報文紹介「森の危険な生物シリーズその2:マダニ類」

(皆さんのコメントや、自分で気になったところがあったので、一部、記載の追加および構成を変更しました(2011.10.21))
 
 前回の報文紹介はスズメバチ類であった。
 
 そのきっかけは、今年はスズメバチに刺されてしまい、その後のわが身が気になったためである。
 
 そこで調べた結果、この「森の危険な生物たち」シリーズの存在を知ったのであった。
 
 そして、次に紹介するのをマダニとしたのは、これまた今年、被害を受けたことによる
 
 この際は、病院に駆け込んだ。
 
 自己流で抜いたマダニの大あごは、まだ体に突き刺さっていたようであり、医師がルーペとピンセットを用いて抜いてもらい、また抗生物質の薬をもらった。
 
 こんないきさつもあり、今回はマダニ類についての下記の報文を紹介する。
 
 
   題名:シリーズ 森の危険な生物たち3-マダニ類-しつこい吸血鬼-
   著者:角田隆
   雑誌:
森林科学、47(6)、pp.60-63
   年代:
2006
 
 日本では、マダニと他のダニとは区別されることはないが、欧米では一般にはマダニはtick、マダニ以外のダニはmiteと呼ばれ、ちゃんと区別されている。
 
 後述のとおり、欧米で死に至ることもあるため区別されており、日本ではそれほど重症ではないので、このような違いがあるのでは?と個人的に思っている。
 
 マダニは、国内においてはヒメダニ科とマダニ科のものが存在するものの、ヒトに被害を与えるのは、マダニ科のものであるため、以後は、マダニ科のものをマダニとする。
 
 そして、下記のようにトピックに対して、それぞれ項目を設け、それに関する説明をする。
 
 まずは、地域によって、問題となるマダニが異なるので、以下のように整理してみた。
 
 
地域による刺咬症例の多いマダニの種類について
 ここでは、地域によって被害をもたらすマダニが異なるので、それぞれの地域の特徴を列挙する。
 
北海道、東北、関東(房総半島除く)、中部:シュルツェマダニ、ヤマトマダニ、ナネガタマダニ
房総半島および近畿以西:フタトゲチマダニ、タカサゴキララマダニ
沖縄:クリイロコイタマダニ、タカサゴキララマダニ
 
 
  次に、
ヒトに与える影響について。
 
 マダニによるヒトへの被害としては、刺咬や皮膚炎による皮膚の損傷、病原体の媒介が挙げられる。
 
 
病気の媒介について
 ヒトに関係する主な病気について、以下の
3種がある。
 
野兎病
 媒介種:キチマダニ、ヤマトマダニ、シュルツェマダニ
 病原菌:
Francisella tularensis
 感染経路:直接寄生された場合のほか、野兎を調理したときや、飼い犬に寄生したマダニを潰したときに感染することが多い
 症状:発熱のほか経皮的に感染した指、目、鼻などのリンパ節に腫瘍を作る場合が多い
 
ライム病
 媒介種:シュルツェマダニ
 病原菌:スピロヘータの一種
Borrelia
 感染経路:寄生
 症状:マダニに刺されてから
7~10日後に刺し口を中心に紅班を生じ、速やかに拡大する。また、紅班と同時に頭痛や発熱などの症状が見られる。欧米ではさらに症状が重たいが、日本のものはそれよりも比較的軽症である
 備考:中部以北、特に北海道と長野に多い(本州では中部以北の海抜
800m以上の高地に、当該マダニが生息するため)
 
日本紅班熱
 媒介種:キチマダニ、フタトゲチマダニ、ヤマトマダニ。
 感染経路:寄生
 病原菌:紅班熱群リケッチア
 症状:マダニに刺されて
2~8日後に発病する。高熱が2~3日続いた後、手足、顔面に米粒から小豆くらいの大きさの紅班が多数出て、全身に広がる
 備考:特に多い県は、高知、島根、千葉、徳島、兵庫(淡路島)、宮崎、鹿児島、和歌山であり、島根県を除いてほとんどの県が関東以西の太平洋側
 
