報文紹介「先行して研究されているカイコの変態について」
(今回は文字だらけです。ご容赦下さい。)
インスリン関連の続報をする手もあったが、今回は気分転換に別の話題に。
カイコは、古くから養蚕業に支えられて研究されており、昆虫の中ではいろいろと情報が蓄積されている。
しかし、カイコは鱗翅目、クワガタは鞘翅目と、“目”レベルで異なっているので、この知見をクワガタへ直接利用できるとは限らないことはご留意頂きたい。
この報文(下記)に出会ったのは偶然であり、つい先日、ヤブリンさんからクワガタ
4令幼虫の可能性のご質問を受け、頭の片隅にそのキーワードが残っていたところに、カイコの6令幼虫(通常は5令で蛹化)に関する内容が若干ではあるが、記載されたものに出会ったことによる。
題名 : カイコの眠性変化からみた変態の内分泌基盤
著者 : 川崎秀樹
雑誌 : 蚕糸・昆虫バイオテック、
Vo.77、(2)、pp.117-123
年代 :
2008
この報文のテーマは、カイコの眠性(この単語は後で説明)と幼若ホルモンや脱皮ホルモンなどの内分泌系との関係の内容が整理された総説のようなものであり、この中から、クワガタ飼育に関係しそうなところのみを小ネタ形式で選択してみた。
なお、ここでは幼若ホルモンや脱皮ホルモンについては、解説なしで記載していることから、これが不明な場合には、必要に応じて、下記の記事をご参照下さい。
記事:
http://blogs.yahoo.co.jp/kotaro168/1443504.html
1.過剰加令幼虫の可能性について
カイコでは通常は、
5令幼虫まで進んで蛹化する。
しかし、カイコの加齢は厳格ではなく、環境条件、栄養条件、薬剤処理などにより、早いものでは
3令で、遅いものでは6令で蛹化する。
6
令で蛹化する幼虫は、体が大きいものと想像しがちであるが、どうやらそうでもない。
人工的な薬剤処理をしない場合にも、個体の栄養状態が悪いときに
6令になることがあるようだ(要するに蛹化時の個体のサイズは小さい)。
また人工的な処理として、薬剤として幼若ホルモン様物質(メソプレンやフェノキシカルブ)を用いた場合にも、体サイズを大きくするのが目的ではなく、絹を吐く吐糸管を大きくさせて、太い繊維を吐かせるために利用されている。
変態のメカニズムとしては、どうやらカイコも、クワガタと同様に、幼虫がある所定の体重になれば、蛹化のスイッチが入るようである。
したがい、過剰加齢によって巨大な幼虫が出てくるものではないようだ。
ついでに眠性について簡単に説明すると、
5令幼虫が蛹化する場合には4眠と呼ばれ、6令幼虫で蛹化する場合は5眠と、蛹化するステージの幼虫から1を引くと“眠”の関係となる。
このため、カイコの
6令幼虫についての研究成果を調べようとすれば、キーワードとしては、“6令”以外にも、“5眠”も考慮すれば、検索がヒットする確率がアップするだろう。
2.セミ化について
セミ化に関係する可能性のある内容も書かれていた。
いきなり話が脱線するが、“セミ化”と言う単語を下記の辞典で調べてみたところ、掲載されていなかった。
・日本蚕糸学会 蚕糸学用語辞典
・岩波書店 理化学辞典 第
5版
・岩波書店 生物学辞典 第
5版
・北隆館 昆虫学辞典
・東京出版 昆虫の辞典
・岩波書店 広辞苑 第
6版
“セミ化”の意味としては、(恐らく)セミの幼虫のように長い間、幼虫で居続けることを指すのであろうが、これは専門用語ではなく、俗語かも知れない。
カイコについては、これに類似した用語として“永続幼虫”がある。
これを蚕糸学用語辞典で調べると、次のように説明されている。
―――――――――――――――
(永続幼虫)
5
令初期の家蚕幼虫に幼若ホルモンを比較的多量投与すると、蛹化することなく幼虫のまま25~30日生き続け、斃死する。このような状態の幼虫を永続幼虫とよび、幼若ホルモンによって変態が抑制されているものと考えられている。
―――――――――――――――
このように永続幼虫は、セミの幼虫のように長い期間を経た後に蛹化するものではないようだ。
脱線はここまで
永続幼虫の意味を踏まえると、人工的な操作によりホルモンバランスが崩れ、蛹化できない幼虫になるようだ。
