「温度-サイズ則」なる報文に関する小ネタ その2

以前に『「温度-サイズ則」の法則の適用意義』に関する総説(参考文献1、末尾に記載)の存在を説明したものの、私の能力では内容の把握がままならず、その全容の紹介が滞っていた。
 
 その理由は、内容が多岐に渡り、また(私にとって)複雑であったからである。
 
 そこで、開き直って、その全容を簡潔に紹介するのは諦め、小出しに小ネタシリーズとして少しずつ説明する方針に変更することにした。
 
 まず初めに掲載した図は、下のものであった。
 
イメージ 1
 
 この詳細は、必要に応じて以下のリンクを参照して頂くとして、生育温度が適用可能な範囲においては低温の場合に体が大きくなることを示すものである。
 
 その次には、参考文献1で示されたものの中から、その具体論として、タバコスズメガの研究成果も小ネタとして過去に報告した。
 
イメージ 2
 
 この詳細も、必要に応じて以下のリンクを参照して頂くとして、ここでのポイントは、左上のグラフで示したとおり、低温で飼育した方が、最大時の体重が重くなる傾向を示すものである。
 
 この研究では、幼若ホルモンの作用など生理的な内容にまで踏み込んで書かれていたものであり、クワガタ飼育にも応用できそうな内容であった。
 
 
 なお、これらの研究は、ベルクマンの法則」を題材にした進化生態学という学問の産物とも言えるかも知れない。
 
 この法則は、寒冷な場所(高緯度や高地)ほど、成体サイズのより大きな個体が見出されるものであり、例えば、有名な例としては、熊は高緯度になるほど、サイズが大きいものとなる。
 
 当初は、内温動物(旧名 恒温動物)について見出された法則であった。
 その理屈としては、寒さに耐えうるためには、体のサイズと比較して、(体温が奪われてしまう)表面積が小さいほど、体温を安定に維持するのに有利であるから、進化の過程でこのような傾向になったと考えられている。
 
 しかし、この傾向は内温動物だけではなく、昆虫類や爬虫類などの外温動物(旧名 変温動物)にも知られるようになった。
 
 そこで、この地理的パターンによる傾向をベルクマン・クラインと呼ばれている。
 このベルクマン・クラインは、種間はもちろんのこと、個体群間でも、同様の傾向があるようだ。
 
 そこで、今回新たに紹介する図も参考文献
1で掲載されていたものであり、このベルクマン・クラインとの関係性を匂わすものである。
 
イメージ 3
 
 その図の元となるオリジナルの報文(参考文献
2)は残念ながら入手できなかった。
 
 この結果は、ショウジョウバエを自然界から採集し、任意に交配して、
2種の温度でそれぞれ5年間の飼育・進化を経て、一世代(親)をかませた後、また2種類の飼育温度での個体サイズを比較したものである。
 
 この結果、どちらの実験区から得られた個体も低い温度でより大きなサイズに至り、また、同じ温度で飼育した個体を比較すると、低い温度で継代飼育された個体の方が大きく育つことが分かった。
 
 ここまで読むと、なるほど、ベルクマン・クラインのパターンを踏まえると、クワガタ飼育においても、低温飼育がいいのでは?と思ってしまう。
 
 ところが、このベルクマン・クラインは、どの種においても必ず成立するものはなく、逆のパターンとなったり、どの法則にも従わなかったりもするようだ。
 
 要するに、生育温度というのは、体サイズに直接影響を及ぼしているのではなく、間接的なもののようだ。
 
 さて、オオクワなどクワガタに関しては、この「ベルクマンの法則」が成り立つのか、非常に興味が湧くところである。
 
 誰かがオオクワ飼育で温度実験をして、「ベルクマン・クライン」と合致するようだと、寒冷な地域(東日本や北海道)のオオクワの方が、サイズが大きくなるポテンシャルを持つ可能性だって期待される。
 
 さて、このテーマの小ネタはまだ続く予定であるが、次回以降は、学問的な色合いがさらに濃くなり、クワガタとは無関係の(もっと)面白くない内容になるような気がする。
 
参考文献1
入江貴博、(
2010)、温度-サイズ則の適応的意義、日本生態学会誌、Vol.60、pp.169-181
 
参考文献2
Partridge L, Barrie B, Fowler K, French V
、(1994)、Evolution and development of body size and cell size in Drosophila melanogaster in response to temperature、Evolution 48、pp.1269-1276
 
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 本日のマンホールは、大阪府豊能町。
 これは、アカモビ提供のもの。
 なお、この町はオオクワの産地の一つでもある。
 
 マンホールはこれ。
 
イメージ 4
タンポポ(町の花) 
 
 このマンホールも、マンホールギャラリーのブログ(下記リンク)に追加させて頂きます。
 
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(今回のプチ企画は、アカモビ一押しのスイーツとなります)