「温度-サイズ則」なる報文に関する小ネタ

 「温度-サイズ則」の総説は、非常に興味深いものの、専門用語の概念を理解するのに手間取り、そのため内容の把握が進まず、現在も格闘中である。
 
 しかし、そこで紹介されていた参考文献の中で面白い内容について、小ネタとしてここで紹介する。
 
 その報文は、下記のものである。
 
   題名:
The Physiological Basis of Reaction Norms : The Interaction Among Growth Rate, the Duration of Growth and Body Size
   著者:
Davidowitz G. and H. F. Nijhout
   雑誌:
Integ. Comp. Biol., Vol.44, pp. 443-449
   年代:
2004年
 
 なお、この報文は、全てを読んだ訳ではなく、ここで示した図に関係するところを斜め読みした程度であり、誤った解釈をしている可能性はご容赦願いたい。
 
 さて、以前ブログの中では、「温度-サイズ則」のところで、次の図を掲載し、低温の方が大きい成虫が得られることを紹介した。
 
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 今回の報文は、このような図について、タバコススメガを研究対象にして、そのメカニズムまでも掲載されていた。
 
 すなわち、蛹化スイッチは、閾値に達した幼虫の体重が引き金を引き、そのスイッチにより、幼若ホルモンが減少し、それが消滅したところで蛹化が始まる。
 
 その幼若ホルモン減少から蛹化開始の期間(
ICGと呼ばれている)が長いほど、成長が進み、重量が増加するようだ。
 
 実験は、
20、25、30℃の条件で、50個体くらいを用いて以下の結果が載せられていた。
 
  ・最大時の幼虫の重量
  ・幼虫の成長速度
  ・蛹化スイッチの閾値重量
  ・ICG
期間
 
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 この結果では、蛹化スイッチの閾値重量は温度には無関係であった(左下)。
 
 また、温度が低いほど、成長速度は遅くなるものの(右上)、
ICG期間が増える(右下)ことにより、最終的には、最大時の幼虫重量が大きく(左上)なるようだ。
 
 そして、そのメカニズムも掲載されていた。
 
 それを説明する前に、幼若ホルモン(
JH)と脱皮ホルモンの関係を説明する。
これは以前のブログで紹介した図である(
http://blogs.yahoo.co.jp/kotaro168/2374961.html
 
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幼虫の変態には、幼若ホルモンが深く関わっている。
 血液中に幼若ホルモン(
JH)が存在する状態で脱皮ホルモンが作用すると幼虫脱皮が繰り返され、JHの非存在下で脱皮ホルモンが作用すると、幼虫から蛹への変態が誘導される。
 
 このことを頭に入れつつ、下の図をご覧頂きたい。
 
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この図を説明すると次のようになる。
 
 終令幼虫は、閾値となる重量になるまでは、成長(体重増加)を続ける。ただし、栄養環境が悪い場合には、それよりも低いときでも、次のステージに進むこともある。
 
 そして、閾値重量を越えると、幼若ホルモン(
JH)を分泌しているアラタ体のスイッチがオフになり、JHの分泌が停止する。
 
 こうなると、血液中の
JH分解酵素(JHエステラーゼ)により、JH濃度が徐々に低下していく。
 
 JH
が存在する間は、成長(体重増加)を継続し、この期間がICG期間の中でもメインのようだ。
 
 そして
、JHが消滅すると次のステージに移る。
 
 次のステージでは、
PTTH( prothoracicotropic hormone)の分泌がある。この分泌には日内の明暗周期にも影響を受ける。
 そのため、JH
が消滅し、かつ、分泌の門が開くタイミングで、PTTHが分泌される。
PTTHは、脱皮ホルモンの分泌を促進する働きがある。
 
 次に、
JHの消滅、かつ、PTTHと脱皮ホルモンの分泌により成長は休止し、その後、蛹化・変態が起こる。
 
 ここで鍵となるICG
期間を整理すると、図のとおり、JH分泌スイッチオフとなった時点から、PTTHと脱皮ホルモンが分泌されることにより成長が停止する期間のことである。
 
 
 これから先の結果の図は、省略するが、実験で成長速度と
ICG期間を求め、そこから計算により、閾値超のスイッチ後の重量増加量と飼育温度との関係を示す曲線が描かれている。
 
 それは冒頭で示した図のようなものとなっており、このタバコスズメガは、
14℃で重量増加量が最大になると計算されている。
 
 
 さて、クワガタも、これと同様のメカニズムがあるのだろうか?
 
 閾値重量が存在するならば、個体によって蛹化スイッチの重量は決定されてしまうので、大きな個体を飼育するために、大きくなる素質(遺伝子)を持った個体が必要条件だと考えられる。
 
 また飼育面では、適度な低温を維持し、
9ICG期間を長くしてやればいいのであろうか。
 
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 本日のマンホールは、岐阜県上石津町(現、大垣市)。
 これは、ひらささんから、ご提供頂いた。
 画像のご提供は非常にありがたいことである。
 
 マンホールはこれ。
 
イメージ 3
町を流れる牧田川を泳ぐアユをデザインしたもの
 
 これらのマンホールも、マンホールギャラリーのブログ(下記リンク)に追加させて頂きます。
 
 皆さんからの、さらなる応募も待っています。送付先のアドレスは、マンホールギャラリーのブログに掲載しております。