 これらの病気の治療としては、野兎病やライム病、日本紅班熱には、抗生物質のテトラサイクリン系のものが有効である。
 
 幸運なことに、日本ではこれらの症状が比較的軽症であるため、適切な治療を行えば、命に関わるようなことはないようだ。
 
 それ以外としては、(主に海外でのこととなるが)ダニ媒介性脳炎があり、これは死に至ることがある。
国内では北海道南部で1993年にロシア春夏脳炎の症例がある。
 
 この予防として不活性ワクチンの接種はあるが、日本国内では市販されていない。
 
(2013.2.20追記)
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
 媒介種:(中国では)フタトゲチマダニ、オウシマダニ
 感染経路:寄生
 病原菌:SFTSウィルス(ブニヤウィルス科フレボウィルス属)
 潜伏期間:6~2週間
 症状:発熱や嘔吐(おうと)、下血などの症状が表れ、血液中の白血球や血小板の数が減少して全身状態が悪化する。有効な治療薬やワクチンはない。推定致死率は12%程度。
 備考:2011年に初めて特定されたウィルス(日本では2012年が初症例、ただし、ウィルスはそれ以前から存在していた模様)  
 
吸血機構について
 マダニは、宿主に取り付くと鋏脚の先端にあるハサミ状の突起物で宿主の皮膚に切り口をつける。
 
 顎体部(一般に頭と呼ばれている部分)には触肢、鋏角の他に口下片と呼ばれるマダニ特有の器官があり、これには後ろ向きに並んだ歯が生えている。
 
イメージ 1
(バイエル薬品のHPより)
 
 マダニは宿主の体に銛(もり)を打ち込むよう
な感じで切り口に口下片を突き刺して宿主から離れないようにする。
 
 さらに、マダニの唾液腺にはセメント物質が含まれており、これで口下片と宿主の組織をぴったりと密着させている。
 
 チマダニ属
(キチマダニやフタトゲチマダニ)は口下片が短く、あまり深く宿主の皮膚には食い込まないが、マダニ属(ヤマトマダニやシュルツェマダニ)やキララマダニ属(タカサゴキララマダニなど)は口下片が長く、めいっぱい宿主の皮膚に挿入されるため、体を無理に引き抜こうとすると顎体部の部分だけ皮膚に残る。
 
 マダニは吸血中に、宿主血液中のアラキドン酸からプロスタグランジンという生理活性物質を生成する。
 
 このプロスタグランジンには宿主の免疫を抑えたり、血液を安定して供給できるように血小板の凝集を妨げ、さらに血管を拡張させたり、吸血中に宿主に感づかれないように炎症を抑える作業がある。
 
 そのため、マダニが人に吸着しても最初はほとんど無症状で、大きくなってから気付く場合が多いのはこのためのようである。
 
 マダニの幼若虫は蚊などの吸血昆虫と比べて血液をゆっくりと消化する。
 
 これはマダニが血液を摂取した後に大量の消化酵素をすぐに中腸に送り込まないためである。
 
 血液とともに取り込まれた病原体はその間に消化を逃れ、唾液腺などの組織に侵入できる。
 
 このようにマダニが血液の消化をゆっくりと行うことはマダニ自体の寿命を長くすると同時に、病原体を獲得しやすくしていると考えられている。
 
 
 次に、マダニの生態や分布や、それを踏まえた予防対策について説明する。
 
 
行動と生態について
 マダニは、待機→吸血→離脱→脱皮を行って次の発育期へと進む。
 
 宿主にとりついた個体は通常
1週間程度、宿主に寄生し、体重が吸血前の約100倍になるまで血液を取り込んだ後に離れる。 
 
イメージ 2
(バイエル薬品のHPより)
 
