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ミミクソの断定的なセリフが耳によみがえった。
さきほどの警官の答えとはうらはらに、警察に犯人をつかまえることはできないという。
警察について、なぜあんなに断定的なことがいえるのか。わからない。何かがあるのだ。
ミミクソという少年の背後も、私にははまだ良くわかっていないのだ。
警察へと向かう、埋立地沿いに走る産業道路で、信号停車した。
平日の昼間でも、この道を走る車は比較的少ない。今は、私の車のほかには、中型トラックが一台走っているだけだった。
私のクルマの背後から、騒音が近づいてきた。
ルームミラーを見ると、オートバイが数台、追いかけてくる。
ぐんぐん近づいてくる。
ものすごい騒音をたてながら走ってくる。エンジン音が増幅される仕掛けのしてあるバイクらしい。
「最近のやつらの走りを見ろ。最低だぜ。あんなのは。あんなのは、バイクの乗り方じゃないぜ」
私の耳に、ハーフ・ブラック佐瀬の言葉がよみがえった。
「いつも群れていやがる。あの暴走族ども。あんなやつらは、バイク乗りじゃねえ。
あいつらにジョーの走りをおがませてやりたいぜ。
あんなやつら、このヨコハマを、バイクライダー面で走る資格なんか、ねえんだ!」
手塚正夫の葬式のとき、ジョーの話のついでに最近のバイクライダーたちが話題になったとき、佐瀬は本当にいまいましそうな顔で、暴走族たちのことを、こきおろしたのだった。
佐瀬の嫌悪した、その最近のバイクライダーたちが、ぐんぐん私のクルマの後ろから接近してきていた。
「礼儀も品も何もあったもんじゃねえ」
佐瀬の言葉は、苦々しく私の脳裏で響いた。私は佐瀬にたずねたはずだ。
「ジョーには、礼儀とかそういうものが、あったんですね」
「当たり前さ。そうだな、何よりも、大切なのは勇気だ。勇気があった。
たった一人でも、何様にでも立ち向かう。勇気さ。
へっ。最近のやつらに、勇気、なんていったって、小ばかにして笑うだけだろう。
ひょっとすると、勇気なんて言葉も知らねえかもな」
佐瀬とのやりとりを思い出しながら、私はルームミラーを見ていた。
私のクルマのすぐ後ろまで来ているのに、スピードは緩まない。
追突されるのではないかと思ったせつな、不意にルームミラーの視界から、バイクが消えた。
彼らは二手に分かれ、私のクルマを両サイドから挟み込んだ。
私の運転席のすぐ隣に接近したバイクライダーが、革手袋をはめた拳骨で、窓ガラスを激しく叩いた。私はライダーを見上げた。
ライダーは、おそろしい剣幕で私をにらんだ。
私は危険の度合いを測定しながら、ゆっくりと、慎重に、窓を開けた。
・・・・つづく

