報文紹介「昆虫のツノについて-アメリカでのエンマコガネの研究」
本題とは違うが、昨日からHNのバーナーを試行錯誤で修正し、本日、下のように変更した。 私は、阪神淡路大震災を経験したので少しは分かったつもりでいるが、復興は並大抵のものではない。
5年もすればそれなりには復興はするが、10年経っても復興しないエリアだってある。
復興は長い目で見る必要があると思う。
そのため、自分を鼓舞するためにもバーナーを変更した。
なお、これはチャッピーさんのバーナーのアイデアのパクりである。しかし、了解を得た上のものではある。
さて、本題に移る。
以前、カブトムシの角(ツノ)の報文を紹介した。
その報文のイントロダクションのところで、昆虫の角の研究として、エンマコガネの報文が参考文献として紹介されていた。
それを調べてみると、関連する論文は山のように存在しており、角に関しては、このエンマコガネの研究が最も進んでいることが分かった。
そこで、これに関して日本語のものがないかと検索してみた。“エンマコガネ”をキーワードに、以前ブログで紹介したCiNiiで検索したところ、ここで紹介する報文がヒットした。
そこで、早速、国立国会図書館へ複写依頼して入手した。それが下のものである。
題名:昆虫のツノはどのようにしてできるのか?(科学教養講座)
-エンマコガネのツノの形態の多様性の原因をアメリカで追う-
著者:雉本 禎哉
雑誌:理大科学フォーラム,(1),pp. 40 - 46
年代:2010
この著者は、エンマコガネの研究で、多くの論文を出しているMoczek氏のグループの一員である。
そのため、この報文は、専門的に踏み込んだ内容なり、その総説であることを期待した。
しかし、この報文を読んで感じたことは、専門的な論文ではなく、理系の学生に幅広く読んでもらうためのものでしかなかった。
そうは言っても、得るものはあるので、その説明をする。
エンマコガネの角の研究の目的は、生活には必ずしも必須でない“角”が、昆虫の進化の過程にどのようにして発生したのか、なぜいろいろな形態のものがあるのかを明らかにするためである。
エンマコガネ属は、昆虫の中でも非常に多くの種類があり、また、生育域は、熱帯~亜熱帯、また日本を含む温帯領域と幅広いのが特徴である。
まず初めは、DNA、遺伝子、染色体、ゲノムの関係である。その関係は、下の図のとおりである。
DNAには、遺伝子とそうでないものとの二つに分かれる。
遺伝子は、タンパク質を合成するための情報を保持している。
ヒトでは、ゲノムの中で遺伝子の領域は、全体のわずか3~5%程度であると概算されている。
遺伝子の数自体は、ヒトのような高等動物などと、昆虫の間ではそれほど大きく違わない。
さらに、体の基本的な構造を決定するために使われる遺伝子もほぼ同じであるケースもあることが分かっている。
そのため、体をつくる基本的な遺伝子の情報、もしくは機能はさまざまな生物でよく似ていると言って差し支えないだろうと筆者は述べている。
そのため、昆虫同士ではさらに類似性があり、エンマコガネ属同士では、大きな違いはほぼないと思われるとのこと。
また、遺伝子ではないものは、しばらくの間はガラクタ(Junk DNA)と呼ばれていた。
今では、この領域の一部は実は非常に重要な意味を持っていることが分かってきた。
それに関するする話が以下に続く。
その概念図が、下のものである。
DNA上では、遺伝子の上流には、“遺伝子以外の領域”が存在する。
そのため、その領域が変化すると、機能に変化か生じることがあると言うことである。
その単純化した一例の図が下のものである。
この基となっているのは、権威のある雑誌“Nature”に掲載された内容である。
ここでの話は、遺伝子の上流に、場所を規定するDNAと量を規定するDNAがあり、これによって、虫の角の場所やサイズが決定される。
なおこれは、同じ親から生まれた子のDNAの比較ではなく、同じオオクワでも、例えば、台湾オオクワ、ホペイ、パリーオオクワなどが、サイズが違うのは、この遺伝子以外のDNA領域に関係していると理解したらいいのではなかろうか。