クワガタに関しても、もしかすると、クワガタの自然環境中にない添加物を加えられた飼育条件においてホルモンバランスが崩れ、終令初期の幼虫体内の幼若ホルモンが高濃度のままだったことにより、蛹化できないのかも知れない。
3.卵・幼虫の管理温度について
カイコの温度管理について、興味深いことが書かれていた。
催青(後で説明)中の低温および稚蚕期の高温は発育経過の短縮を引き起こし、
3眠化(すなわち、4令で蛹化)をもたらす。
稚蚕期の高温では、アラタ体(幼若ホルモン合成・分泌器官)活性が増強し、
2令期あるいは3令期が延長して、(その令での体重がさらに増加することにより)3眠蚕(4令蛹化)が出現するようだ。
この現象の解釈によっては、飼育方法が全く逆の方向性になるが、私の解釈としては、次の通り。
蚕の場合には、早く成長して大きくなれば、
5令を待たずに蛹化するため4令で蛹化するが、クワガタの場合には、2令蛹化の可能性は低いため、アラタ体活性を積極的に増強させる作戦(すなわち、令数が若い間は高温管理)が、大きい幼虫作出への手段ではないかと思われる。
また、上述の“催青”とは、蚕の卵の時期(胚を成長させる時期)のことであり、養蚕業上、一斉に孵化させて飼育・管理するため、卵の温度管理が為されている。
そこで検討された結果、卵は低温処理すると、幼虫の体重増加に効果的であるようだ。
これは、下記の参考文献の内容で紹介すると、
20、25、30℃の3種の温度で卵を管理して、その効果を比較したところ(なお、幼虫の飼育温度は28℃)、幼虫の体重が最も大きくなった卵の管理温度は、20℃であった。
追記(2013.3.20)
また、更に詳細な実験により、卵の初期の高温はそれほど影響は受けないが、後期からの高温は幼虫への成長に影響を与えるようだ。
後期で影響を受ける時期は、胚の発達が進み、ステージが変わる頃のようなので、幼虫にすくすくと成長してもらうには、胚の後期の時期の低温管理が(蚕幼虫の体重増については)重要なようだ。
クワガタ飼育において、その卵の温度管理については、考えたことすらなかったことに気付かされた。
【参考文献】
1.について
滝澤真琴、木内信、清水治、2001
年、カイコの5眠化誘導手法についての検討、群馬県蚕業試験場研究報告、第7号、pp.40-44
3.の催青について
藤枝貴和、1981
年、原蚕の人工飼料育における催青温度、光線が稚蚕の発育、眠性および化性に及ぼす影響、群馬県蚕業試験場報告、第54号、pp.63-66
最後に、不確かな作戦として、セミ化解消対策案について、白字で備忘録として残す。
今回の報文の中では、薬剤処理として、イミダゾールを使用して、アラタ体(幼若ホルモン分泌器官)や前胸腺(脱皮ホルモン分泌器官)の活性を一時的に抑えることが書かれていた(その後は回復する)。
仮に、セミ化の原因がホルモンバランスの変調であるとするならば、第一弾として、その幼虫にイミダゾール処理を行い(幼若ホルモンおよび脱皮ホルモンを抑え)、その次に脱皮ホルモン処理をすれば、蛹化が起こる可能性があるのではと思われる。
ただし、蛹化時には、変態のメカニズムとして幼若ホルモンの働きにより、付属肢の成長が必須であるため、イミダゾール処理後、その効力が回復しそうな頃(幼若ホルモンが分泌可能な直前)を見計らって、第二弾の脱皮ホルモン投与が必要ではないかと思われる。
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(ブログ引退の月(3月)となりました。もうしばし、お付き合い下さいますようお願い致します)
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本日のマンホールは、下記のもの
(福井県は初登場です!)
・福井県
・福井県丸岡町(現、坂井市)
・福井県金津町(現、あわら市)
・福井県福井市
これは、ベルクカッツェさんから、ご提供頂いた。
画像のご提供は非常にありがたいことである。
【福井県】
上から、時計周りに、冬眠中の熊、雪うさぎ、スキー、雪だるま、カマクラ、雪ん子
県章入り
【丸岡町】
ハナショウブ(町の花)
【金津町】
【福井市】
不死鳥
上のカラー版
何のマークか?不明
市章入り
これはプレート?