 ほとんどの種類(オウシマダニを除く)が、生涯
3回宿主への付着と離脱を繰り返す。
 
 吸血を行うためにほとんどのマダニは宿主を追跡するのではなく、待ち伏せをする。
 
 幼若期にトカゲや小型哺乳類に寄生し、成虫期に中・大型哺乳類へと宿主を変える。
 
 例えば、ヤマトマダニなどは、幼若期には落葉層で、成虫期にはササやツゲなどの葉の裏や茎の先端で待ち伏せている。
 
 待ち伏せする高さ
(待機高)は、植物の大きさにはあまり影響を受けず、その地域に生息する宿主の大きさに応じている。
 
 例えば、ニホンジカの大きさは北へ行くほど大きくなり、マダニの待機高も北へ行くほど高い。
 
 発生時期については、全国的に分布しているフタトゲチマダニを例に挙げると、年に
2回の発生ピークが見られる。
 
 夏から秋にかけてのピークは幼虫が多いが、春のピークは幼虫と成虫の両者が存在する。
 
 また冬に油断してはいけない。
 
 積雪の多い地域では、冬の間マダニは活動を停止するが、房総半島のように温暖な地域ではオオトゲチマダニのように冬でも活動する種がある。
 
 
 
予防と治療について
 マダニに刺されないためには、山林に入る際に、長袖、長ズボンを着用すること。
 
 さらにズボンの裾からマダニがもぐりこまないように裾はブーツや靴下の中に入れる必要がある。
 
 ディートなどの虫除け剤は、マダニに対して有効であるため、衣類や直接肌に塗っておけばさらに効果的である。
 
 また、明るい色の衣類はマダニを発見しやすく、表面の滑らかなナイロン製の生地(雨合羽など)はマダニがつきにくく、ついた場合も払い除けやすい。
 
 また、刺咬症例の多いマダニ種は、若虫や成虫のときに中型・大型哺乳類に寄生するため、これら野生動物が生息するような場所に行った場合には、マダニの存在の可能性があることに留意する。
 
イメージ 3  イメージ 4
 
 
 そして、入浴の際にマダニによる吸着がないかよく調べること。
 
 もし、マダニを発見しても、マダニの吸着後
24時間以内であればライム病などの感染率は低いようなので、しっかりとマダニの頭、すなわち顎体部をピンセットでつまんで虫体を壊さないように慎重に抜くこと。
 
 北海道など、寒冷なところでのマダニによる発症例によると、引き抜いた際に顎体部が皮膚に残り、そのまま放置した場合が多いため、付着を確認した場合は、できるだけ医療機関などで外科的に切除してもらうのがよいようだ。
 
 
おわりに
 マダニによる被害を防ぐには、地域に生息するマダニの発生時期、マダニの多い場所を認識するのが第一であり、予防措置を怠らないことだ。
 
 
私の経験から
 自分の経験を振り返ってみると、確かにマダニが付着している最中は、なかなか気付きにくかった。
 
 しかし、マダニが咬んだ後に移動した患部はかゆみが伴うので、かゆみの大きさで、蚊かマダニかの判断ができるかと思う。
 
 マダニと判断した場合には、マダニが体のどこかに移動している可能性があるので、皮膚を観察して、何か突起物がないか確認することをお勧めする。
 
 私の場合には、皮膚に垂直に
1mmくらいのものが刺さっているのが2箇所見つかった。
 
 別の検出法としては、服や下着などの衣類にマダニが摺れるとそれが皮膚に痛みとして伝わるため、衣類に軽く摺れただけで痛いところは、マダニが吸着している可能性が高いと思われる。
 
 マダニは、初めに付着した場所にのみ吸着するのではなく移動して、皮膚が柔らかく、咬みつきやすいところを選ぶようなので、私のように(恥ずかしながら)陰部を刺される可能性もあることにご注意頂きたい。
 
 以上が本題である。
 
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 これは、内緒(T)さんから、ご提供頂いた。
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 マンホールはこれ。
 イメージ 5
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