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画面に、園長を抱く岬の姿が写され続けたまま、３分ほども時間が流れた。

と、急に、耳をつんざくような、がなり声が天井から響いた。

「そして！」

あのボーイの声だ。その声は興奮し、涙声になっていた。

「セツ子さんと恋人は、悲劇の終末を迎えたのです…」

画面が真っ暗になった。

場内が、またざわめいた。鼻をつままれてもわからないような、真っ暗闇の中に、不可解だとか不愉快だとかいう話声が聞こえた。

「なんだい、どういうストーリーだったんだ。途中から、全然わからなくなったぞ」大声で叫ぶ者があった。

「これが傑作とは、恐れ入るな。前衛映画のつもりかね。ただの、グロじゃないか」

私の耳元で、記者が、ひそひそとささやいた。しかし、その声には、心なしか不安げな様子があった。

「おい、警察を呼ばんか！」芸能社長が、興奮して怒鳴った。

突然、泣き叫ぶような声がした。

「開かない。だめだよ、つい、映画を全部見ちまった。畜生、このドアは、開かない。逃げられないぞ」

男の、情けない声だった。後ろのドアにしがみついていた奴らしい。

また場内がざわめいた。ステージが光ったのだ。スポットライトが灯ったらしい。目にしみるような薄黄色の光だった。

その光の中には、毒々しいピエロの姿をした、あのボーイがいた。

映画の中では、マリアの幻想シーン中にごく一瞬、ピエロが現れたが、こんな趣味の悪い格好のピエロではなかったな、と私はそのシーンを思い出した。

ピエロはいった。

「いかがでしたか、皆さん？」

顔は笑っていたが、胸の中は泣いているような、奇妙な声色だった。

「感動したでしょう？」

馬鹿、という声がした。あの、目つきの悪い連中のうちの一人の声だった。

「おい、おまえ、２階の部屋を見てこい、さっきのビデオの男が、殺されてるんだぞ」誰かの声が響いた。

しかし、ピエロは反応しなかった。いやに堂々とした態度に見えた。

「おい！」

怒鳴り声が客席からすると、ピエロは小首をかしげて、裏返ったような甲高い声を出した。

「これで、皆さんも、立派な、目撃者です！」

場内は、なぜか、静まりかえった。私は当たりを見回した。

人々は、知らん顔を決め込もうとしたのに、あてが外れた、という顔をしていた。

・・・・・つづく

製氷室のマリア96 立派な目撃者