報文紹介「コガネムシ幼虫の発達ステージとその呼吸活性について」
(報文紹介シリーズは、約半年振りとなってしまい、このシリーズの存在は忘れさられているかも知れない(汗))
現在、クワガタ幼虫の飼育(生育)環境の一つして関心のある要素として、クワガタ幼虫と(幼虫体内の)酸素分圧(濃度)との関係がある。
(そこから発想が拡大し、)幼虫が生育して体が大きくなった場合に、幼虫体内の隅々まで酸素が十分に行き渡っているのだろうか? 脊椎動物のように血液を利用した能動的・効率的な酸素供給機構がないため、幼虫体内の(隅々までへの)酸素供給能力が律速となって体の大型化に対して負の一因になってはいないだろうか? と考えるようになった。
そのため、幼虫の呼吸そのものについて関心を持つようになってきた。
昆虫の生理学の教科書で呼吸に関する内容としては、昆虫には気門があり、そこから体内にある気管を経由して、体内に酸素が供給され、また酸素が特に必要な器官には、気管から毛細気管を通じて酸素が供給されているようだ(“気管”と“器官”の単語の違いに要注意)。
ただし、気管は血液のような能動的な流れがある訳ではなく、気管の気相中を酸素が受動拡散しているのみである。
とは言いつつも、末端器官では酸素が消費され、低酸素分圧(濃度)になっているため、結果的に酸素が気門から末端器官への流れる仕組みになっているようだ。
この呼吸のメカニズムに関して現状の私の知識はこの程度であり、さらに詳細については必要に応じて調査する予定である。
さて、この調査の一環としては偶然であるが、(クワガタではなく、コガネムシであるものの)幼虫の呼吸活性についての報文を入手することができたので、これを今回は紹介する。
この報文の発表は古いものの、私としてはいろいろと考えさせられる結果が含まれていた。
それが次のもの。
題名:コガネムシ類の発育ステージと呼吸量との関係
著者:刑部正博、吉田正義、廿日出正美
雑誌:日本応用動物昆虫学会誌(応動昆)、26(4)、pp.294-299
年代:1982年
この報文では、卵から成虫に至るまでの成長段階ごとに、呼吸(≒呼出[こしゅつ])活性のデータが掲載されていた。
その結果の大筋は予想はつくかも知れないが、各ステージの変化をよく捉えたものが得られている。
しかし、これらの結果をクワガタ幼虫の飼育に適用させるための手掛かりとなるような考察がないため、読み手各自の解釈によって、その後の作戦が異なるものと思われる。
したがい、(私の意見などは参考にせずに、)自由な発想・視点から、これから述べるデータを眺めると、いいアイデアが浮かぶかも知れない(し、何も浮かばないかも知れない)。
そこで、その内容を報告し、ところどころで雑感を記すことにした。
【CO2
呼出活性の測定方法】
密閉容器に被験体(卵、幼虫、蛹、成虫など)を入れて、一定時間前後の空気中の二酸化炭素(CO2)の濃度をガスクロマトグラフィー(GC)で測定する。
そのCO2の増加量からCO2呼出活性(mL / hr)が求められ、また被験体の重量情報を加味し、単位重量あたりのCO2呼出活性(mL / g / hr)が計算される。
検体となるコガネムシは、オオサカスジコガネ、サクラチビコガネがメインで、この記事では取り上げていなものの中には、ドウガネブイブイ、ウスチャコガネ、コイチャコガネがある。
【結果】
Ⅰ.産卵後からの卵の重量と呼出活性
下図のように、オオサカスジコガネでは産卵後の経過日数(横軸)とともに、吸水によって卵の重量(左縦軸-黒)が増え、また、それに応じて呼出活性(右縦軸-赤)も増加傾向となった。
![イメージ 1](https://stat.ameba.jp/user_images/20190814/10/red-mobilio/6d/0c/j/o0335041314535173256.jpg?caw=800)
卵の中では、吸水による膨張と併行して、生物的にも変化が生じ、それが呼出となって現れていると思われる。
Ⅱ.幼虫の重量と呼出活性
下図のように、サクラチビコガネ(青色)とオオサカスジコガネ(黒色)の幼虫の重量(横軸)ならびに齢数と、呼出活性(縦軸)との関係を示すものであり、齢数が増し、重量が増すほどに呼出活性も増加する傾向となった。