上の図では、DNAが変異して、場所を規定するDNAに新たに変化した場合(左下の図の場所2)には、角の数が増える。
また、量を規定するDNA自体が変異して、さらに増量するように変化すると(右下の図の“量”)、角が大きくなる。
このように、遺伝子以外の領域にも重要な機能がある。
そして、論文の最後の方で、やっとエンマコガネについての話が展開される。
ヒトやショウジョウバエのゲノムを構成するDNAの情報自体はすでに明らかになっている。
しかし、エンマコガネのゲノムの情報は、全く明らかになっていないため、次のようなアプローチで研究を効率的に行っている。
概要しか書かれていないが、まずはEST解析と言う手法で、機能している遺伝子をスクリーニング的に調べ、それにマイクロアレイを用いて、どの遺伝子がどれくらい発現しているかを一度に検出して解析している。
その結果、角(ツノ)形成で発現している遺伝子群とその発現パターンが、脚の形成でのパターンと類似していた。
ただこれらのパターンは、ぞれぞれの組織で全く同一というわけではなく、ツノは脚よりもさらに多くの共通する遺伝子を発現していることが分かった。
これは、ツノを形成するメカニズムがもしかしたら脚を形成する遺伝子のセットの一部を流用した可能性が示唆された。
これまでの研究の結果により、エンマコガネ属のツノは、どうやら他の器官の形成に必要に遺伝子のセットをそれほど手を加えずに流用しているかも知れないことと、いくつかの遺伝子については新しい使い道を増やすことの両方によってできている可能性があることが分かったようだ。
この遺伝子群のセットに使い方の模式図は下のものである。→のものは発現を促進し、先が平らなものは、発現を抑制している。
このように、遺伝子群の中にも、促進と抑制が入り混じり、全体として、複雑な制御がなされているようである。
(雑感)
この論文は、3番目の図の基になっているNatureでの論文の内容が鍵となると私は感じた。
しかし、参考文献の記載がなく、追跡できない点はもどかしく感じた。この論文は、きっと査読なしのエッセイみたいなものであろう。
エンマコガネに関する英語の論文は、20~30件は軽くありそうなので、総説を選んで、もう少し研究の全体像を把握する必要を感じた。
さて、私は3番目の図を見て、実は悩んでしまった。
複写依頼を白黒にしたせいもあり、カラーであれば分かったかも知れないが、白黒のため図の色の使い分けが分からなかったことが一番の原因である。
そこで、自分なりにカラーの表示にした。ポイントは赤丸のところである。
「場所」の特性を持つDNAである△について
場所の△の中の色は、全て白黒複写では同じ色に見えた。
この場合、上から右下への変化の場合は、同じ位置にツノが生えているので、問題ないと思うが、上から左下の場合は、両側に生えたツノは、単に「場所2」を追加しただけでは、両側に左右対称でツノは生えないと私は考える。
そのため、上のDNAの△の色と、左下のDNAの△の色とは異なる(DNAの配列が異なる)必要があると思う。
また、「場所」と「場所2」の△を同じ色ではない(DNAの配列が異なる)と考えて、敢えて別の色を割り当てた。
「量」の特性を持つDNAである六角形について
論文の図では、上の虫の角の色と、左下の虫の角の色が異なっていた。
これはおかしいと思った。
なぜなら、量に関する六角形のシンボルが同じ色であるからだ。
量が同じであれば、角のサイズは同じにして、なおかつ、色も同じにする必要があるるのではと思われる。
さてさて、この論文では、「場所」と「量」のDNAの話が出たが、「形」に関するDNAはないのだろうかと素朴に思う。オオクワガタのように左右対称の大あごのものがいれば、ギラファノコギリのように非対称にものもいる。これはどういったメカニズムなのか個人的には気になっている。
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