。

ここは一応金融機関なのだから、カウンターには、開店の九時前とはいえ、誰かいなくてはならない。

しかしこの会社はそうなっていない。

八時四十五分だというのに、誰もいないのです、自動ドアの鍵を開けたのも課長なのです、そして、この開店前の来客へ対応しなくてはならないのも課長なのです。

例によってのことです。いつもこうなのです。

「参った」、と思いつつ、課長は入口めがけてとんでいきました。

「いらっしゃいませ」

男二人はいずれも背広姿、一人はすらりと背が高く、若くて韓国俳優みたいな相当のハンサム、もう一人は、背の低いずんぐりした年配の男で、小太りで目が小さい。

その年配の方が、まだ開店前でしたか、失礼･･･といいながら差し出したのは横開きの分厚い真っ黒な手帳、縁がぎざぎざで金属製のまるいバッチのようなものがついていました。

その手帳が何だかわからずにいると、「警察の者です」と若い方がいい、こっちは名刺を出した。

「警視庁･･･警部補･･･」課長は少し目を丸くしましたが、即座に「ここの総務課長をしています。まあ、こちらへ」と応接席へ案内しました。

席につくなり、若い方が、

「総務課長さんとは、ちょうどよかった。いえ失礼。じつは。びっくりされるようなことをいきなり申し上げますが、お宅の部長様が、昨夜、撃たれて亡くなられました」

「は？」

「殺人事件です。何ともお気の毒な、とても許せない話です。

それで、昨夜のうちに捜査本部が立ち上がりまして。そこから参りました。

捜査にご協力いただきたいのです」そういって頭を下げました。

課長は衝撃で、一瞬、言葉もでなません。やっと、

「さつじん？」

と声を出し、間の抜けた顔をして、「部長が、ですか･･･？」

しかし次の瞬間、課長は忙しく考えました。

こんな場合、どうするのだ、危機管理マニュアルにこんな項目があったか？

それを尻目に小太りの方の刑事が手帳を出してペンを握り、「ご協力いただけますね」と課長をにらみました。

「あ。は（い）･･･」

答える間もなく、

「失礼なこともうかがうかもしれませんが、ご容赦を」とことわって、若い刑事が質問をはじめたのです。

・・・・つづく

大手町のゴースト2024 23 殺人？！