![イメージ 2](https://stat.ameba.jp/user_images/20190814/10/red-mobilio/36/20/j/o0379036014535173260.jpg?caw=800)
この結果は、大きくなるほど呼吸量が増加するので、考えてみれば当たり前の結果とも言える。
そこで次に、呼出活性を幼虫の重量で割って計算した“単位重量あたりの呼出活性”を縦軸にしてプロットしたものが、下図となる。
![イメージ 4](https://stat.ameba.jp/user_images/20190814/10/red-mobilio/37/98/j/o0372037114535173264.jpg?caw=800)
この結果からは、初齢幼虫が、最も単位重量あたりの呼出活性が高く、2から3齢にかけては、減少傾向もしくは横ばいとなった。
―雑感―
では、この結果を踏まえ、単位重量あたりの活性が最も高い初齢幼虫の時期に、飼育に最も力点を置くことがいい作戦との判断になるのだろうか?
個人的な見解としては、Noである。
その根拠は、生育とともに、体内に蓄えられる脂肪体(注1)のタンパク質の存在が影響していると思われる。
(注1)脂肪体について(過去のブログ参照:http://blogs.yahoo.co.jp/kotaro168/1864840.html)
幼虫は変態に備えて脂肪体でタンパク質が体内に蓄積されていき、そのタンパク質は呼吸には大きくは関与せず、しかし、重量には密接に関係するものと推察される。
したがい、蓄積されたタンパク質が最も少ない初齢幼虫の時期が、単位重量あたりの呼吸活性が最も高い値になるのは、半ば当然の結果とも言える。
となると、この呼出活性の結果を踏まえた幼虫の飼育計画の立案には、何の役にも立たないデータとも読めるかも知れない。
さて次は、3齢幼虫の各ステージでの呼出活性について
オオサカスジコガネの、摂食期、非摂食期、前蛹期の(単位重量あたりの)呼出活性のデータ
![イメージ 5](https://stat.ameba.jp/user_images/20190814/10/red-mobilio/00/52/j/o0517026414535173270.jpg?caw=800)
ここから明らかなように、この中では摂食期で最も呼出活性が高く、また、温度によって大きく活性が異なる。
その後、非摂食期になると極端に呼出活性が低下し、温度の影響も小さくなる。
さらにその次の前蛹期になると、変態が始まる関係であろうか、呼出活性がやや増加するものの、温度による影響は、それほど大きくはならない。
―雑感―
クワガタの大あご原基、カブトムシの角原基は、非摂食期から前蛹期にかけて、原基の細胞増殖が継続されているとの説(注2)もあることから、この時期(非摂食期から前蛹期)に敢えて低温気味にして、変態に向けての幼若ホルモンの消失時期を少しでも遅らせ(=ICG期間(注3)を長くさせ)、またそれぞれの原基の増殖はそのまま維持しようとの試みは、このデータからもありうる作戦かも知れない。
(注2)カブトムシ原基が発達する時期(過去のブログ参照:http://blogs.yahoo.co.jp/kotaro168/1651108.htmlの「今回の報文の研究結果」の項)
(注3)ICG期間(過去のブログ参照:http://blogs.yahoo.co.jp/kotaro168/8026815.htmlの4枚目の図)
Ⅲ.蛹の時期の呼吸活性
これもオオサカスジコガネの結果
![イメージ 6](https://stat.ameba.jp/user_images/20190814/10/red-mobilio/ae/38/j/o0296045714535173277.jpg?caw=800)
蛹の中期には、呼出活性が低下する時期があるようだ。
報文によれは、複眼の着色が認められる時期が呼出活性の底にあたり、胸部背面が着色する時期に向かって、呼出活性が向上するようである。
Ⅳ.初齢から成体までの呼吸活性
これも、オオサカスジコガネの各ステージの単位重量あたりの呼出活性の結果である。
