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手洗いスペースに、そいつはいました。

こちらに背中を向けて鏡に向って立っていました。しかし総務課長は考える余裕もありませんでした。

トイレ入口の手洗いスペースを駆け抜けて、奥まった場所にあるＴＯＴＯホワイト便器の前に立ち・・・その間、何も見えず何も聞こえませんでした。

便器に勢いよく放水。総務課長の安堵は、いかばかりだったか知れません。

その音にかぶさって聞こえてくる蛇口から流れる水の音。放尿がヤマを越えたあたりで安堵から目覚め、総務課長はその水道の音を意識しました。

蛇口から流れ落ちる、ながながと続く水の音。

あそこに誰かいた。あの手洗い場に。

背が高かった。やせていた。モジャモジャ頭だった。首が細くて、黒っぽい背広だった。鏡に向って、前かがみに、じっと立っていた。

総務課長の、小水の用は完了し、そして考えこみました。

あそこに誰かいるが。どうしよう。

危険のにおいがあるか？しかし私は総務課長だ。防火・防犯は私の役目だ。意を決して、敢然と、いこうじゃないの。

ズボンのファスナーをあげるや、総務課長は手洗いスペースへと向った。事務的かつ迅速に歩を進め、手洗いスペースへのコーナーで立ち止まり、ゆっくりと様子をうかがった。

水道の蛇口からは水が流れ続けていた。蛇口の横脇には使用済みのペーパータオルが散乱していました。

その数は百枚以上にも達したでしょう。床にも同じくらいの数のペーパータオルが散乱していました。

そして、しかし、そいつの姿は、もう、そこになかった。

「ちくしょう。逃げられたか。すばしこいやつだ」

総務課長は鏡に向って切歯扼腕してみせた･･･

・・・・

「そのときなのですよ」

すでにランチタイムです。

社員食堂で、総務課長は、ともに食事をしていた目の前の天野調査役（この日は不思議なことに遅刻しませんでした。）に向って語っていました。

「鏡を見たら、そこに、奴の姿があったんです」

天野調査役は訝しげな目つきで課長の話をきいていたのですが。不意に、

「ぐわばははは！」

と、笑った。

「ご冗談を。ったくもう、課長ったら」

レトロな浅草芸人みたいにして、総務課長をたたくしぐさをしました。

「冗談じゃあないんです！」総務課長は叫ぶように、

「鏡の向うに、うつってたんですよ、そいつが！」

「鼻のでかい奴が」

「ええ、ゆらりという風に立って、こっちを見ていた」

そうなのです。

鏡を見た総務課長は、自分とは別人の、そいつを見たのでした。

・・・・つづく

横浜演劇鑑賞協会のおしらせ

次回の観劇会は、650年前の室町時代から続く、日本のコント演劇「狂言」です！！

茂山家公演

『新春狂言会』　

第３２０回観劇会

日程/２０２４年１月２９日(月) 　１３時開演／　

　　　　　　　　　　　　　　　　１８時３０分開演

13時公演　　　　演目　●寝音曲・佐渡狐
18時30分公演　　演目　●鬼瓦・鎌腹

　
　　　　　　　　
＊開場時間は３０分前です。
＊上演時間は１時間３０分　途中休憩なしです。

会場/神奈川県立青少年センター　紅葉坂ホール

☆次々回例会は321回観劇会　加藤健一事務所公演『サンシャイン・ボーイズ』です。
　日程／2024年２月２４日(土)１７時開演。

会場は神奈川県立青少年センター紅葉坂ホールです。お楽しみに。

狂言のあとも、面白ハイレベル演劇が、ぞくぞく登場します。おいおいご紹介していき

ます。みなさまの演劇鑑賞会への入会、お待ちしています！！

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休局　月曜、木曜、日曜、祝日、
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ではまた！

大手町のゴースト2024 ３ そいつを見た

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