梟塚妖奇譚 ・ 雲外鏡 【拾弐】 | ぼくはきっと魔法を使う

ぼくはきっと魔法を使う

半分創作、半分事実。
幼い頃の想い出を基に、簡単な物語を書きます。
ちょっと不思議な、
ありそうで、なさそうな、そんな。

「本当に大丈夫?」


葛城がぼくの身体を隔てて柚原に問いかけた。

こういうのは苦手だ。

自分の立ち位置が不透明になるからだ。


「今日は柄にもなく張り切り過ぎたよ」

「確かに。

 わたしもね、そう思った」


葛城は冗談っぽく頬を緩めて言った。


「泳ぐなんて本当に久しぶりだったんだ」


もちろんぼくたちの通う高校にもプールはあり、体育の授業でも水泳の時間はある。

しかし、今年は一年生の体育のカリキュラムに水泳は含まれていなかった。


「一年振り、なんて言わないでよ」


柚原は首を振り「もっとかな」と首を傾げ言った。

その様子を見て、葛城はその件に関してそれ以上訊ねようとはしなかった。


「プールに誘った理由、言ってなかったでしょ」


何に気まずさを感じてか、葛城は背筋を伸ばしながら言った。

いつの間にかトレードマークの赤茶色の縁メガネをかけていて、ガラスの向こうの瞳は真剣みを帯びていた。


「夏休み前に約束したから」


葛城が発した緊張感を和らげるかのように、次は柚原が冗談っぽく微笑みながら言った。


「むしゃくしゃしてたから」


柚原に続けてぼくも答えてみた。

しかし葛城はぼくたちの回答には触れようともせず、話を進めた。


「こんなことになった後で言い難いんだけど。

 今日はね、千昭くんに、お願い。

 芽衣を刺した犯人を見つけて欲しいの」


柚原は顔色変えずにぼくと葛城とを見比べた。


「なんで柚原なんだよ。

 犯人探しは警察の仕事だろ」

「芽衣以外の被害者は二人とも亡くなってるから、その二人に犯人の名前教えてもらう」


妖とコンタクトが取れる柚原にしかできない依頼というわけだが。

でもそれではまるで柚原の能力目当てのようで。

数学が得意だから数学の宿題を教えてもらうとはわけが違う。

野球が上手いから野球を教えてもらうとも違う。

なんだかうまく言えそうにないけど、とにかくぼくには葛城の依頼が不満だった。


「それ――」

「それはできない」


ぼくが言うよりも早く、柚原はきっぱり言った。


「やっぱり、そうだよね」

「ぼくは霊媒師じゃないから、それはできない」


葛城は柚原の回答に一瞬驚いたような表情を見せた。

きっと彼の「できない」が、不可能を意味していたことに安楽したのだ。

少なくともぼくはそうだった。

じゃあ、もしも可能であったなら、柚原は葛城の依頼を受けていたのだろうか。


「それにね、
彼女たちは犯人の名前を言わないと思う」




梟印1