![イメージ 7](https://stat.ameba.jp/user_images/20190814/10/red-mobilio/7d/38/j/o0303045414535173280.jpg?caw=800)
これより、単位重量で着目すれば、呼出活性は初齢幼虫が最も高くなり、おおむね蛹に向けて、どんどん低下している傾向にある。
このグラフでは、卵期がプロットされていないので、報文中のデータから卵の時期の活性について、計算してみた。
掲載されているデータは次のとおり。
9日目の卵の呼出速度:1.319 µL / hr
その時の重量:6.7 mg
その時の呼出速度(計算値):1.319 / 0.0067 = 197 µL / g / hr = 19.7 x 10-2 mL/ g / hr
この結果から、卵の9日後の(単位重量あたりの)呼出活性は、幼虫の2~3齢の活性と同程度となる。
―雑感―
今回の結果は、重量を考慮しなければ、重量が最も高い3齢で呼出活性が一番高いものとなり、また、単位重量あたりの活性にすると、初齢で一番活性が高かった。
本来、最も呼出活性が高い時期を見定めるためには、生長を促す器官の重量が分かればいいのだが、このデータは簡単には集まりそうもないと思われる。
私の空想の中での理想の飼育条件は、単位器官重量あたりの呼出活性が高い時期は、最も栄養のあるエサを与えて生育させ、また、最も酸素を消費する3齢の後期には、周辺環境の酸素低下を予防し、それが生長の律速要因とならないにすることになるのだろうか。
結局は、この報文からは、飼育に関する直接的なヒントとなるようなデータは得られなかったように思えるが、各ステージの呼出活性の情報はたいへん興味深いものであった。
また、蛹の時期の各ステージの呼出活性や温度依存の結果は面白いものだと感じた。
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本日のマンホールは、下記のもの
・福岡県筑紫野市
・福岡県太宰府市
これは、daizuさんから、ご提供頂いた。
画像のご提供は非常にありがたいことである。
【筑紫野市】
![イメージ 9](https://stat.ameba.jp/user_images/20190814/10/red-mobilio/6e/6f/j/o0275041414535173287.jpg?caw=800)
(展示品、地元では有名なフジと、ツバキ(市の花))
![イメージ 8](https://stat.ameba.jp/user_images/20190814/10/red-mobilio/95/40/j/o0275041414535173294.jpg?caw=800)
(街中にも)
【太宰府市】
![イメージ 10](https://stat.ameba.jp/user_images/20190814/10/red-mobilio/f6/ee/j/o0560027714535173300.jpg?caw=800)
(ウメ(市の花)、色違い)
![イメージ 11](https://stat.ameba.jp/user_images/20190814/10/red-mobilio/a9/69/j/o0560020514535173307.jpg?caw=800)
(ウメと市章)
![イメージ 3](https://stat.ameba.jp/user_images/20190814/10/red-mobilio/00/94/j/o0560020414535173312.jpg?caw=800)
(同じく、ウメと市章)
この大宰府市のマンホールは、daizuさんの下記のブログで紹介されている。
これらのマンホールも、マンホールギャラリーのブログ(下記リンク)に追加させて頂きます。
皆さんからの、さらなる応募も待っています。マンホール画像の送付先のアドレスは、上記マンホールギャラリーのアドレスをクリックすれば掲載されております。
(最近、画像が溜まっており、頂いた画像の掲載が遅れております。申し訳ございません。)
今回のプチ企画賞品:丹波名産の銀寄栗