報文紹介「樹液の糖度が最も高い時期」

前回の報文においては、月と昆虫の関係について紹介した。
 
 さらに月に関して、面白い知見はないものかと検索をかけていると、別の切り口で面白い内容のものに遭遇した。
 
 ただし、興味を惹いたのは、月に関するところとは全く異なるところではあるが。
 
 
 そこで今回紹介するのは、下記の報文である。
 
  題名:生物学的視点から見た「新月伐採法」
  著者:高部圭司、吉村剛
  雑誌:木材工業、Vol.61、No.12, pp.577-583
  年代:2006年
 
 この報文の骨子は、オーストリアのチロル地方で伝統的に行われている木の伐採法があり、この伐採法から生み出された木材は、割れない、狂わない、腐らない、カビない、燃えにくいといった特徴を持っている。
 
 そのため、この伐採法を科学の視点から検証してみた内容である。
 
 だとしたら、クワガタとは全く関係のない話のように思えるのではなかろうか?
 
 しかし、わずかに細い糸で繋がっている。
 
 カビない木材を作るには、伐採した後の木の乾燥方法が重要であり、木材中の(カビ発生の原因となる)糖分を削減する必要がある。
 
 そのため、年間を通じて、スギの辺材(樹液が流れる部分)の糖分を測定したデータが掲載されている。
 
 なお、このデータは針葉樹のスギであるものの、糖分のパターンは落葉広葉樹でも似たような傾向があるそうだ。
 
 また、糖分の増減幅は、寒冷地の方が顕著に出るとのこと。
 
 では、スギの樹液の糖分のパターンは、下図のとおりである。
 
イメージ 1
 
 面白いことに、カブトムシが大発生する8~9月が最も糖分が低く、6月頃や9月以降は糖分は高いようだ。
 
 また、なぜこのような曲線を描くかについて、木の生理面からの記載も、この報文にはしっかり書かれている。
 
 しかし、ここでの説明は省略する。
 
(方針変更(2011.9.1):樹液濃度の曲線についての因果関係(著者の解釈)については、皆さんのコメントを踏まえて省略せずに、下に青色文字で追記することとしました。)
 
 上記のグラフは、あくまでも糖分の相対的な含有率(濃度)であり、樹液量と濃度を掛け合わせたものが糖分の絶対量となるので、この糖分の絶対量は、年間を通じてどんな曲線を描くのであろうか?
 
 ところで以前に、樹液の滲出に関した報文を紹介したことがあった(http://blogs.yahoo.co.jp/kotaro168/3273253.html)。
 
 そこでの、樹液の滲出量に関する特徴は次のとおりであった。
 
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・樹液滲出開始時期は、平均気温で言えば20℃以上になった頃、時期としては5月中旬から6月中旬頃。
 
・その後、6月下旬から7月上旬に樹液が急激に増え、そのレベルが7月下旬まで続き、8月上旬から9月上旬までさらに一層、樹液が増加する。
 
・その後、樹液量は減少し、平均気温が20℃に低下する10月頃まで樹液は出続ける。また、平均気温が15℃になる11月上旬にはほとんどのものが樹液を出さなくなる。
 
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 これを踏まえると、夏場の樹液の量と糖分の濃度は、ほぼ逆の挙動を示しているように思える。
 
 この現象は、偶然なのだろうか? 必然なのだろうか?
 
 結果的には、こうやって、昆虫たちへの栄養供給のバランスを取っているようである。
 
 
 さて、ここからはクワガタとは全く関係のない話に。
 
 ここで挙げられていた新月伐採法は、次の3つの特徴がある。
 
  ・冬季の新月直前に樹木を伐採すること
  ・伐採時に樹木を谷側に倒すこと
  ・伐採後に長く葉枯らしをすること
 
 なぜ、このような方法にすると、いい木材ができるのかを科学の視点で検証している内容を読むと非常に面白いが、話がクワガタから大幅に逸れるので、ここでの紹介は省略する。
 
 なお、科学の視点でも、完全には検証しきれていないところもあり、古来からの伝統技には感心せざるを得ない。
 
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 追記(2011.9.1)-樹液曲線についての著者の解釈
 
 ・3月下旬から4月上旬頃に木部の形成が開始され、養分を消費
 ・5月以降になると、木部形成がさらに活発化し、光合成での養分の生産ではまかないきれず、辺部の柔細胞の養分を消費
 ・9月以降になると、木部形成活動が緩やかになり、光合成が勝り、養分が貯蓄される
 ・10月から11月にかけて、木部形成活動が終了する
 ・1月後半から2月にかけては、木の凍結防止のための防御機能として、養分(デンプン)を分解し、ショ糖に変換
 ・3月以降に、ショ糖が回収され、再びデンプンに戻される。
 
 用語説明
  木部:木の細胞は壊死しており、樹木の重さを支える役目の部分。幹の大部分がこの部位。
  辺部:木の細胞が生きており、重要な役割として、栄養分の貯蔵・分解や木部の合成などが挙げられる。
 
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 以上が本題である。
 
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 本日のマンホールは、東京都青梅市。
 これは、ペンチ君さんから、ご提供頂いた。
 画像のご提供は非常にありがたいことである。
 
 マンホールはこれ。
 
イメージ 2
       ウグイス(市の鳥)とウメ(市の花)
 
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