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宴会の主導権は、まったく総務課長にはありませんでした。課長は黙々と酒を飲み、不可解な創作料理を食べたのです。

「で、課長。お化けの件ですが。あれ、正体わかりましたぞ」

不意に天野調査役が語りかけてきました。

「お化けの正体」課長は食べかけていた深海キュウリをのどにつまらせそうになりました。

「ええ。正体。わかりました。あっさりと」

「何者だったんですか」

「いえねえ、私もそんなもんじゃないかと踏んでたんですがね」

「何者だったんですか」

課長は天野氏の得意そうな顔を見ました。そして思いました。もったいつけずに、いえ！

「九階の社員ですって。情報システム部。トイレにいっちゃあ、手を洗ってばかりいる、一種の病気ですかね。

十年くらい前にうちのトイレに現われたのはいいましたでしょう。

しばらくはうちには来なかったんですが、その間どこか別の階や別のビルのトイレに行ってたんですね、きっと。

それが、また、うちに復活したんですね」

「九階というと、三井菱物産」

「そうですね」

「そこの社員ですか」

「はい」

「しかし、鏡の中の私と、あの男の姿が入れ替わったのは･･･」

「はあ－」

本当にそんなことあったのか、という顔で天野氏は課長を見ました。

「私の見まちがいとでも」

「というか、錯覚というか」

「････」

萩野職員が割ってはいりました。手書きのエジプト風眉毛をひそめて、

「課長、疲れてたんですよ、きっと」

彼女の言い方に不快感はありません。心から同情していました。

「そうか、そうですかね」

課長はうなだれました。

そうか。そうか疲れてるか。

しかし何が私をそう疲れさせたか？それはあなたたちのせいではないの？

課長の表情は苦しく曇りました。

「課長も、メンタル･･･」

といいかけて、天野氏は自分で自分の口をふさぎました。

課長に失礼かと思い、また、熱田くんの存在を思い出したせいでした。

課長は、熱田くんの方を見ました。

熱田くん･･･彼は口に豆腐をいっぱいほうばったまま、ゆっくりともぐもぐやっていました。

そして、ただ、無表情のままでいたのです。

・・・・つづく

大手町のゴースト2024 ９ 口いっぱいの豆腐