報文紹介「クワガタムシ幼虫の窒素分の制御」

読書の秋になったのだろうか。今回も勉強ネタ。
 
 この報文紹介は、クワガタ幼虫(の腸内微生物)による、大気中からの窒素分の取り込み(窒素固定)に関する続報について。
 
 今年の8月発表のものであり、比較的新しい下記のもの。
 
  題名:クワガタムシ幼虫の発達における朽ち木・マット中の窒素分制御
  著者:藏之内 利和、望月 淳、鈴木 一隆、小島 啓史、五箇 公一
  雑誌:昆虫と自然、47(9)、pp.30-32
  年代: 2012
 
 この一連の報文には、過去にも何度か紹介し、ここでは新しいデータも加わっていた。
 
 そこで、この報文の過去の経緯から整理する。
 
 事の発端は、ヒラタ幼虫飼育の使用済み発酵マットをビニル袋の入れておくと、ビニル袋がしぼんで行くことが認められた。
 
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 そのため、クワガタ幼虫の糞(腸内微生物群)の中には、窒素固定能の可能性が示唆された。
 
 
 次に、コクワ幼虫由来の糞(腸内微生物群)を用いて、間接的な窒素固定能の検証法であるアセチレン還元活性を確認した。
 
 原理としては、分子内に三重結合を持つ窒素分子N2(N≡N)に対して還元作用があるものは、同じく分子内に三重結合を持つアセチレンC2H2(CH≡CH)還元能を有するようだ。
 
 そのことから、反応前後にアセチレンとその生成物であるエチレンC2H4(CH2=CH2)の濃度を測定することによって、アセチレン還元活性が確認され、ひいては空気中の窒素分子を体内に窒素源として取り込む可能性が示唆された。
 
 そして次に、その窒素固定能について定量的な評価を行うために、(サイズが大きい)ヒラタ幼虫を用い実験を行った。
 
 そこでは、飼育系全体(使用したマットおよびそこで成長したクワガタ)の炭素ならびに窒素の含量を測定し、飼育開始前後で窒素量および炭素量を比較したところ、飼育後には窒素分の含量が増加した。
 
 このことから、ヒタラ幼虫の腸内微生物群により、空気中の窒素が利用され、飼育系の窒素含量が増加(窒素固定)した可能性が補強された。
 
―――― 過去の経緯終了 ――――
 
 ここからが、新しい内容となる。
 
 そこで、最後に説明したヒラタ幼虫による窒素固定の追試が行われ、同じ方法により試験系全体の窒素分の含量を測定した。
 
 違いとしてはヒラタの産地と累代数であった。
 
 以前は東京都狛江市のF2個体(表の上)であったが、追試は愛媛県今治市のF3個体(表の下)であった。
 
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 この結果から、追試した愛媛県今治市のものは、窒素量の有意な増加が見られなかった。
 
 この両者が違った理由として、著者が考えたものは、以下の二つ。
 
(★相違の理由)
●東京都狛江市産は河川敷という森林相が貧弱な場所で採集され、愛媛県今治市産は照葉樹林の腐植に富んだ土壌の林で採集された点(こうした生育環境の違いが空中窒素固定能に影響を与えている可能性)
 
●累代数の増加が空中窒素固定微生物へ与える影響(人工的な飼育環境では窒素分が多いため、窒素固定活性を持つ微生物が減少するか、活性自体が低下する可能性)
 
 そこで筆者らは、クワガタ幼虫の生育環境における炭素量/窒素量比(以下、C/N比)の増減を確認してみた。
 
 一つ目の確認は、朽木に穿孔したコクワ幼虫を題材に、その坑道の周辺部と坑道内容物のC/N比を評価したところ、坑道内容物の方でC/N比が低かった。
 
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 これはコクワ幼虫の糞により、その坑道周辺内容物では窒素固定が起き、材の周辺部よりもC/N比が低くなった可能性が示唆された。
 また、これは他の研究者でも、同様の傾向があることが過去に示されている。
 
 二つ目の確認は、コクワやオオクワの幼虫を用いて、C/N比の異なるマットを利用して飼育した場合に、飼育後のマットのC/N比を測定・比較したもの。
 
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 これにより、初期にC/N比が高いマット(緑)は、飼育によりその比が大きく減少し、また、初期にC/N比の低いマット(水色)では、逆にC/Nが飼育後に増加した。
 
