森林昆虫研究における分子マーカーの利用

 今回は遺伝子を用いた学問である分子生物学についての小ネタ。
 この分子生物学による手法の進歩は著しく、まさに日進月歩の勢いである。
 
 その学問で最も進んだ研究対象は、ヒトを含む哺乳動物の分野であろう。
 それは、医療など社会産業上、高付加価値の研究題材が山積しているからである。
 
 そこで開発された技術は、どんどんと他の研究対象にも転用・応用されており、研究対象として森林昆虫まで及んでいる。
 
 そこで今回は、森林昆虫を研究対象とした分子マーカーに関する技術の総説(下記)からの情報提供。
 
   題名:総説 森林昆虫研究における分子マーカーの利用
   著者:加賀谷悦子
   雑誌:樹木医学研究、第9巻、1号、pp.1-8
   年代:2005年
 
 報文の年代(2005年)を見れば察しがつくかも知れないが、この(日進月歩で進歩している)分子生物学という学問では、8年前の話は一昔前を意味する。
 
 したがって、現在はさらに有効な手法が活用されているに違いないが、そこまでは私はフォローできていないので、これでご容赦頂きたい。
 
 また今回はこの中から、とある一つのマーカーに絞って詳しく説明させて頂くが、それ以外の技術で興味があるようであれば、この報文は無料でダウンロードできるため、別途、ご確認頂ければと思う。
 
 まずは、この報文で取り上げられた分子マーカーの全体像は、以下のとおりであった。
 
イメージ 16
 
 一番左の列は、分子マーカーの種類であり、それらを「なに」の「どこ」を「どのように」調べるかについて列挙されたものである。
 
 
 次の列の「なに」については、動物の細胞には、核DNAとミトコンドリアDNAの2種類のDNAセットが存在する。
 なお、核DNAは両親から遺伝するものの、ミトコンドリアDNAは基本的には母親からしか遺伝子しない。
 
 
 その次の列の「どこ」については、DNAの領域の中には、機能的な役割を担っている領域とそうでない領域がある。
 
 この領域間には大きな特徴がある。
 
 すなわち、(遺伝子)発現して機能を持つ領域は、機能を持たない領域よりも、不利な突然変異が除かれやすいため、長い期間でも少ししか遺伝子の変化は起こらないことが多い。
 
 要するに、機能を持つ領域は、変異が少なく、進化が遅い。
 
 一方、機能を持たない領域は、(個体に悪影響を及ぼさないため)突然変異が除かれることが少なく、変異したものが蓄積されやすいため、DNA配列は早く変化することになる。
 
 このような変化・進化の速さの異なる部分を調べることによって、分子マーカーは高次分類群間のような大括りのものから種内や個体間の(詳細な)相違まで、さまざまな階層での遺伝的比較が可能となっている。
 
 
 その次の列の「どのように」については、解析する分子が、DNAかタンパク質かで方法が異なり、特にDNAはさまざまな手法が開発されている。
 
 
 さて、ここでの本題として詳細に紹介するものは、4番目に記載された分子マーカーであるマイクロサテライトについてである。
 
 
 このマーカーの背景としては次のとおり。
 
 DNA中には、「GTGTGTGT・・・・」といった特定の塩基配列の繰り返しが現れる箇所がある。
 このような領域をマイクロサテライト領域と言われている。
 なお、この繰り返しの回数は、突然変異が生じやすい特徴がある。
 
 そのため、こういった領域は、現在(2005年当時のこと)、利用されている分子マーカーの中で最も解像度の高い共優性マーカーとして用いられている。
 
 専門用語の説明となるが、共優性マーカーは遺伝子が有りの場合には、ホモかヘテロかまでの詳細な情報が得られるが、優性マーカーは遺伝子の有無までしか分からない。
 
 話は戻って、この繰り返し領域の長さを、(手軽にできる)電気泳動で調べたり、(手間の掛かる)シーケンサーによって塩基配列を解読してより詳細に解析したりすることができる。
 
 このマーカーの解析により、個体群構造を扱った研究や、また親子判定を行う場合にはこのマーカーの開発は欠かせないものになりつつあるようだ。
 
 以上のことが、今回紹介しようとした内容であり、これを頭の片隅に入れて頂き、話は飛ぶ。
 
 
 最近の昆虫学会では、興味深い発表があったようだ。
 
 タイトルは、「マイクロサテライトSSR)マーカーによるオオクワガタ日本集団Dorcus hopei binodulosus とその近縁タクサに関する集団遺伝子学的解析」である。
 
 日本のオオクワ研究の背景には、(純)天然個体の減少と共に、外国産などの放虫との交雑の危険性も加わってきている。
 
 そこで、(上述の)マイクロサテライトマーカーを用いて、日本産オオクワを判別しようとする試みがあり、日本のものを含む近縁2種5亜種を解析したところ、5つの遺伝的グループが存在することが示唆された。
 
 この5つとは、D. h. binodulosus (日本)、D. h. binodulosus (北朝鮮・中国北部)、D. h. hopei (中国)、D. g. formosanus (台湾)、D. g. grandisD. g. moriyai (ベトナム~インド)に対応したようだ。
 
 これら5種の判別精度は定かではないものの、仮にマイクロサテライトマーカーにより判別が可能となれば、(この5種の範囲の中での話しになるが)オオクワ個体の交雑の有無を判別できることになるだろう。
 
 また、現在の技術では、非常にコストと時間が掛かるであろうが、5年後、10年後には、簡単に、かつ安価に判別できる時代が来ているかも知れない。
 
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(ついにブログ引退の月(3月)となりました。もうしばし、お付き合い下さいますようお願い致します)
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本日のマンホールは、下記のもの
 
 ・滋賀県信楽町(現、甲賀市)
 ・滋賀県大津市
 ・中部電力
   
 これは、ベルクカッツェさんから、ご提供頂いた。
 
 画像のご提供は非常にありがたいことである。
 
【信楽町】
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ヤマツツジ(町の花)
 
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【大津市】
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市制施行から100年目の大津市の景観をモチーフにした、琵琶湖、琵琶湖大橋、ミシガン船、ヨット、観覧車、ユリカモメ(市の鳥)、エイザンスミレ(市の花)、ヤマザクラ(市の木)、花火大会、レガッタ、びわ湖花噴水など
 
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市章
 
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【中部電力】
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旧マーク
 
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現マーク
 
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 これらのマンホールも、マンホールギャラリーのブログ(下記リンク)に追加させて頂きます。
 
 (2/15までに頂いた画像については、何とか紹介できるように頑張ります。)