報文紹介「インスリン受容体の働きを弱める“おとり”受容体(SDR)」
(ブログ引退前に、溜まっている勉強ネタをどれだけ書けるか、時間との勝負になりつつあります。まるで、原稿の締め切りを切られた、しがない作家のような境遇です(滝汗)) さて、インスリンシリーズの第
2弾
今回の報文は、今年の
1月に発表された最新のものであり、なおかつ、昆虫界のみならず、生物界全体や、医療に関してインパクトが少なからずあると思われる。
その理由は、インスリン関連因子は昆虫のみならず、動物にも存在し、生物の組織の成長に関して、類似した挙動をするためである。
なお、この研究はショウジョウバエを用いたものである。
ショウジョウバエが研究題材となったのは、核
DNAの全てが解読され、それに対応した試験系も既に用意されおり、実験環境が整っているからである。
その上、この生物の世代交代期間が短いため、研究を速く進めることができるため、昆虫の中では最先端の研究題材の一つとなっている。
紹介する報文は、下記のとおり、分子生物学では双璧と目される最高ランクの雑誌から発表されている。
Title : A secreted docoy of InR antagonizes insulin/IGF signaling to restrict body growth in Drosophila
Authors : Naoki Okamoto, Rinna Nakamori, Tomoka Murai, Yuki Yamauchi, Aya Masuda, and Takashi Nishimura
Journal : Genes & Development, Vol. 27, pp.87-97
Year : 2013
この実験結果の詳細は割愛するが、
SDR(分泌型おとりインスリン様受容体)[赤色]というインスリン様受容体(InR)[青色]と競合する受容体の働きを研究したものである。
そこで、
RNA干渉手法を用いて一時的に機能を抑制するノックダウンの方法と、SDRのDNAを欠損させたノックアウトの手法により、血中のSDR濃度を抑制すると、ショウジョウバエの体サイズが通常よりも大きくなった。
逆に、
SDRを過剰に発現させると体サイズが小さくなった。
このようなことを踏まえ、次のようなモデルが提唱された。
生物は、その栄養状態に応じて、脳からインスリン様ペプチド[黄色]の分泌の指令が出る。
このインスリン様ペプチドは、それぞれの組織表面にあるインシュリン様受容体(
InR)と結合し、末梢組織へと信号が伝わり、成長が促進される。
また、神経系にあるグリア細胞から、一定(栄養状態とは関係なく)の
SDRが産生・分泌され、血中へ移行する。
この、
SDRは細胞膜を貫通させる部位を持たないため、組織表面には存在せず、血中を漂っているだけである。
しかし、この
SDRも上図のようにインスリン様ペプチドに結合することから、SDRとInRが競合(インスリン様ペプチドの争奪)する構図となり、その結果、InRを介した成長が制御されている。
また、図では別の因子(
Imp-L2)[灰色]が存在し、SDRと似て、インスリン様ペプチドに結合するが、今回の報文での大筋には関係しないので、その説明は省略する。
次に、
SDR、InRとインスリン様ペプチドの作用のイメージ図を私が勝手に作成してみた。
インスリン様ペプチド(黄)は栄養状態に応じて分泌量が変化し、低栄養の場合にはその濃度が低く、高栄養の場合にはその濃度が高くなる。
そして血中において、このインスリン様ペプチドを、
SDR(赤)とInR(青)が奪い合う格好となる。
図の左側・低栄養の場合には、インスリン様ペプチドの量が少ないことから、
SDRとInRの競合し、InRがインスリン様ペプチドと結合する機会が減少する。
一方、図の右側・高栄養の場合には、インスリン様ペプチドの量が増加したことにより、
InRに結合する機会が増す。
インスリン様ペプチドと
InRが結合した量に応じて、成長が促進されることから、高栄養の場合に、体サイズが大きくなり、SDRは低栄養の状態のときには成長に抑制をかける役割を担っている。
要するに、栄養状態に応じて
SDRがブレーキの役割として成長(体サイズ)を制御している。
少し話が飛んで、以前、遺伝学の説明のところで、体サイズに関して、ポリジーン形質ならびに相加遺伝子について説明した。
記事:http://blogs.yahoo.co.jp/kotaro168/10454233.htmlの【3.遺伝学などの周辺知識】参照
インスリンシリーズの
1回目とこの2回目の内容を踏まえると、1回目はInRが、2回目はSDRがそれぞれ体サイズに関係しているので、これらは体サイズに関するポリジーン形質を構成するものかも知れないし、これらは体サイズに関する相加遺伝子に該当するかも知れない。
この流れで単純に考えると、
InRについてはできるだけ多く、SDRはできるだけ少なくなれば、いいと解釈される。
しかし、今回の
SDRの実験結果からは、注意すべきことも書かれていた。
SDR
を人工的に少なくし、低栄養で飼育した場合にはうまく蛹化できないことが起こった。これも勝手に図を作成した。
幼虫は、その段階で、蛹に必要なタンパク質を脂肪体に蓄積させている。
SDR
が少なくても、高栄養の場合(二段目)には、脂肪体には適度なタンパク質が蓄積されていることから、問題なく体サイズが大きいものが蛹化する。
しかし、
SDRが少なく、かつ低栄養の場合(三段目)には、体サイズが大きな蛹を形成しようするが、それに必要なタンパク質が脂肪体に蓄えられていないため、蛹化不全となるようだ。
ここで感じたことは、体サイズを大きくする遺伝子には、さまざまな機能のものが複合的に組み合わせっており、その機能によっては、
SDR減少個体のように蛹化を不安定にさせるものもあったりするのかも知れない。
したがい、大型をもたらす遺伝子の個体を飼育するには、もともと不安定な要素が多く孕んでいる可能性に気をつける必要があるかも知れない。
-----------------------------
(ブログ引退の月(3月)となりました。もうしばし、お付き合い下さいますようお願い致します)
-----------------------------
本日のマンホールは、下記のもの
・長野県
・長野県長野市
・山梨県
・山梨県甲府市
これは、ベルクカッツェさんから、ご提供頂いた。
画像のご提供は非常にありがたいことである。
【長野県】
県章
【長野市】
リンゴの花(市の花)と実
中サイズ カラー
大サイズ カラー
中サイズ 長野オリンピック
大サイズ 長野オリンピック
(市章入りシリーズ)
【山梨県】
県章
【甲府市】
ナデシコ(市の花)
市章
これらのマンホールも、マンホールギャラリーのブログ(下記リンク)に追加させて頂きます。
(2/15までに頂いた画像については、何とか紹介できるように頑張ります。)