 その中間のC/N比のマット(赤)で飼育したものは、飼育前後で、値はあまり変化がなかった。
 
 このような初期のC/N比によって、その後のC/N比の挙動が異なるのは、空中窒素固定微生物や、シロアリの腸内微生物についても、同様に確認されている知見である。
 
 最後の図は実験結果ではなく、共著の小島啓史氏の発表された図の改変版
 
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 小島氏のスパテクの本で、クワガタ幼虫の成育する朽木の腐朽程度・湿度と種による住み分けについて、論じられたもの。
 
 これを踏まえると、幼虫に発育に際して、窒素固定よる寄与は、図の右側に位置する腐朽程度が少ない朽木を好む種で高く、逆に左側に位置する腐朽が進んだ朽木さらにフレーク状を好む種では、その寄与が低くなることが推察される。
 
 と言ったところが、この報文のストーリーである。
 
 
 さて、(年に1回程度しか会わないが)私の知り合いS氏は、この一連の窒素固定の結果に疑問を持っている。
 
 では、今回の内容で、その疑問は晴れたのだろうか?
 
 私の推測では、答えはNoである。
 
 話の筋としては、特に矛盾しているところはない。
 
 しかし、東京都と愛媛県のヒラタ幼虫による窒素量の増加の有無の原因追求に関して、サポートデータとして出したコクワとオオクワ幼虫の結果(図1、図2)や小島氏の図3の内容を密接に付き合わせる必要がある。
 
 要するに、C/N比の高いところのものは、窒素固定活性が高いと推測されるのであれば、そのロジックを踏まえて、異なる産地・累代のヒラタ幼虫を用いて窒素量の増加が違った理由(★のところ)について立ち戻って、自身の結果の正当性を、表面上ではなく、きっちりと補強すべきであった。
 
 すなわち、サポートデータ(図2)では、C/N比によって窒素固定活性が変化しているが、東京都と愛媛県のヒラタの試験系(初発C/N比=150)の結果は、サポートデータと同じ傾向示さなかった点。
 その理由として、累代時の飼育環境により、微生物数やその活性が影響を受けている可能性を述べているので、東京都F2、愛媛県F3のヒラタ累代飼育時の栄養状態を明らかにした上で、きちんとその理由の正当性を補強する必要があった。
 
 また同様に、サポートデータ(図1および図2)のコクワやオオクワの産地・累代数などの情報も加味した上での考察も必要であったろう。
 
 それをしていないため、いいとこ取りの考察で終わってしまったのではなかろうか。
 
 S氏の話しはここまでとし、ここでやっと私感を述べさせて頂く。
 この窒素固定能の増減という現象は、実は土壌でも当たり前のように論じられている話である。
 
 C/N比が10~20の範囲を境にして、それよりも高い場合には、土壌微生物に働きにより低くなり、またそれあよりも低い場合には、同じく土壌微生物により高くなり、結果的には、C/N比が10~20の範囲に(長い時間は掛かるものの)落ち着くのである。
 
 したがって、クワガタが居なくても、微生物が環境中に存在することができれば、C/N比は自ずと、調整されるのである。
 
 ただし、このクワガタの結果で、C/N比が50付近に落ち着いているのは面白い結果だと思った。 なぜ、高止まりしているのだろうか?
 
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本日のマンホールは、下記もの。
(沖縄県と鹿児島県は初もの)
 
 
 ・沖縄県那覇市
 ・沖縄ガス
 ・鹿児島県与論町
  
 これは、レルさんから、ご提供頂いた。
 画像のご提供は非常にありがたいことである。
 
【那覇市】
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魚の模様と中央には市章
 
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”なは”の文字
 
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市章入り
 
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市章入り
 
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市章入り
 
【沖縄ガス】
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マーク入り
 
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マーク入り
 
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マーク入り
 
【与論町】
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赤佐地区、与論町の町章
 
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イメージ 9
 
イメージ 10
 
 これらのマンホールも、マンホールギャラリーのブログ(下記リンク)に追加させて頂きます。
 
 皆さんからの、さらなる応募も待っています。マンホール画像の送付先のアドレスは、上記マンホールギャラリーのアドレスをクリックすれば掲載されております。
(最近、画像が溜まっており、頂いた画像の掲載が遅れております。申し訳ございません。)
 
今回のプチ企画賞品:チョコレートスイーツ