報文紹介「ミツバチの女王蜂分化を誘導する因子ロイヤラクチン」

(今回ので、報文紹介シリーズは終了です。手持ちにはたくさん報文を抱えておりますが、紹介できるほど読み込めておりませんんで)
 
 今回は、クワガタの菌糸瓶の添加剤の補助剤の候補としてなりそうなもの。
 
 菌糸瓶の添加剤としては、糖質、タンパク質などいろいろとあるようだが、今回のロイヤラクチンは、それにプラスαで加えることによって、さらなる生体内での効果の可能性が期待されるかも知れない。
 
 またそれ以外にも、通常の飼育では考えつかないような、面白い補助剤となりうる新素材のヒントも書かれていた。
 
 さて、今回紹介する報文は学会誌からの情報であるが、この題材は
2011年に科学界では最高峰の雑誌のnature誌にも(同じ著者が)投稿された内容が含まれている(日本語で書かれた貴重な)総説であり、読み応え十分であった。
 
   題名:ミツバチの女王蜂分化を誘導する因子ロイヤラクチンの発見
   著者:鎌倉昌樹
   雑誌:生化学、第
84巻、第12号、pp.994-1003
   年代:
2012年
 
 今回は、背景となるところが重要であると個人的には考えたため、そこを重点的に記載した。
 
 
 ミツバチは女王蜂と働き蜂からなる階級(カースト)社会を形成しているが、実はどちらも同じ遺伝子型を持っている。
 
 その分化は、ローヤルゼリーの摂食の有無であることは以前から知られていた。
 
 そこで、ローヤルゼリーのどの成分が分化に関係しているかが鋭意研究されており、以前はその候補としてグルコースとフルクトースの糖が挙げられていた。
 
 しかし著書らの研究から、タイトルのロイヤラクチンであることが判明した。
 
 ロイヤラクチンは、
mrjp1遺伝子産物であり、57kDa(kDa:分子量のような単位)の糖タンパク質である。
 
 また、熱には不安定なようであり、
40℃で30日間保管していると、ロイヤラクチンの活性は消失する。
 
 女王蜂は、働き蜂と比較すると、体サイズが
1.5倍、寿命が20倍であり、1日に2000個を産卵する特徴がある。
 
 また、大きい個体の成長期間は、通常であれば長くなるものであるが、女王蜂は体が大きいにも関わらず、早く羽化することも特徴となっている。
 
 そこで熱による失活前後のローヤルゼリーの成分の違いを調べると、その複数の候補の中から、ロイヤラクチンが女王蜂の分化の因子であることが確認された。
 
 そして次に、実験昆虫としてよく利用されているショウジョウバエを用いて、ロイヤラクチンの効果を詳細に検証してみると、女王蜂を同じように、体サイズ、産卵数、寿命の増加や発生期間の短縮が誘導されることが明らかとなった。
 
 また、このショウジョウバエの形態的、生理的変化は、ロイヤラクチンを摂取した
1世代だけに見られたものであることから、ロイヤラクチンは同じ遺伝子型を持つ個体を全く異なる表現型にする因子であることが示唆された。
 
 生物個体の体サイズや寿命などの制御に中心的な役割を担っている因子として、これまでにインスリン様受容体(
InR)が知られていたが、今回のものはそれではなく、ロイヤラクチンは(臓器・器官はいろいろあるが)脂肪体(のみ)の上皮増殖因子(EGF)受容体を介したものであった。
 
 そして最終的には、次のようなモデルが提案された。
 
イメージ 1
 
イメージ 2
 
 黒の矢印は、矢印の方向のシグナル因子を活性化させ、青の矢印の卵黄タンパク質は、脂肪体から卵巣への移行を意味する。
 
 このように四つのロイヤラクチンの効果(①体サイズの増加、②寿命の延長、③産卵数増加、④発生期間の短縮)は、それぞれ独立したものであると考えられた。
 
 上図のそれ以上の説明は省略する。
 
 では、上図の説明を簡単に省略させたかと言うと、科学の世界では、観察された効果についての作用機序(
mode of action)まで掘り下げて究明されて、やっとその効果の妥当性が認められるためである。
 
 したがい、上図の内容を暗記する必要はなく、そのメカニズムまで解明されたと言う事実だけ理解すればよい。
 
 
 以上のように、ロイヤラクチン(もしくはローヤルゼリー)は、その生理活性を踏まえると、添加剤の助剤として有用ではないかと思われる。
 
 しかし、上述のとおり、熱安定性が悪いので、取り扱いの注意が必要である。
 
 
 また、それ以外の補助剤のヒントとなることも、この報文には書かれていた。
 
 一つは、糖である。
 
 ロイヤラクチンが究明される前には、女王蜂分化の因子として、グルコースやフルクトースが挙げられていたのは、上述のとおりである。
 
 上図では、
TORがシグナル因子として登場しているが、糖はこの因子を活性化して、細胞の成長に関与していることが報告されている。
 
 EGF受容体から体サイズの増加に至る経路の途中の因子を糖が活性化させているようだ。
 
 したがい、クワガタも同じようなシグナル伝達機構が存在するようだと、
TORに相当する因子に活性化されるような糖を助剤として添加しても面白いかと思う。
 
 ただし、糖は菌によって分解されやすいと思われるため、幼虫の体内にたどりつく前に分解・消失しているかも知れない。
 
 また、クワガタの
TORが糖により活性化されると仮定しても、それに適した糖の種類(グルコース、フルクトース、トレハロース?)を特定する必要がある。
 
 さらに踏み込んで考えてみると、糖に限らず、上図の体サイズに関わるシグナル因子(EGF受容体、PI3K、Akt、TOR、PDK1、S6K)を活性化させる化合物を報文で調べて見るのもいいかも知れない。
 
