報文紹介「クワガタ腸内に棲息する共生酵母の環境挙動」

久しぶりの勉強ネタとなった。
 
 現在、通勤での電車の中で、クワガタムシの腸内細菌や腸内環境に関係しそうな(別の)報文を読んでいたところ、それがふと、今回紹介しようとするものと関連していることに気づいた。
 
 しかし、今回紹介する報文を読んだのは約半年前であったため、概要しか記憶に残っておらず、改めて報文を読み直し、ここで記録として残すこととした。
 
 したがって、今回からクワガタムシの腸内に関する報文紹介が何回か続くことになろうかと思う。
 
 その第一弾として、今回紹介する報文は次のもの。
 
  
Title : The mystery of the lesser stag beetle Dorcus parallelipipedus ( L. ) ( Colecoptera; Lucanidae ) mycangium yeasts.
  
Author : Tanahashi M., and Fremlin M.
  
Journal : Bulletin of the Amateur Entomologist’ Society, Vol.72 , pp.146-152
  
Year : 2013
 
 この報文の第一著者は、クワガタムシの腸内の酵母を精力的に研究されている棚橋氏。
 以前にも、次の内容で報文紹介している。
 これを読めば、クワガタと酵母の共生関係が少しは読み取れるかと思う。
 
 第二著者は、クワガタムシのマニアックなホームページを作成されている女史である。
 
 これが掲載されている雑誌は、名前を見る限りにおいては、素人向けの昆虫学会と読める。
 
 さて、ここで書かれていた内容としては、欧州、ロシア、北米、中東に分布するパラレリピペドゥスオオクワガタ(Dorcus parallelipipedus )に共生している酵母を著者らは単離し、それを詳細に解析してみると、昔から菌株バンクに登録されているPicha属の基準株(type strain)と解析結果が一致し、さらに詳細な解析を行うと、工業的に注目を浴びているPicha属の(基準株とは別の)菌株と同一の可能性があった。
 
 その菌株の歴史を辿っていくと、十分な記録がなかったり、当時の技術で詳細な解析ができなかったりして謎が多い。
 
 しかし、現状の研究結果を踏まえると、クワガタ腸内の共生酵母たちは、どうやら同じ環境で共生している他の材食性昆虫の腸内からも検出されたりして、共生している昆虫たちの共通した栄養の源になっている可能性があるという話である。
 
 ここで単に紹介すると、文字だらけとなってしまうため、内容をまとめた図を独自で作成してみた。
 
 しかし、その図も文字だらけなので、図作成の意味はないかも知れないが、私自身としては、それを眺めるだけで内容が把握できるようにしており、自分の備忘録としては十分だと思っている。
 
 本題の説明をする前に、まずは菌嚢について、復習の意味も兼ねて少し説明を行う。
 
 ”菌嚢”は、クワガタでは雌の成虫が持っている器官であり、産卵管の近くにそれがあり、通常は表面に露出しておらず、腹部に格納されている。
 
 その菌嚢には、微生物を溜め込む機能を有しており、雌が産卵する際には、菌嚢が外にめくり返って露出し、それによって産卵した卵に微生物を拭きつけられ、子へと微生物を受け渡す働きがある。
 
 なお、面白いことに、クワガタとともに人気のあるカブトムシを含むコガネムシ類は、この菌嚢を持たないため、親から子へと共生菌を引き継ぐことができない。
 
 
 では、本題に入り、一つめの図。
 
イメージ 1
 
 パラレリピペデゥスオオクワガタの菌嚢から単離した共生酵母を解析すると、
Picha属の基準株のDNAの指標と一致(右下)することから、この共生酵母は、同属もしくは類縁した属である可能性が高い。
 
 さらに、詳細を解析すると、工業的利用を検討されているPicha属の菌株と同一の可能性が考えられた(右上)。
 
 この酵母は、発酵技術を駆使し、バイオエタノール燃料を産出しようとするものである。
 
 そのため、その酵母は全ゲノムDNAが解読されており、この酵母(CBS 6054)について調べれば、いろんな特徴・特性の情報が入手できることであろう。
 
 そのため、次回の報文紹介では、この酵母の特徴・特性について紹介予定である。
 
 
 二つめの図。
 
イメージ 2
 
 これは、Picha属の工業的に利用検討されている株(CBS 6054)を登録した人と登録株について。
 
 この菌株は、菌株バンク登録の際に、その菌株に関する情報が書かれていなかったため、そもそも謎だらけであったものの、続き番号で一つ前のものの情報や、他の菌株の情報から、その菌株登録者の研究の専門分野を踏まえると、材食性昆虫から得られた可能性が考えられる。
 
 
 三つめの図。
 
イメージ 3
 
 これは、Picha属の基準株(CBS 5773)を登録した人とその菌株について。
 
 こちらの菌株では、ある程度の情報があり、材食性昆虫から単離されたことが分かる。
 また、その材食性昆虫の中には、オオクワの仲間が含まれている。
 
 
 四つめの図。
 
イメージ 4
 
 この報文に書かれた情報の中で、クワガタの腸内に共生している酵母が、他の昆虫でも見つかった例を4例図示した。
 
 ここからは、クワガタの共生酵母が、(菌嚢を持たない)他の昆虫にも、利用されている可能性が考えられた。
 
 これを見ると、コガネムシはクワガタの糞を利用して、自分の栄養としている可能性があるため、カブトムシを含むコガネムシ幼虫飼育に関して、役に立つ情報であると思われる。
 
 クワガタ幼虫の食いカスを、カブトムシ飼育のマットに加えて、既にこれを実践されている方も多いと思われるが、こういった科学的な知見による後押しがあれば、その実践に自信が持てるのではないかと思われる。
 
 今回の紹介はここまでであるが、この関係の続編としては、クワガタ腸内はどんな環境になっているのか、また、共生酵母はどんな特徴を持っているのか、などを調べて備忘録として作成し、このシリーズの記録を充実させたいと思っている。