報文紹介「構造色のメカニズム」

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 メタリックな光沢のあるクワガタ、例えば、ニジイロクワガタ、キンイロクワガタの翅の色は色素が関係しているのではなく、分子構造によって、波長の異なる光の反射・屈折により、その色合いが出ている。

 そこで、そのメカニズムについてまとめてみた。

 今回紹介する報文は、以下のもの。

 題名:食糞性コガネムシの輝く色-構造色のメカニズム-
 著者:赤嶺真由美,近雅博
 雑誌:昆虫と自然,45(14),10-12
 年代:2010

 さてこの報文は、構造色について、脚注に記載した英文総説1)を踏まえ、一般の方にも分かりやすく書かれている。

 構造色には、以下の主要な3つのタイプがある。

 1. Multilayer reflectors
 2. Three-dimentional photonic crystals
 3. Diffraction gratings

 そこで、それぞれについて説明する。


 1. Multilayer reflectors

 甲虫類で最も一般的な構造色であり、屈折率の異なる層が交互に積層した構造である。

 これらの層が可視光領域の波長(380~750 nm)の1/4程度の厚さになるとき、それぞれの層からの反射光が干渉により強まった光が色として見える。

 このシステムには単純な多層膜構造の他に、コレステリックタイプのものがある。

 そこで、この2種類について説明する。

 多層膜構造

 このシステムは、誘電体多層膜タイプあるいは、単純に多層膜構造と呼ばれている。 図で示すと以下のような感じ。

イメージ 1

 光は複数の層を通過する際に、その光の波長により、反射・屈折して光が強まる場所が異なる仕組み。


 コレステリックタイプ

 このシステムは複雑であり、光学異方性をもった1種類の高分子が鞘翅の表面に平行な面で整列し、その整列方向が鞘翅の表面に垂直な軸に対して回転している螺旋構造をとっている。

イメージ 2

 上図の模式図では、4つの層がそれぞれ異なる方向性を持っている。


 2. Three-dimentional photonic crystals

 密に集まった宝石のオパールに類似した六角形の配列あるいは菱形の格子状の三次元構造をしており、宝石のようにきらびやかな反射を生じる。

イメージ 3

 上図は、3次元構造を真上から見た模式図となる。

 著者らは、これを3次元フォトニック構造と呼ぶことを推奨している。


 3. Diffraction gratings

 これは高校時代の物理の授業で習った仕組み。

 CDの裏面の光沢の原理と同じで、平行な溝の微細配列からなる構造をしており、白い光を分散させ、回折され虹のような全スペクトル反射となる。

イメージ 4


 以上が構造色のメカニズムである。


 次に、この報文の話題である食糞性コガネムシ(センチコガネ類)について。

 「1.」のメカニズムの構造色を持った食糞性コガネムシには、多層膜構造のものと、コレステリックタイプのものの2パターンあることが報告されている。

 そして、後者のコレステリックタイプのものは、形成過程で温度に影響されることが知られており、幼虫期に体験した温度によって色彩が決定されているのではないかと考えられている

 「1.」のタイプの見分け方としては、多層膜構造のものは、各層からの反射光は偏光を示さないが、コレステリックタイプからの反射光は円偏光(多くの場合、左円偏光)を示す。

 この性質の違いから、右円偏光板を用いて、多層膜構造か、コレステリックタイプかをほぼ見分けることが可能なようだ。

 そのため、円偏光板を用いて、コレステリックタイプのクワガタであることが判明すれば、上述の知見を踏まえ、幼虫期の温度によって、成虫の色をある程度、制御できるかも知れない。


参考文献
1) Seago AE., Brandy P., Vigneron JP., Schultz TD., (2009), Gold bugs and beyond: a reivew of iridescence and structural colour mechanisms in beetles ( Coleoptera ), J. R. Soc. Interface, Vol.6, S165-184

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