95

そこには、美咲セツ子が、女に向かって銃を構えていた。

女は下半身が血だらけで、股の間に、何か肉の塊のようなものをぶら下げていた。

女の顔は、人間の顔とは思えないほどに肥大していた。大きなスイカみたな…いや、風船のような…。

私は目をそむけそうになった。しかし、目をこらすと、彼女は、やはり、そうだった。

その顔は、紛れもない、「マリア」だった。一体、どんな拷問を受けると、人間の頭が、あんなに大きな、風船のようなものになるのか？

そして、拳銃が火を噴く。大きな風船のような頭が、破裂するかのように、吹き飛ばされる。黒い脳漿や血飛沫が、派手に、あたりに飛び散る。

また、画面が変わる。今度は、製氷室の中での、拷問のシーンらしい。例によって、画面は見にくい。しかし、我慢していると、きっとまた、決定的瞬間がやってくるのか…。

見にくい画面は忙しくうつりかわりながら、しかし、マリアらしい美少女が、棍棒で殴られたり、ライターで髪の毛に火をつけられたり、得体の知れない液体を飲まされたりしているらしいことがわかった。

そして、しばらくすると、また、マリアの頭部が粉々に吹き飛ばされるシーン…。

私は残酷シーンの連続に、嘔吐感を覚えた。場内の連中も、同じようだった。

アマチュアカメラマンが撮ったとしか思えない、まずい構図、まずい編集…しかし、映し出された世界は、紛れもない現実のもののようで、まずい撮影技術が、かえって映像に真実味を与えていた。

そして、画面の中の、天と地がひっくりかえった。画面の中には、天井と床がさかさまになったまま、拷問の行われていた製氷室が写し出されたままになった。

時間が止まったような状態になった。カメラマンが、そこに倒れたのではないかと思われた。

「おい、何だこりゃあ。終わりかよ？」

しばらくして、不満げな若い男の声がした。

逆さの画面に、男が二人現れた。

一人は、稲沢だった。そして、もう一人の顔にも、私は見覚えがあった。

年若いが、間違いない。これは、あの養護施設の園長だ。

そして、園長は、稲沢につかみかった。勇敢な行為だ。

相手が、やくざの巨頭と知っての行動とは思えなかった。しかし、稲沢は抵抗らしい抵抗もせず、園長にされるままになっていた。

何を考えているのか全くわからない、無表情だった。

そして、画面の外で何かが光ったらしく、明るくなり、園長は倒れた。銃で撃たれたらしい。床に倒れたカメラマンが撃ったのだろうか？

すると、倒れた園長に、女性が、泣きながら走り寄った。園長を抱きかかえ、肩を震わせて泣いていた。

その女性は、美咲セツ子だった…

セツ子は園長を抱きしめたまま、泣きつづけた。そのシーンは、永遠に続くかと思われた。

・・・・つづく

製氷室のマリア95 いったい何が