 
 もう一つは、二本鎖
RNA(dsRNA)である。
 
 これはRNA
干渉の際に用いられるものであり、また、細胞にdsRNAを導入する手法の一つとしては、経口投与があるようだ。
 
 要するに、餌に混ぜ込むことにより、細胞へ
dsRNAを導入し、目的とするタンパク質の産生を抑制させることができうる。
 
 そのため、
dsRNAは、添加剤の助剤として新素材になりうる可能性がある。
 
 タンパク質を抑制させて、体サイズが増加する因子を(私の少ない知識から)思い浮かべてみると、前回の報文で紹介した
SDRがある。
 
 SDR
に留まらず、同様の効果がある因子に対応したdsRNAを餌に混ぜ込む(添加剤の助剤として利用する)ことにより、その抑制効果により、期待している作用が出るかも知れない。
 
 なお、クワガタに
SDRのような機構が存在するかは不明であり、仮にあるとしても、ショウジョウバエとは同じ塩基配列であるとは限らないので、クワガタでのSDR様物質を特定する作業が課題として残されている。
 
 ところで、
dsRNAはネットでも注文できるようなので、塩基配列を指定すれば、(費用は掛かるが、)それを手に入れる環境は既に整っている。
 
 さて、全く意図していなかったが、今回を含むここ
3回の報文紹介は、何らかの関連を持つような構図になってしまった。
 
【関連?報文】
 
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(ブログ引退の月(3月)となりました。もうしばし、お付き合い下さいますようお願い致します)
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本日のマンホールは、下記のもの
(長崎県初登場により、九州地方は制覇!)
 
 ・熊本県玉名市
 ・熊本県植木町(現、熊本市)
 ・熊本県苓北(れいほく)町
 ・熊本県南関町
 ・熊本県松橋町
 ・大分県別府市
 ・大分県国東町(現、国東市)
 ・大分県大分市
 ・長崎県西彼町(現、西海市)
 ・長崎県長崎市
    
 これは、daizuさんから、ご提供頂いた。
 
 画像のご提供は非常にありがたいことである。
 
【玉名市】
イメージ 3
肥後花しょうぶ(市の花)
 
 このマンホールは、下記のリンクで紹介されていたものである。
 
 
【植木町】
イメージ 4
左:アサガオ、右:ホオジロ(町の鳥)とスイセン(町の花)
 
 このマンホールは、下記のリンクで紹介されていたものである。
 
 
【苓北町】
イメージ 5
ハマユウ(町の花)とツバキ(町の木)
 
 このマンホールは、下記のリンクで紹介されていたものである。
 
 
【南関町】
イメージ 6
ツツジ(町の花)、中央には町名の”なんかん”の文字
 
 このマンホールは、下記のリンクで紹介されていたものである。
 
 
【松橋町】
イメージ 7
上がマツ(町の木)、下がコスモス(町の花) 
 
 このマンホールは、下記のリンクで紹介されていたものである。
 
 
【別府市】
イメージ 8
イメージ 9
残念ながら、7月だけはここにはない。花は下記のとおり。
 
  1月 ロウバイ・キンセンカ
2月 ウメ・スイセン
3月 モモ・パンジー
4月 サクラ・チューリップ
5月 ツツジ・シバザクラ
6月 アジサイ・マーガレット
8月 サルスベリ・ヒマワリ
9月 ハギ・カンナ
10月 コスモス・フヨウ
11月 キク・サザンカ
12月 ハボタン・ツバキ
 
 このマンホールは、下記のリンクで紹介されていたものである。
 
 
【国東町】
イメージ 10
中央は特産品の太刀魚、周囲はシャクナゲ(町の花)
 
 このマンホールは、下記のリンクで紹介されていたものである。
 
 
【大分市】
イメージ 11
市章
 
 このマンホールは、下記のリンクで紹介されていたものである。
 
 
【西彼町】
イメージ 12
チューリップ(町の花)
 
 このマンホールは、下記のリンクで紹介されていたものである。
 
 
【長崎市】
イメージ 13
アジサイ(市の花)
 
 このマンホールは、下記のリンクで紹介されていたものである。
 
 
 
 これらのマンホールも、マンホールギャラリーのブログ(下記リンク)に追加させて頂きます。
 
 (2/15までに頂いた画像については、何とか紹介できるように頑張ります。)